映画「カラオケ行こ!」…これは快作だ!! | チャコティの副長日誌

チャコティの副長日誌

主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2024年 製作国:日本 上映時間:107分



観ようか迷っていたところ、映画ブロ友じゃむまるさんのレビューを見たら、
いてもたってもいられなくなり、翌日に近所のシネコンで観賞実行.
本年度累積18本目の鑑賞.
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変声期に悩む合唱部の男子中学生と歌がうまくなりたいヤクザの交流を
コミカルに描いた和山やまの人気コミックを、綾野剛主演で実写映画化.

中学校で合唱部の部長を務める岡聡実は、ある日突然、見知らぬヤクザ
の成田狂児からカラオケに誘われる.戸惑う聡実に、狂児は歌のレッスンを
してほしいと依頼.

組長が主催するカラオケ大会で最下位になった者に待ち受ける恐怖の
罰ゲームを免れるため、どうしても歌がうまくならなければならない
のだという.

狂児の勝負曲は、X JAPANの「紅」.嫌々ながらも歌唱指導を引き受ける
羽目になった聡実は、カラオケを通じて少しずつ狂児と親しくなっていくが….

綾野が狂児を演じ、聡実役にはオーディションで選ばれた新星・齋藤潤を
抜てき.「リンダ リンダ リンダ」の山下敦弘監督がメガホンをとり、テレビ
ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の野木亜紀子が脚本を手がける.

以上は《映画.COM》から転載.
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原作コミックは未読.映画館の入場記念でポストカードをもらったが、
その画がコミック原作のものだった.シュルッとした絵でなかなかの好感度.
 

 

出てくるヤクザたちは気の良い連中で、コメディらしくデフォルメされていて
リアリティはない.だいたいが主人公狂児:綾野剛が極めて丁寧な言葉付き
だし、もの当たりもやさしい.時折見せる野蛮な振る舞いとの差異が面白い.

組長がカラオケ好きで組員にカラオケ競技を強いるという、そして最下位
の組員には組長自らが彫り物を施すという、更にその彫り物は本人が一番
嫌いなものがモチーフになるという、そのうえ組長は彫り物の技術が稚拙で
絵心もないという設定が笑える.ちなみにその組長は北村一輝が好演♪
 

 

一方、主人公の少年聡実が部長を務める合唱部は、全国大会に出場経験
がある部活としてはこじんまりしているのだが、中学生なりの上昇志向を
持った部員がいたりして、真面目で明るい部活とはこういう感じかと思う.
子供たちの中で生活している教師:芳根京子が子供っぽいのも面白い.

野木亜紀子の脚本は、コテコテではない共通語に近い?大阪弁で、軽い
掛け合いが程よく笑わせる.狂児のおはこ曲がなんとX-JAPANの「紅」
なのだが、聡実が英語歌詞の部分を大阪弁に訳したのがもう爆笑もの
なのだ.劇場内で声を出して笑ってしまった.
 

 

狂児はカラオケのレッスンを聡実に懇願するので、しぶしぶ、いやいやに
受けてしまうのだが、ここから聡実にとっては異次元のやくざの世界を
覗き見る面白さと聡実自身の問題が展開していく.

聡実の成長過程に付き物の声変わりでソプラノの声が出ないので、
コーラスに今一つ気合いが入らない.その事に真面目で正義感が強いが、
思考が幼い下級生:後聖人が反乱を起こすが、聡実に代わって対処する
副部長女子:八木美樹が包容力を見せたりと今どきの中学生らしく
大人びて洞察力に富んでいながら、思春期真っ只中の面映ゆい健全さが
あって、瑞々しいと感じた.

また聡実が幽霊部員も兼ねている「映画をみる部」に逃避するのが、
映画好きの心をくすぐる.放課後部室を暗くしてVHSのクラシック映画を
毎日観ているという幸福な部活…たった一人の正規部員:井澤徹が淡々と
していて、聡実が逃避場所に選ぶ気持ちが理解出来る.
その部のビデオデッキが壊れていて巻き戻しが出来なくて、一回観ると
二度と観直せないという設定が泣かせるのだ.

結末は聡実の3年生最後の演奏会と狂児のカラオケ競技会が同一日に
開催されるという設定でどきどきさせられる.果たして聡実は歌うことが
できるのか? 狂児は無事刺青を避けられるか??

ところが期待を裏切るどんでん返しとも言えるし、本末転倒のトンデモ展開
とも言える結末が待っていた….

狂児と聡実の友情物語は過剰に発展することはない.
狂児は、ほんのチョット真面目な中学生に癒やされたかったのかもしれない.
だが、距離を保つべきだと知っていたのだ.聡実にとっては特異で貴重な
経験ではあったが、それによって彼が成長するワケではない.

健全な中学生の生活をヤクザ屋さんとの付き合いで惑わせるようなことは
しない物語展開に、好感が持てた.これは快作だ.

ただ狂児が、聡実が、そしてラストチューンで嫌いなLittle Glee Monsterが
歌ったX-JAPANの「紅」が耳に残ってしまい、いまでも耳鳴りのように聞こえて
くるのは…参った(笑).