映画「カード・カウンター」 (再びDVDで)…これもアメリカの病巣. | チャコティの副長日誌

チャコティの副長日誌

主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:The Card Counter 製作年:2022年
製作国:アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン合作 上映時間:112分


レンタル屋の新作棚に並んだ本作.題名にも主役にも覚えがある.
たしか観たはずだが、中味に記憶が無い.悩んだ末に借りてきてしまった.
観始めて15分、見事に中味の記憶が甦ってきた…昨年夏に劇場鑑賞
した作品であった.
だんだんこういうことが増えてくるのだろうな、という恐怖を感じながら、
本年度累積14本目の鑑賞.
———————————————————————

「タクシードライバー」の脚本家ポール・シュレイダーが監督・脚本、マーティン・
スコセッシが製作総指揮を手がけ、孤独なギャンブラーの復讐と贖罪の行方を
描いたスリラー.

元上等兵ウィリアム・テルはアブグレイブ捕虜収容所における特殊作戦で罪を
犯して投獄され、出所後はギャンブラーとして生計を立てている.罪の意識に
さいなまれ続けてきた彼は、ついに自らの過去と向きあうことを決意するが….

オスカー・アイザックが主演を務め、徐々に追い詰められ復讐へと駆り立て
られていくミステリアスな男ウィリアムを演じる.

ギャンブルブローカー役で「アンクル・ドリュー」のティファニー・ハディッシュ、
ウィリアムと擬似父子のような関係を築く青年役で「レディ・プレイヤー1」の
タイ・シェリダン、物語の鍵を握るウィリアムの元上司役でウィレム・デフォー
が出演.
2021年・第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品.

以上は《映画.COM》から転載.
————————————————————————


記憶に無かった理由の一つに、題名が体を表していないからだと思った.
カードゲームの話しで、スコセッシ監督の「ハスラー2」とか「カジノ」の
イメージを思いがちなのだが、もちろんカジノがほとんどの舞台で、
ブラックジャックやポーカーは出てくるのだが、本作の本質はそこにない.

むしろ、ポール・シュレイダーによる帰還兵のトラウマものでもあり、
「タクシードライバー」との相似性を想起せざるを得ない.

主人公の元上等兵ウィリアム・テル:オスカー・アイザックは、アブグレイブ
捕虜収容所での特殊作戦の罪で投獄され、出所後はギャンブラーとして
生計を立てているが、罪の意識にさいなまれ続けている.

その罪とはグアンタナモ収容所でのアラブ兵への拷問行為で、罪に問われ、
服役するが、実はこの逮捕劇は仕組まれていたもので、かつての上司ゴード
に濡れ衣を着せられたものであった.これらのシーンは魚眼レンズで表現され
また独特の陰惨さが見せつけられる.

ウィルはどうやら戦場(というか収容所)から持ち帰ってしまった狂気を、
日々の暮らしぶり(真っ白い部屋)や抑制されたギャンブル暮らしでどうにか
逸らし飼い慣らしていることが分かる.カジノでも目立つことなく小さく賭けて
小さく勝つをモットーとして地味に稼いでいた.
 

 

そこに弟子というか元同僚の息子カーク:タイ・シェリダンが登場し、
運命の出会いが訪れる.ウィルと同じ父の汚名を晴らしたいと考えるカーク、
同じく裏に闇を抱えた相棒とのカジノ巡りをしていく中で、ウィルは
カーク支援の気持ちが芽生えてくる.

カークは大学中退で学資借金があり、その母もまた多大な借金を抱えていた.
その費用を捻出すべく、ウィルは一度は断ったブローカーのリンダ:ティファニー・
ハディッシュの誘いに乗り、大きな大会に出場する.
 

 

他人の痛みは、完全には理解出来ない.自分の為に、誰かを救うという名目で
過去に犯した罪やトラウマを乗り越えようとしたのだろうか.ウィルは勝ち抜いていき
巨額のキャッシュを得る.そしてそれをカークに渡そうとする.

唯一の条件はカーク自身が母親と顔を合わせること.カークと母の再会の
連絡を待つウィルであったが、着た連絡はなんとカークが宿敵ゴードの自宅
を訪れているいう内容であった.案の定襲おうとしたゴードに返り討ちに遭い、
カークは射殺されたことをウィルはニュースで知る….

これが彼なりの贖罪だったはずが、逆にその関係が復讐をさせる皮肉.
カークとウィルが出会わなければ、お互いに実行まで至れなかったかもしれない.
ニュースで済まされるカークの顛末も含め、物哀しいものがある.
 

 

大会の決勝の真っ最中にも拘わらず、ウィルは抜けだしゴードの自宅に向かう.
最終的には、殺人を犯す形で復讐を果たし、罪の意識から自ら通報して
またも以前と同じ刑務所に収監されるところで終わる.

不器用にしか生きられない主人公の生きざまを見る映画であり、
最後に、自分も傷つく選択をしたのがせめてもの贖罪だったのか.
アメリカのひとつの病巣を描いてる.