ゲンヲカツグ | Centotrenta 代表 加藤いさおのBLOG                        

「いさおちゃん

ベルト直しに来たら

なんか新しい店オープンしてるやん

靴、買っとくわ」

そんな、古くからのお客さん

「加藤君、花だそう思たけどな

それより靴買ったほうがええやろおもて

来たわ」


「キッカケが欲しかってん

この靴買う、丁度ええわ」


そんな言霊が飛び交いまくった

この二日間


「商売人は新しい舗で

ひやかしたらたらあかん

ゲン悪いからな」


オープン当初から

来てくださっている

顧客さんの言葉

その方は

ずっとずっと何かあるたびに

ナニカを買ってくれている


僕もその教えを忠実に守り

友人や知人の

新しい舗では

絶対にナニカを買うことにしている


お客さんに教えてもらいながら

独学でやってきた商いも

振り返ると

かなりの年月が経った


僕が弊社スタッフに

教えられるのは

こういう事だけだ


まあ、教えられるよりも

彼らは彼らで独自にそれに

気付きナチュラルにこなしてくれている


ええ靴はええ場所へ

連れて行ってくれる


そして

僕がここ数日眠れなかった

原因は

オープンの事だけではない


夫婦でずっと来てくれている

顧客さん

20年間お世話になっていて

本来ならば

このような門出の時には

いち早く足を運んでくれる

存在の方で

プレオープン前日に

LINEがきた


「かとやん、ごめんな

俺、直腸癌になってしもた」


一瞬オープンの事など

吹っ飛ぶくらい

衝撃が走った


「電話できる?」と返信すると

すぐに電話がかかってきた


「にいやん、どういうことなん?」


「いや、数ヶ月前から

調子悪くてな

検査したけど癌じゃなかってんけど

この前、また検査したらな

癌が見つかってな

しかもリンパにも転移してるらしいねん

明日手術でな

もしもの事あったら

嫁に言うてって頼もうと思ってんけどな

やっぱり自分の口から

かとやんには言いたくて

大変な時やのにごめんやで」


僕のブログも欠かさず

見てくれていた

そのお客さんは


オープンの事も知らないくらい

しんどくて

ようやく僕に連絡してくれたのが

プレオープン前日


「にいやん、絶対に大丈夫やから

俺も明日オープンやねん

めちゃくちゃ頑張るから

にいやんも絶対に手術頑張って」


それしか言えない

こういう時

己のボキャブラリーの乏しさを

恥じる


「えーそうなんかいな

知らんとごめんな

ゲン悪い事言うて」


「いや、ゲンがええよ

にいやんもこんな時に

連絡してくれたんも

互いに絶対に負けたらあかんって

事やと思うねん」


「せやな、俺

また加藤やんのとこで

靴とか服とか買えるかな?」


「あたりまえやん

その為の俺やろ!」


「せやな、せや、せや

また服買いに行くためにも

絶対頑張る」


「なあ、にいやん

なんかあったら

なんでも言うて

ほんまに毎日良くなるように

願っとくし

何事も願えば叶うねんで

あんな小さい舗におった頃から

考えてみてや

明日、靴屋オープンするようになってんから」


「せやな、ほんまに

加藤やんは俺の誇りやで」


「俺もにいやんみたいな人が

お客さんで居てくれてる事が

誇りや」


「おおきに、なんか

元気でたわ.じゃあまた

報告する」


そう言って電話を終えたが


たまらずLINEを送った

僕は

福屋だ


人々に服を通じて

福を得てもらうために

この商いに誇りを持って

日々生きている


同時に

無力だ

大切な人の力になる事すら

できない


祈るや願う

そんなもの

綺麗事に聞こえてしまうのではないか?

そう思うと

眠れなかった


己の存在意義

己が服屋ではなく

福屋と謳う意味

この二日間

ずっと考えていた


プレオープン中も

大量にお花が届いた時も


心の底から嬉しかったが

ふとした時

どこかで

「手術はどうなんやろ?」と

考えるだけで

胸が張り裂けそうだった


僕らの仕事は

役者さんと少し似ている


お客さんの前では

どんな事があっても

喜怒哀楽の

怒哀を見せてはいけない


お客さんは

お客さんが知る

僕らに会いに来てくれているのだ

僕らの感情を察知して

逆に「どうしたん?大丈夫?

元気ないやん?」など

気を使ってもらう事など

論外だ

僕らはプロなのだから

お客さんを

笑顔で迎えて

笑顔で見送り

お客さんも幸せな気持ちで

舗を後にしてくれるから

僕らの間にヒューマンロイアリティが

芽生えるのだ



役者さんもそうだろう

どんなに辛い事があっても

その時の役を演じきらなければ

ならない。


プロと謳うのであれば

プロらしく、生きるのが

僕らの使命だ。


奥さんから

メッセージがきた

無事手術が成功したと


どっと疲れがきた

張っていた気持ちが緩んだのだろうか

僕は奥のショウルームのソファに

腰掛けて

少し放心した

天井を仰いだ

「にいやん、よう頑張ったな」

そう言って

扉を見た


ショウルームの扉の向こうは

異空間だ

幸せしかない空間だ


ふうっと

邪気を払うように

呼吸をして


扉をあけて

大好きなお客さん達に

「毎度、今日はありがとう」

といつもの僕に戻った。


そう、僕は

いや、我々は

福屋なのだ。



にいやん、手術成功して

頑張ってくれてありがとう

約束通り

プレオープン初日

俺も社員達もめちゃくちゃ頑張ったで

にいやん含め

ウチのお客さんは

ほんまええ人らばっかりや

俺はずっとにいやんの

スタイリストやから

コロナでお見舞いにも

行けないけど

退院した時

どんな格好してもらおうか

ずっと考えとくから

にいやんも

退院したら、どんな服着よかって

考えといて!


俺らガッチリ繋がってるからな!