みちのく一人旅 温泉宿編 | Centotrenta 代表 加藤いさおのBLOG                        

鍵をまわして

扉を開けると

案の定

「あの音」が聞こえる

「ギ〜〜〜〜ッ」

・・・・

 

靴を脱ぎ

襖を開けると

 

広い和室だった

 

シングルの敷布団が

敷かれていて

 

明かりは

蛍光灯のみ

 

間接照明の大切さを知る

この時私は

間接照明とは

「間接的に人に

安堵を与える照明なのだ」と学習した。

 

テーブルの上に目をやると

「いろはす無料」と書いていた

何処かの棚にミネラルウォーターが

置いていて

これは飲んでいいよ

とあるはずなのだが

無いので、「風呂に行くついでに聞いてみるか」と

「引ダンス」を開けた

 

中には浴衣と

バスタオルとフェイスタオルが

置いてあった

 

着替えると・・・・・

 

「短っ!!!」

 

膝の丁度

下くらいの丈で

 

「まあ、別にええか・・・」と

部屋を見渡すと

三面鏡があった・・・・・

これは・・・・・怖い

映画「リング」で鏡を見ながら

髪の毛をとくシーンが

蘇り

「あかん、あかん!!」と

それを打ち消すかのように

「風呂に行こう!」と決心した

 

所々

壁紙が剥がれた廊下を歩き

「そのスパイラル」に陥った私は

エレベーター前の棚に

浴衣が並んでいるのを見た

おそらく

今の私のように

サイズが合わなかった人用に

親切に

大 特大と並べられていた

普段なら特大を選んで

風呂場に持って行っても

良いものだが

心に余裕がなかったのか

「丈の短い浴衣のままでええわ」

とエレベーターに乗った。

 

温泉に着くと

 

スリッパが一つもない

脱衣所を見ても

先客がいる様子もない

 

そう、私一人なのだ

 

扉を開けると

 

そこは温泉天国

だけど

テンションが上がらない

 

貸切状態なのに

 

「恐怖」が私を支配している

 

先ずは露天風呂に向かった

 

真っ暗だ・・・・・

本当に真っ暗だ・・・

 

湯船に浸かってみるが

後ろが気になる

 

だめだ

出よう・・・・・

 

さっきまでのほろ酔いの

ままなら

この貸切状態を

堪能できたはずなのに・・・

 

 

髪を洗うが

 

目を開けたまま

髪を洗う

 

振り返る

 

また洗う

 

最悪である・・・・・・

 

 

広い温泉に深夜に一人

 

この間

間違えて水風呂に入った

外国の方のことを

思い出して

恐怖を笑いに変換させようとしたが

無理だった

 

 

慌てて出る

 

もう温泉を堪能したかった

さっきまでの自分とは別人格の自分がいる

 

「加藤君 温泉間に合わないよ」と

気遣ってくれた

菅原社長の顔を思い浮かべて

 

「菅原さん、すいません

温泉一瞬で出ました・・・」

と心で謝った。

 

 

脱衣所も一人

鏡だらけの場所で

 

拭いたか拭いてないかわからない

身体のまま

丈の短い浴衣を着て

 

髪も乾かさないまま

 

タオルだけ首にかけて

 

フロントに向かう

 

最終ミッションは

あの小太り従業員に

いろはすをもらう事だ

 

無人のフロントで

先ほどと同じように

ベルを鳴らす

「ち〜〜〜〜ん」

 

「どうなさいましたか?」

 

「あのう、いろはすを貰えると・・・」

 

「ああ、そちらの冷蔵庫にあります」

 

「あ、はい2本良いですか?」

 

「はい、三百円になります」

 

「うお〜〜〜〜〜い

タダちゃうんかい!!」と

心で思ったが

 

「部屋付でお願いします」と

ペットボトル2本を持って

部屋に戻った

 

 

一本は冷蔵庫に入れようと

開けた瞬間

 

「・・・・・・・・・」

 

二リットルのいろはすが出てきた

 

これが無料分だったのである・・・・

 

「言えよ・・・・・

さっきフロントで言ってくれ

無料の2リットルもう飲んだんですか?

さらに2本なんて

砂漠を歩いてきたんですか?

お腹チャポンチャポンになりますよ?」と

笑いに変えて

気づかせてくれよ・・・・・・」

 

途方に暮れた・・・・・

 

さて・・・・・

 

もうこれは寝るしかない

明日の朝風呂を楽しもう

 

電気を消してみたが

 

一瞬で

点けた

 

何故なら

怖いから・・・・・・

 

蛍光灯の灯りのまま

眠ることにした

眠れるわけない

 こう言う時は

そうや、インスタライブや!

深夜1時をまわっていたが

意外と皆さん起きていてくれて

少し気が晴れて

仲間2人も入ってきてくれた



お陰で眠くなって

自然に眠れた

ありがとう

心の友たちよ

そして、落武者みたいな

己が一番怖いと後で気付いて

髪を切る決心をした笑

 翌日

朝の6時に目覚めた


おそらく2時間くらいしか眠っていない

 

朝食会場に向かうと

 

昨日の静けさは

一体なんだったのかというくらい

賑わっていた

 

修学旅行生らしき団体と

住職の方々

 

そして

 

丈の短い浴衣を着た

「おいどん(己)」

 

視線が突き刺さる

 

「なんやこの人?」という目で見られる

 

無理もない

温泉宿に

一人・・・そして浴衣の丈

短い

 

小慣れた顧客さんに

「そのスーツのジャケットの丈

短すぎるやろ」と注意したりしている

己を恥じる

「どの口が言うとんねん」と

顧客さんたちも一斉に

声をかけてくるくらい

浴衣の丈が短い

 

 

そして髪の毛

ロン毛でボサボサ

 

さぞかし怪しかっただろう

 

もう、最後の楽しみは

朝風呂である

 

朝食会場を出て

そのまま温泉に向かう

 

「・・・・・・めちゃくちゃええやん」

 

昨日は真っ暗だったが

 

明るいと

景色もいい

風呂も広い

 

最高としか言いようがない・・・・・

 

「俺は、一体何を怖がっててん・・・・・」

 

40代後半のおっさんが

この場所で髪の毛を洗うとき

何度も振り返り

こんなに素晴らしい温泉を

音速で出て

 

部屋に戻った昨日の自分に

言ってやりたい

 

「大丈夫やから!!

いろはすも冷蔵庫やから!!」と

 

そして

チェックアウトで

フロントに向かう

 

昨日の小太り従業員が

「加藤様、おはようございます」と

やけに爽やかな笑顔で挨拶をしてくれた

そして名前まで覚えてくれていた

プロフェッショナル魂に

脱帽した

 

「では・・・・料金は¥300です」

「へい・・・・・」

いろはす代である

 

「あのう、駅までのマイクロバスに

乗りたいのですが」

 

「ああ、加藤様予約されてますか?」

 

「してないです」

 

「予約制になってまして

でもなんとかしましょう」

どや顔で

「大丈夫です、なんとか乗れる手配を

取りました」

 

 

「ありがとうございます・・・・」

 

「では出発まで10分ほどありますので

ロビーでお待ち下さい

お呼びします」

 

「へい・・・・・・」

 

10分あるので

外に出てみた

 

景色が素晴らしいじゃねえかよ

向こうの山は

まだ雪が山頂にかかっていて

「まるで小さな富士山だな」と

写真を撮っていたら



「加藤様〜〜〜〜〜〜〜」と叫び声が聞こえる

慌てて振り返ると

小太り紳士が

「バス出ます、バス〜〜〜〜〜〜〜!!」

「え〜〜〜〜〜っ

まだ2分くらいやん

あんた10分言うてたやん」

慌ててロビーに戻り

バスに荷物を預け

慌てて乗り込む

視線が突き刺さる

さっきのが学生たちが

「また・・・この怪しいおっさん」と

いう目で見てくる

そして満席

 

運転手さんが

補助席を出してくれた

 

いつかの

遠足以来の補助席・・・・

学生と学生の間に・・・・・

 

景色も堪能する余裕もなく

盛岡駅に着いた

 

バス(風呂)で始まり

バス(車)で終わる

そんな温泉宿も

良きおもひで・・・・・・・

 

お粗末。