お値段以上か?
「はい。先ほどお品書きを拝見しました。
今日いただいた“寿司会席”――価格は10,000円ですよね」
天野次長の声が、ほんの少しだけ低くなる。

「このロケーションで、ホテルで……“高揚感”という意味では、確かに価格に納得できるとは思います。
ただ……」

「その“価格の内訳”ね」
伊達木社長がふっと笑みを浮かべる。
「ええ。正直、ネタや握りの構成は、ごく標準的でした。
いわば、“場所代”が5割。料理そのものの価値は……」
天野次長はそこまで言うと、軽く頭を下げた。
「いえ、よく分かったわ」
伊達木社長が頷く。
「“ホテル寿司”って、そういうものなのよ。
でもね、今日、私が本当に聞きたかったのは――
“あなたたちが思い描く、おさかなマルシェの姿”が、この食事で少しでも見えたかどうか、ということなの」
「……はい。逆に、方向性がクリアになりました」
天野次長は力強く答えた。
「そう。ならよかったわ」
伊達木社長は、また穏やかな表情に戻る。
「ごちそうさまでした」
天野次長と大杉主任が声を揃えた。
晴れ渡る長崎の空の下、
高層階の静かな空間に、新しい構想の輪郭が静かに浮かび上がっていた。
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