映画「アナログ」…あざとい原作をさらりと魅せる. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2023年 製作国:日本 上映時間:120分



原作ビートたけしと言うのも奇異なのだけど、ヒロイン波瑠に惹かれて
観てみたラブ・ストーリーもの.近所のシネコンで本年度累積235本目の観賞.
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ビートたけしが初めて書きあげた恋愛小説「アナログ」を映画化し、二宮和也
が主演、波瑠がヒロインを務めたラブストーリー.

手作りや手書きにこだわるデザイナーの水島悟は、自身が内装を手がけた
喫茶店「ピアノ」で、小さな商社に勤める謎めいた女性・美春みゆきと出会う.

自分と似た価値観のみゆきにひかれた悟は意を決して連絡先を聞くが、
彼女は携帯電話を持っていないという.そこで2人は連絡先を交換する
代わりに、毎週木曜日に「ピアノ」で会う約束を交わす.

会える時間を大切にして丁寧に関係を紡いでいく悟とみゆき.しかし悟が
プロポーズを決意した矢先、みゆきは突然姿を消してしまう.

「鳩の撃退法」「ホテル ビーナス」のタカハタ秀太監督がメガホンをとり、
「宮本から君へ」「MOTHER マザー」の港岳彦が脚本を手がけた.

以上は《映画.COM》から転載.
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ビートたけしのストーリーテラーとしての才能を実感する原作.極めてベタな
内容なれど、起承転結や小道具の使い方も含め、好くできた原作だ.
切ないラブストーリー.携帯電話が常識となっている現代において携帯電話
を持たない女性との恋愛を上手く描いている.

会えない時間がより一層、相手を思う気持ち、そして“大切な人に会いたい”
という喜びを育んでいく….原作小説が発表された2017年から、コロナ禍を
経た今だからこそ、こんな古くさいテーマが受けるのかもしれない.
 

 

時代と逆行して、手作り、手書きに拘る内装デザイナー水島悟:二宮和也は、
自分が内装設計した喫茶店ピアノで、悟の内装センスを褒める不思議な魅力
を持つ女性・美春みゆき:波瑠に出会う.母の形見のバッグを誉める悟に
みゆきも興味と好意をもつ….

彼女は小さな商社で働いていた.悟はみゆきに惹かれ連絡先を交換しようと
するが、みゆきは携帯電話を持っていなかった.二人は毎週木曜日にピアノ
で会う約束をする.二人は徐々に親密度を増し丁寧に愛を育んでいく.
そして、悟がプロポーズを決意した木曜日に、みゆきは忽然と姿を消す….

みゆきが携帯電話を持っていない、二人が会えるのは木曜日だけという設定
は限りなく古臭いのだけど、作品としては奏を功している.
会えない六日間が二人の愛の熟成を促進している.連絡が取れないことが、
相手を想うことになり、二人の愛を深めていくさまが淡々と描かれる.
 

 

 

波瑠が品のある物静かな佇まい、落ち着いた台詞回しで、謎めいた雰囲気の
みゆきを好演している.彼女ならではの演技かも知れない.
二宮和也は、仕事はできるが上司に手柄を横取りされてしまう人の良い悟を
上手い演技で演ずる.ジャニーズ系では屈指の演技上手であろう.
終盤のみゆきへの想いを語るシーンが感動的であり涙を誘う.

二人を取り巻く豪華俳優陣も役どころを心得た演技で作品を支えている.
特に、悟の入院中の母親役・高橋惠子の人生経験豊富なアドバイスや、
悟の親友役・桐谷健太、浜野謙太の悟との熱い友情表現はほどよい作品への
味付けになっている.
また喫茶店ピアノのマスター役・リリーフランキーの二人を終始見守る暖かな
眼差しの演技も台詞は少ないが印象に残る好演だ.

終盤に判明する、突然消えたみゆきの行方は、この手の作品の定番であるが、
観客の感情を煽るような劇的展開にはせず、淡々と進行していく.
何が人と人を引き裂くかわからない、人生の不確実性と、それに負けない人の心
を最後に提示する所がまた古典的…、読めちゃうね.

最後の最期に、みゆきの障害が回復する兆しが見えて、思い出の海で語った
「きょう、もくようび」という言葉は泣かせのシーン、ビートたけしあざとすぎる(笑).

観終わって、良い映画を観たという印象が残る.
出会いから着実に熟成していく愛の物語を程よいテンポで丁寧に描いている.
自然に作品世界に入ることができ、心地良く観ることができる.

あざとい原作をさらりと料理してみせたタカハタ秀太監督の手腕によるものだろう.


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