2023年8月25日公開された「エリザベート1878」ですが、8月26日に観賞しました。
オフィシャルサイト
映画『エリザベート1878』公式サイト (transformer.co.jp)
『エリザベート 1878』
監督・脚本:マリー・クロイツァー
出演:ヴィッキー・クリープス、フロリアン・タイヒトマイスター、カタリーナ・ローレンツ、マヌエル・ルバイ、フィネガン・オールドフィールド、コリン・モーガン
2022年/オーストリア、ルクセンブルク、ドイツ、フランス/ドイツ語、フランス語、英語、ハンガリー語/114分/カラー・モノクロ/2.39 : 1/5.1ch 原題:Corsage 字幕:松浦美奈 字幕監修:菊池良生
後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム東京、ドイツ連邦共和国大使館、オーストリア政府観光局
提供:トランスフォーマー、シネマライズ、ミモザフィルムズ
配給:トランスフォーマー、ミモザフィルムズ
© 2022 FILM AG - SAMSA FILM - KOMPLIZEN FILM - KAZAK PRODUCTIONS - ORF FILM/FERNSEH-ABKOMMEN - ZDF/ARTE - ARTE FRANCE CINEMA
概要:エリザベート 1878 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
より引用。
「ファントム・スレッド」のビッキー・クリープスが19世紀オーストリアの皇妃エリザベートを演じ、2022年・第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で最優秀演技賞に輝いた伝記ドラマ。ヨーロッパ宮廷一の美貌と称されたエリザベートの40歳の1年間にスポットを当て、若さや美しさという基準のみで存在価値を測られてきた彼女の知られざる素顔を大胆な解釈で描き出す。
1877年のクリスマスイブに40歳の誕生日を迎えたエリザベートは、世間のイメージを維持するために奮闘を続けながらも、厳格で形式的な公務に窮屈さを感じていた。人生に対する情熱や知識への渇望、若き日のような刺激を求める彼女は、イングランドやバイエルンを旅して旧友や元恋人を訪ねる中で、誇張されたイメージを打ち破ってプライドを取り戻すべく、ある計画を思いつく。
オーストリアの気鋭マリー・クロイツァーが監督・脚本を手がけた。
2022年製作/114分/PG12/オーストリア・ルクセンブルク・ドイツ・フランス合作
原題:Corsage
配給:トランスフォーマー、ミモザフィルムズ
(引用ここまで)
受賞歴:
🏆2022年カンヌ国際映画祭ある視点部門
最優秀演技賞受賞(ヴィッキー・クリープス)
🏆ロンドン映画祭最優秀作品賞受賞
🏆アカデミー賞国際長編映画賞
ショートリスト選出(オーストリア代表)
感想:
エリザベート皇后は、いろいろな文献で読む限り、複雑な人という感じがします。その複雑に絡まった糸をほどくとき、ほどいた人の人となりが見えてしまうように思います。「鎌倉殿13人」の三谷幸喜監督は、文献に残っている史実をもとにしながら、「おもしろさが何よりも優先する」ということで、あの物語になりました。そして、登場人物をリスペクトしつつ、進めていたと思います。
マリー・クロイツァー監督はどのようにアプローチをしたかったのでしょうか。私には、歴史上の実在の人物にリスペクトが感じられず、放蕩、わがまま、淫乱さに重点を置いていたように見えました。
エリザベートの3人の侍女
上左 イーダ・フェレンツィ
上右 マリー・フェシュテティチ
下 理髪師 ファニ
出典:ブリギッテ・ハーマン著
エリザベート (下) 美しき皇妃の伝説 (朝日文庫)
それに比べて、今回の映画に出てくる侍女たちは、ちょっとパンクテイストですね~。
時代としては、身分の高い人からの命令は「絶対」だから、そのプレッシャーは大変なものだったかと。やはり、そこらへんの雰囲気は、元貴族だったルキーノ・ヴィスコンティの「ルードヴィヒ」や1960年代の映画など、もう少し研究してほしかったような…。
男性遍歴
映画では、ルードヴィヒや乗馬の師匠、ベイ・ミドルトンとの情事が色濃く描かれますが、ブリギッテ・ハーマン著「エリザベート (下) 美しき皇妃の伝説 (朝日文庫)」には「具体的な事実はない」と言い切っています。ただ、ベイ・ミドルトンをボディガードにして、身分を隠して民衆のイベントに参加したことはあったようです。
ルードヴィヒと…?
ベイ・ミドルトンと…?
出典:corsage_jp
当時の世紀末的なモチーフ
ジョン・エヴァレット・ミレイ(イギリスだけど)
冒頭の入浴シーンでは、同時代のイギリスで活躍した画家、ジョン・エヴァレット・ミレー - Wikipediaが「オフィーリア」を描くとき、モデルのエリザベス・シダルが長い時間バスタブに浸かっていなくてはいけなかったそうです。画家が絵に没頭している間にお湯がすっかり冷たくなってしまったそうな。
「オフィーリア」は中野京子氏の「新怖い絵」の表紙になっています。
最初に出てくる公式行事はウィーン美術史美術館の開幕式。あの美術史美術館の入り口にはクリムトの絵が飾られています。そして、何よりも皇后の体つきがクリムトのモデルで内縁の功労者でもあったエミーリエ・フレーゲさんにそっくりだと思いました。
裸の真実
「NUDA VERITAS」
それまでは、女性の裸体は、陰毛を省くことで中性化され、エロティックな要素が薄められるので、アングルの時代から、陰毛のない女性の裸体が広範囲に受け入れられてきたのだそうです。ところが、この絵の中の女性は、陰毛というタブーを破ることで、絵画芸術上のタブーまで破ろうとしたとする評論があります。
監督は、敢えてこの絵画のようなポーズをとらせることで、王家のタブーに踏み込んでいくことを宣言しているのかもしれません。それでも、製作者が史実にないことを実際にあったかのように描くのは課題があるように思います…。
エミリエ・フレーゲ
自分に求められた仮初の姿を拭い去るように、エリザベートは髪を切ることを決心します。
ソバージュにした姿を見たときに思い出したのは、クリムトの恋人であり、モデル、内助の功のエミーリエ・フレーゲさんです。
《アッター湖でボートに乗るグスタフ・クリムトとエミーリエ・フレーゲ》 1909年 写真 ウィーン・ミュージアム蔵 ©Wien Museum / Foto Peter Kainz
エミーリエは、二人の姉と共にウィーンでモードサロンを経営する聡明な企業家で、女性をコルセットから解放した「改良服」をデザインすると同時に、パリやロンドンから取り寄せた最新のモードを販売したそうです。
出典:美術展ナビ
監督はフレーゲさんを意識していたのかなと勝手に想像しています。
皇妃はよく精神病院を訪ねては、気に入った賛辞を送った患者にスミレのお菓子を配って歩きます。実際に精神病院をよく訪ねたそうですが、周囲の自分に対する評価と精神病とされる患者さんたちの間は何かを究明しようとしていたのかもしれません。精神分析の草分けフロイトがヒステリーの治療法として精神分析という方法を発表したのが1886年からになるので、「いい加減な周囲の言い分と医者からの不確実な情報の間に揺れていた」のかなと思っています。
この映画を嫌いになりたくないので、いろいろ調べました。でも、やっぱりエンタテインメントが観客に与える影響は大きいので、「創作という名前のフェイクが行き過ぎている」のには辟易しました。そもそも、皇族にしては自由奔放な彼女を題材にして、女性の開放を描くのは筋違いです。
1960年代だったら、当時を知る人がまだご存命なので、今ほど評価はされなかっただろうと思います。今だから自由に作れるとはいえ…あまり共感できないなぁ。
というか、
誰も文句を言わないことを逆手にとった歴史ものはありえない。
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