すずの創作物語 -24ページ目

もしもあの時… 1

結婚して一年がたった。
平凡だけど、さほど不満もない日々。
でも、ふと頭をよぎるときがある。

「もしも、あの時…」
今更考えても仕方ないのに…。


その人は、高校のクラブの先輩だった。
私はマネージャー。
毎日バカな話ばかりしてたり、廊下ですれ違ったらちょっかい出してきたり、仲のいい先輩だった。

私は彼氏がいたし、後輩が先輩のことを好きだったりして、特に恋愛感情とかもなかった。

2人とも高校を卒業し、数年がたって、お互い社会人になっていた。
卒業後もクラブのメンバーで遊びに行ったり、付き合いは続いていた。

ある日、「どっか遊びに行こう」と電話がかかってきて、2人でドライブに行くことになった。

買い物したりしながらブラブラして車に戻るとき、暑いから先に冷やしとくと言って何かボタンを押したら離れたところに止めてた車のエンジンがかかったことにビックリして「スゴい!」を連発してた私に笑いながら、「そんなの、いつでも見せたるわ」と頭をくしゃっとなでられたことに、なんだかドキッとした。
ご飯を食べて、夜景でも見に行くかっと、車を走らせて、すごくキレイな夜景が見える場所に連れて行ってくれた。

恋の始まり 5

橋本君の救命救急での研修の最終日。

夕方までの日勤が終わった。今日は夜勤はなしでこれで終了。

私は夜勤で病院泊まりだけど。


「かおり先生、今までお世話になりました。ありがとうございました。」

「うん。お疲れ様。残りの研修も頑張ってね。まあ同じ病院だし、どっかで会うだろうけど。」

「はい。また先生に会えるの楽しみにしています。」


そう言って橋本君は帰っていった。


夜になって、医局で急患に備えて待機しながらカルテのチェックをしていた。

ふと、引き出しをあけると、見慣れない袋が入っていた。

中身は、夜勤に必需品のカロリーメイトがいっぱいと、封筒だった。

封筒は・・・橋本くんからの手紙だった。


「かおり先生。

今までお世話になりました。こんなどうしようもない僕を指導してくれるのは、大変だったのではないでしょうか。

でも、先生のお陰で、救命の研修を無事に終えることができました。

僕は、前に先生に話した、救命救急医になるという夢を必ずかなえようと、この研修で改めて思いました。

先生が流した涙の意味もきちんと考えようと思っています。

自分が医者でありながら、大切な人を助けられない辛さなどを。

その覚悟を持って、救命に戻ってきたいと思っています。

この病院の救命に。

かおり先生の同僚となれるように。


そして・・・僕はかおり先生を愛しています。

僕が医者として、救命に戻ったら、同僚としてだけじゃなく、彼氏としても見てもらえたら・・・

なんて、淡い望みを抱いています。


今まで、ありがとうございました。

                                            橋本 健司」


橋本君からのラブレターだった。


「・・・ありがと」


嬉しかった。

こんな気持ちになったのは久しぶりだった。

これは・・・私も橋本君のこと気になってるのかな?

でも・・・彼は5つも年下で・・・。

なんて考えてしまった。


ここに本当に戻ってくるかも分からない。戻ってきたとしても、それまでまだ時間がある。気が変わるかもしれない。あまり考えないでおこう。


傷つくのが怖かった。


私は、仕事に打ち込んだ。何も考えなくていいように。


~~数ヵ月後~~

「あ、かおり先生、今日からドクター一人増えるからね。」と医局長。

「そうなんですか?最近ますます忙しいから助かりますね。」


ガチャっと医局のドアが開いて、現れたのは、橋本君だった。

「今日から、こちらでお世話になります。橋本です。よろしくお願いします。」


医局の皆は「おっ、帰ってきたか!」と大歓迎。

私はそんなみんなを少し離れたところから見つめていた。


夕方、私は夜勤に入る前の束の間の休息に屋上にいた。

外の風に当たるのが一番気分転換になる。

「夢かなえたんだ・・・。本当に帰ってきたんだ・・・」

そうつぶやいた。


「かおり先生?」


振り返ると、橋本君の姿があった。


「橋本先生。お疲れ様」

「橋本先生?って言いました?」

「そりゃそうよ。もう指導医でもないし、同僚なんだから、橋本センセイでしょ。」

なんだか照れた感じの橋本君。


「かおり先生・・・。オレ、先生のこと迎えに来ました。」

「え?」

「オレは、あの研修のころから、ずっとかおり先生が好きでした。今も変わりません。先生を愛しています。だから、ずっと一緒にいてください。」


「橋本くん・・・私、橋本君より5つも年上だよ?」

「関係ないです。」

「私、酔っ払うと潰れるよ?」

「知ってます。」

「結構泣き虫だし、弱いところもあるよ。」

「オレが、一緒に受け止めます。」

「私・・・」

そう言いかけたら、橋本君がギュッと私を抱きしめた。

「全部ひっくるめて、かおり先生が好きなんです。」


「橋本君・・・私のそばにいてね。」


彼は、私を見つめてにっこり笑ってうなずいた。

そして、もう一度、ギュッと抱きしめて、キスをした。


今日からが、私と彼の恋の始まり。



今日も救命救急は戦場だ。

「かおり先生!急患お願いします!」

「健司先生!ICUの患者さん急変です!」

私たちは、一人で多くの命を助けようと、頑張っている。

無力感に襲われたり、落ち込むことも多々あるけど。

そんな色んな事を、私と健司は一緒に乗り越えながら過ごしてきた。

そして今、病院では、「かおり先生」「健司先生」と呼ばれている。

名字が一緒になったから。

私たちは結婚した。


屋上から始まった恋は、今も私を幸せにしてくれている。

私たち夫婦にとってあの屋上は、今でも大切な憩いの場所だ。


この幸せがずっと続くことを願って、毎日を健司と一緒に大切に過ごしていこう。


                                                        完

恋の始まり 4

携帯が鳴っている。

急患かな?と電話の出る。


「かおり先生!橋本です。

吉岡さんの容態が急変しました。意識不明です。すぐ来て下さい。」

「分かった。すぐ行く。」


雅人・・・。私は病室へ走った。


病室へ飛び込むと、人工呼吸器を付けられた雅人がいた。

心電図モニターに目をやると、その瞬間、心電図が一本の線になった。


私はすぐに心臓マッサージをした。

電気ショックもかけた。


心の中で、「雅人、雅人」とひたすら呼び続けながら。


雅人の心臓が再び動き出すことはなかった・・・。


「ご臨終です」

そう、ご両親に告げた・・・。


病室を出た私はいたたまれず、再び屋上へ駆け上がった。

後ろから「かおり先生?」と呼ぶ橋本くんの声が聞こえた。


屋上に駆け上がった私は、その場にしゃがみこんで思いっきり泣いた。

泣いて泣いて泣きまくった。

しばらくして、


「かおり先生・・・?」

顔を上げると、橋本君が立っていた。


「先生・・・吉岡さんと知り合いだったんですか?」

「へ?」

「この前、吉岡さんが独り言のように言ってたんです。かおりは変わってないなあって。」

「そう・・・。吉岡さんは、私が大学時代に付き合ってた人なの・・・。

9年ぶりに再会したのがこんな形で・・・。」


「助けたかった。私・・・雅人を助けられなかった・・・。

医者になったのに・・・。私のところへ運ばれてきたのに・・・。助けられなかった・・・。」

橋本君の前だったけど、涙をこらえることが出来なかった。


「助けたかったよ・・・。」

そのとき橋本くんがギュッと私を抱きしめた。

「先生・・・我慢せずに泣いていいですよ。オレじゃ頼りにならないだろうけど、オレ、先生のそばにいますから。」

抱きしめたまま、橋本君が言った。

私は、その言葉に我慢できずに彼の胸を借りて思いっきり泣いた。


少し落ち着いた私は、下に降りた。

雅人の病室では、ご両親が病院を出る準備をしていた。

「先生、ありがとうございました。」

そう言って、頭を下げられるご両親。

私は頭を下げ返すことしか出来なかった。


雅人は、ご両親と一緒に病院から家へ帰っていった。


お通夜もお葬式も行かなかった。


私は、昔雅人の恋人だったけど、今は雅人の最期を見届けた医者だったから。


雅人が亡くなって一週間ぐらいが経った頃、

「かおり先生、今日日勤ですよね?僕も日勤なんです。急患とか入らなかったら、帰り食事でもどうですか?」

と、橋本君。

あれ以来気を使ってくれてるのが分かって、なんだか申し訳ない・・・。

「うん。急患が入らなかったらね。」



夕方、私と橋本君は居酒屋にいた。

「橋本君、先にちゃんと言わせてね。この前はありがとう。あんな姿を見せてしまったのは指導医として失格だと思ってる。申し訳ない。でも、一人の人間としては、あの時橋本君がそばにいるって言ってくれたのは、すごく救われた。本当にありがとう。」


「先生・・・。そんな、いいんです。指導医失格なんて言わないで下さい。オレが少しでも先生の救いになれたなら、オレはそれだけで嬉しいです。今日は飲みましょう。明日休みですし。休みなんていつ以来ですかね?しかも二人して休んでいいなんて、医局長もどうしちゃったんですかね?」

そう明るくいいながら、何食べようかなあ~とメニューとにらめっこしてる橋本君を見てると、私も自然に笑顔になった。


数時間後、私はベロベロに酔っ払ってしまったようで・・・

橋本君にタクシーに乗せられ、

「先生、家まで説明してくださいよ。先生!」

「えっとね~」

と言ったまま寝てしまったらしい。

「先生、寝ないで!もう・・・カバン開けますよ。住所見せてくださいね!」

と寝てる私に言って、住所を調べて、家まで送ってくれたようで・・・一向に起きない私をおんぶしてベッドまで運んでくれたらしい。



朝・・・私が目を覚ますと、ベッドの横で座ったまま突っ伏して寝てる橋本君が。

「は・・・はしもと君?!」

「あ・・・先生、おはようございます。大丈夫ですか?二日酔いじゃないですか?」

「私・・・酔いつぶれたとか?全然記憶ないんだけど?」

「記憶ないんですか?先生かなり飲んで、酔いつぶれて寝ちゃったんですよ。なんで、カバン開けさせてもらって住所調べて、鍵借りて、ベッドまで運んだんです。一応、寝てる先生にカバン開けさせてもらいますよって声はかけたんですけど・・・。」


「うそ・・・ゴメン・・・。」

「いいんです。オレも昨日は楽しかったですから。」

「橋本君、全然寝れてないんじゃない?さっきも座ったままで・・・。本当にゴメンね。あっ朝ごはん作るよ。食べてって。」

「いいんですか?」

「もちろん、簡単な物しかできないけど。」


私たちは二人で朝ごはんを食べながら、いろんな話をした。

「先生。オレの救命の研修ももうすぐ終わりですよ」

「そっか~。最初は血がダメだったりで、どうなるかと思ったけど、今は全然大丈夫だもんね。橋本君はいいドクターになると思うよ。」

「それは全部先生のお陰ですよ。先生が指導医で根気よく指導してくれたからです。本当に感謝してます。」

「ありがと。」

橋本君は、朝ごはんを食べると帰って行った。



そして、橋本君の研修最後の日がやってきた。