すずの創作物語 -25ページ目
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恋の始まり 3

屋上へ上がった。

風が気持ちいい。


「9年か・・・」


~~10年前~~

私は20歳の医学部の学生だった。

同じ大学の法学部に吉岡 雅人はいた。

知り合ったのはたまたま、法学部にいた友達と食堂でご飯を食べていると、友達にノートを返しに私たちのところへ来た雅人と一緒にランチすることになったのがきっかけだった。


それから、ちょこちょこ一緒に食事をしたり遊んだりするようになった。


「かおりちゃんさ、クリスマス予定ある?」

12月に入って少しして、雅人に聞かれた。

「別にないけど?」

「じゃあさ、二人でクリスマスどっか行かない?」

「いいけど・・・二人?」

「二人じゃまずい?」

「別にまずくはないけど・・・」

「じゃあ決まりね。24日、どこか行こう!また時間とか待ち合わせとか連絡するね。」


そしてクリスマス・・・

大学の近くのカフェでお昼に待ち合わせ。と雅人に言われ、カフェで待っていた。

「かおりちゃん、ごめんごめん。待った?」

「全然大丈夫だよ。」

「じゃあ行こうか!」

「どこに?」

「遊園地!」

「遊園地?」


遊園地で二人で散々遊んだあと、近くの海沿いを散歩していた。


「かおりちゃんさ・・・オレ、かおりちゃんのことが好きなんだ。

オレと付き合ってくれないかな?」

「え・・・。私?

気持ちは嬉しいんだけど、これからどんどん勉強も忙しくなるし、時間もないかもしれないし。」

「医学部だもんね。大変なのは分かってる。勉強の邪魔になるようなことはしない。

でも、オレ、ちょっとでもかおりちゃんと一緒にいたい。だから、オレと付き合って欲しい。」


私は、うなずいた。


雅人はにっこり笑って、「よかった~」と言って私を抱きしめた。


それから私たちは付き合い始めた。

楽しかった。

勉強も頑張った。

雅人も応援してくれた。

幸せだった。この幸せが続けばいいなと思った。


付き合って一年くらいがたった頃、本屋にいた私がふと外を見ると、

「雅人?」

知らない女の子と歩いてる雅人がいた。


翌日、雅人を呼び出した。

「昨日、女の子と一緒に歩いてるの見たんだけど、なに?」


一瞬、ギョッとした顔をした雅人は

「ああ・・・友達。なんでもないよ。」

「なんでもなくても、二人で楽しそうに歩いてるのみたら、いい気持ちしないよ?いやだよ。」

「なんでもないんだから、いいだろ!」

「だから、よくない!」

「そんなこと言っても、お前は勉強勉強で会う時間もなかなかないだろ!?」

「それは最初から分かってることでしょ!それでもいいって言ったじゃない!今さらなんでそんなこと言うのよ!」

「分かってても、もう少し会えるかと思ったんだよ!中学や高校の付き合い方じゃあるまいし!」

「だから、他の女の子と会うんだ?!」

「ああそうだよ!オレのこと好きって言ってくれて、いつでも会えて、そういう方がよっぽどいいね!」


ショックだった・・・。

言い過ぎたと思ったのか雅人は

「いや・・・でも・・・浮気って・・・いうわけじゃ・・・」


「・・・もういいよ・・・よく分かった・・・私じゃダメなんだよ・・・終わりにしよ・・・バイバイ・・・」


「かおり!待てよ!」

後ろから呼ぶ声が聞こえる。でも、私は振り返らなかった。

泣きそうだったから。そんな顔見られたくない。

もう、終わりだ。でも、雅人のこと、本当に好きだった。


何度も雅人から携帯がかかってきた。メールも来た。

もう一度、ちゃんと話そうというメール。

私は全部無視した。話したらまた感情的になってしまう。終わりっていったら終わり。

そう言い聞かせた。


何日かたって、大学で「岡本さんですよね?」

と呼び止められた。振り返ると、女の子が立っていた。

その子は、前に雅人と一緒に歩いていた女の子だった。

「そうですけど・・・何か?」

「吉岡君と付き合ってるんですよね?」

「もう、別れたけど、何で?」

「私、吉岡君とゼミが一緒で、ずっと吉岡君のことが好きだったんです。ちょっといい感じになってきたなと思っていて、でも彼女がいるって聞いて、どうしたらいいか分からなくて。

噂では別れたって聞いたんだけど、吉岡君に聞いても何も言ってくれなくて。あいまいな態度をあなたが取ってて、吉岡君が揺れてるなら、ちゃんと別れて欲しいと思って。」


「・・・私と雅人のことはあなたには関係ない。あなたにどうこう言われたくない。あなたが雅人のこと好きなのも勝手。二人がどうだろうと私には関係ない。そんなことで私に関わらないで。」

私は怒りに震えてた。

自分で雅人とは終わりだと決めた。でも好きだった人と別れて、すぐに平気でいられるわけもなくて、ここ最近はずっと落ち込んでいて。それなのになんでまた、こんなことを言われないといけないのか・・・。


そのとき、

「何してるんだよ?!」

と雅人が走ってきた。

私の友達がこの状況を見て、雅人に連絡したらしい。

「吉岡君。私、前も言ったけど、吉岡君が好き。でも、この人があいまいな態度を取って、それで吉岡君が揺れてるなら、きちんとしてもらったほうが吉岡君もしんどい思いしなくていいと思って。」

「勝手なことするなよ!関係ないだろ!」

「かおり・・・ごめんな。」

「私、雅人とは終わりにしようって言ったよね。もう決めたし。でもこれだけは言っとく。私、雅人が好きだったよ。一緒にいて幸せだったよ。それだけ。もうこんなことに巻きこまないで・・・。」

「ごめん・・・。」


私はその場から立ち去った。


雅人とはそれきりだ。


私は医学部に入るために一生懸命勉強して、中学高校も恋愛とは無縁だった。

大学に入っても、雅人と出会うまでは、恋愛なんてしていなかった。

だから、雅人と付き合うようになって、世界が変わった気がした。

幸せだった。

でも、その恋は終わってしまった。

私がもっと、心広くて、女の子と一緒にいることくらい許してしまえば、また何か違ったのかもしれない。

でも、それよりも、会う時間がないと、他の子のほうがよっぽどいいと言われたことが私には許せなかった。


この恋以来、今まで私は恋愛をしていない。

医者になるために。医者になってからは、救命救急で一人でも多くの命を助けるために、とにかくがむしゃらに突き進んできた。


まさか、こんな形で雅人と再会するなんて。

9年前別れたときと同じ言葉を、まさか病室で聞くなんて。


「はあ・・・」


そのとき携帯が鳴った。






恋の始まり 2

急患が運ばれてきた。


「患者の名前は吉岡 雅人さん。31歳。横断歩道を渡っているときに赤信号で突っ込んできた車にはねられたそうです。

こちらに搬送途中に何度か心肺停止しましたが、心臓マッサージなどで蘇生しました。」


一気に状況説明する、救急隊員。


私は説明を聞き始めて「え?」

と搬送されてきた患者さんの顔を覗き込んだ。


そして一瞬立ちすくんだ。


「かおり先生?」と橋本君の呼ぶ声に我に返った。


「あっ、すぐ処置室に運んで、ライン確保!すぐにレントゲンとCT準備!」

「はい!」


すぐに患者を調べる。全身打撲に骨折も何箇所も。

そして、致命的なのは、内臓破裂だった。


今から緊急オペをしても助かる確率はかなり低い・・・。でも、このままじゃ確実に助からない。

わずかな望みにかけて、緊急オペをすることに。

でも、今日は急患が多くて、他の先生はみんな処置やオペに入っている。


「橋本君。オペに入れるのは、私とあなたしかいない。あなたがきちんと助手をこなせないと、オペはできない。

できるわね?」

「はい。大丈夫です。」


そして、オペが始まった・・・。冷静に、丁寧に、でも迅速に。

橋本君は助手としてきちんと仕事をやってのけた。


患者さんの意識はまだない。でも、オペで出来ることは全てやってオペは終了した。


オペ室を出ると「先生!吉岡 雅人の両親です!息子はどうなんですか?!」

と患者さんのご両親が駆け寄ってきた。


「かなり危険な状態です。オペで出来ることはすべてやりました。なんとか意識が戻ってくれたらいいのですが・・・。」

私は今かなり危険な状態であることを伝えるしかなかった。


「なんとか助かって・・・」私は一人廊下を歩きながら、無意識につぶやいていた。


集中治療室に吉岡さんが運ばれ、橋本君は患者さんの様子をずっとチェックしていた。


意識が戻らないまま数日が過ぎた。


「かおり先生!吉岡さんの意識が戻りそうです!」

橋本君が医局に飛び込んできた。


二人で病室へ急いで行ってみると、患者さんにかすかに反応が見られる。

「吉岡さん分かりますか?吉岡さん?」

まぶたがかすかに動いている。

「橋本君、ご両親に連絡してきてくれる?」

「はい!」と病室を飛び出していった。


「吉岡さん、分かりますか?病院ですよ?」

何度も呼びかけると、うっすらと患者さんが目を開けた。


「ここは・・・?」

「病院ですよ。交通事故にあってこの病院に運ばれてきたんです。かなり危険な状態でした。」

「事故・・・?ああそうだ・・・車が突っ込んできて・・・。ああ・・・全身が・・・痛い・・・・」

「骨折しています。内臓破裂で手術もしていますし。痛みはしばらく続くと思います。できるだけ痛みをとれるように治療していきますから、遠慮なくいってくださいね。」


「先生、ご両親すぐに来られるそうです。」と橋本君が戻ってきた。

「そう。じゃあ、あとでCTの検査だけするから、手配しといてね。

吉岡さん、またあとで来ますね。」


病室を出た。


数時間後の検査結果で、意識は戻ったものの、吉岡さんの状態は厳しいことに変わりなかった。

ご両親にいつ急変してもおかしくない状況だということを説明する。

ご両親は「意識が戻って、よかったと思っていたのに・・・。」と涙を流す。

「意識が戻ったのは、奇跡かもしれません。このままなんとかいい方向に行ってくれたらいいのですが。

もちろん全力で治療に当たらせていただきます。」

「よろしくお願いします・・・」


深夜。

私は吉岡さんの病室へ様子を見に行った。

ドアを開けて、そっと入る。そばへ寄ると

「かおり・・・?」と吉岡さんがささやいた。

「分かってたんだ?」

「いや・・・いつもマスクしてるから分からなかった。なんか似てるなとはちょっと思ってたんだけど」

「そっか、ここで医者してるんだ。何年ぶりかな?」

「9年くらいかな?」

「まさか、かおりに診てもらうことになるなんてな・・・。もうすっかり、凄腕ドクターって感じだな。橋本先生だっけ。

岡本先生はいい先生です!ってよく言ってるよ。」

「そんなことないよ。まだまだだよ。」

「9年か・・・時々かおりのこと思い出してたよ。どうしてるかなあって。あんな終わり方だったし・・・」

「うん・・・」


その時、携帯が鳴った。

「かおり先生、急患です。お願いします。」

「了解。すぐ行く。

じゃあ、また様子見に来るので、何かあればナースコール鳴らしてくださいね。」

「はい。先生。

かおり・・・ずっと言えなかったけど、ゴメンな本当に。」

「・・・」


病室を出て、処置室へ急ぐ。

「ゴメンな・・・か・・・」


急患の処置が終わり、医局に戻ると橋本君がいた。

「橋本君、ちょっと席外してるから、何かあったら携帯鳴らしてくれる?」

「はい、分かりました。」


私は一人になりたくて屋上へ上がった。


恋の始まり

「おはようございまーす」

医局のドアを開ける。

「かおり先生おはよう。久しぶりに家から出勤したって感じ?」と医局長。

「そうですよ・・・5日ぶりに家のベッドで寝ました・・・。ずっと病院泊まりでしたからね・・・。昨日の夜の急患はどうでした?」

「いつもと変わらずかな。カルテまた見といてよ」

「分かりました。患者さん見てきますね。」


岡本かおり。30歳。救命救急医として大学病院の救命救急センターで働いている。

日々仕事に追われ、家に帰ることもままならず・・・体はきつい。

でも、私はこの仕事を大切に思ってる。


「かおり先生、今日から研修医が一人くるんだけど、指導医頼むね。」とまた医局長。

「私ですか?なんか・・・前の研修医も指導医したような気がするんですけど?」


「橋本 健司といいます。きょうからこちらでお世話になります、研修医です。よろしくお願いします。」

私のデスクの横に立ったのは、結構かわいい顔をした研修医だった。


「指導医の岡本です。みんな、かおり先生って呼ぶから橋本くんもかおり先生でいいよ。救命はきついけど頑張ってね。」

「はい!よろしくおねがいします。」


その時、急患が運ばれてきた。

処置に向う私の後ろを、研修医が追いかけてくる。でも・・・運ばれてきた患者さんは交通事故で重症。

血まみれの患者さんをみて、気分が悪くなったようで、卒倒している研修医。

そのまま近くにあったストレッチャーに寝かせてほっといた。


「あの・・・かおり先生・・・すいませんでした。」

目を覚ました研修医がおずおずと誤りにきた。

「橋本君さ、今までいくつかの科は研修で回ってきたんだよね?血をみるのがダメって、医者として致命的だと思うんだけど、今までどうしてたわけ?」

「外科とか、麻酔科でオペ室に入る機会はあったんですけど、大体気分悪くなったりしていました。色んな先生に怒られてきました。」

「だよね・・・。オペ室で倒れるなんて迷惑このうえないもんね。あなたは将来どの科のドクターになるつもりなわけ?」

「僕は、救命救急医を目指してるんです。」

「は??!!今の状況じゃ、救命なんて絶対無理でしょう!どれだけ重症な患者さんが運ばれてくるかも分からないのに、血がダメな人に出来るわけないじゃない!」

「これから、克服するように頑張ります。僕は救命で働きたいと本気で思っているんです。」

「まあ・・・じゃあ・・・克服できるように頑張って・・・。こればっかりは、指導してどうこうなるものでもないし。あなた次第の問題だからね。」


なんか・・・とんでもない研修医の指導医になったような・・・。前途多難とはこのことかな・・・。


正直私は、この研修医が救命で働くのは絶対無理だと思っていた。でも彼の頑張りはすごかった。

緊急オペにもほかのドクターの執刀のときでも時間があれば見学に行き、血が平気になるようにとにかく見て慣れようと努力していた。

卒倒することも最初の数回だけで、それ以来倒れることはなくなった。


医局のみんなが出払って、部屋には私と橋本君のふたりだったある日、

「先生、カルテ整理できました。コーヒー入れますけど、先生もどうですか?」と橋本君。

「うん。ありがとう。」

ちょっと休憩がてら、二人でコーヒータイムを取ることに。


「前から聞きたかったんだけどさ、橋本君はなんで救命を目指してるわけ?」

「・・・・」

「ああ、言いたくなかったらいいんだよ。」

「オレ・・・親父を事故でなくしてるんです。交通事故にあった親父は、救急車の受け入れ先がなかなか見つからなくて、手遅れで死にました。その時オレ、小学生で・・・事故のとき親父と一緒にいたんです。血まみれの親父の横で、ずっと泣いてました。血がダメなのはそのときのことを思い出してしまうからなんです。

でも、親父が、病院で受け入れてもらえなかったのって、医者不足もあるっていうのを聞いて、一人でも医者が増えればって思って、医者になろうって小学生のときに心に決めたんです。

それからはめちゃくちゃ勉強しました。絶対なるって決めたから。

ここの病院は、親父を受け入れてくれた病院なんです。なんとか助けようと先生方は親父に最期まで必死で治療をしてくれました。その姿も忘れられないんです。

だから、この大学の医学部を選んだし、この病院で研修を受けようときめてたんです。

こんなトラウマ持ってたら、医者としてはダメだって分かってるんですけど。」

「そっか・・・。そんなことがあったんだ・・・。ごめんね、辛いこと思い出させて。でも、大分血も克服出来てきてるし、急患に対する処置も対処出来るようになってきたし、かなり進歩なんじゃない?もう三ヶ月たったけどね。」

「三ヶ月もたったんですね・・・かかりすぎですね。それにここまでなったのは、かおり先生が指導医としてきちんと指導してくれたおかげです。」

「そうかもね~」

二人で笑いあった。

研修医の知らなかった一面。そんな悲しいことを抱えて、医者の道に進んだんだ。頑張ってるんだ。そう思うと橋本君がなんだかまぶしく見えた。


橋本君は救命救急医を目指して、どんどん進歩していった。

私も彼をきちんとした救命救急医になって夢をかなえてもらおうと、指導医として、一生懸命指導した。


私と橋本君のコンビはなかなか息の合った、いいコンビになっていった。


そんなある日。新たに急患の受け入れ要請がきた。


「交通事故による重症患者の受け入れを要請します。

現在心拍微弱です。受け入れてもらえますか?」


「受け入れOKです。すぐに搬送してください。」


数分後・・・瀕死の重傷を負った患者が病院に運ばれてきた。




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