アゴは空を飛ぶ。
食事の後、西日本魚市の構内にある施設を見学させてもらった。
見学を終えた後の帰り際、宮沢さんが紙袋を手渡してきた。
「これ、おとなりの平戸市の名産なんです。“あご出汁のもと”です」
「“あご”って、あれですよね。東京で流行ってる“あご出汁ラーメン”の“あご”ですか?」
大杉主任がすぐに反応する。

「そうです、そうです」
「……え、大杉さん。“あご”って何の魚か知ってます?」
天野次長がいたずらっぽく尋ねる。
「魚、ですよね……?」
「“とびうお”よ」
と即答する天野に、大杉は目を丸くする。
「とびうお……?」

「そうなんです」
と、宮沢さんが補足する。
「長崎には“五島うどん”っていう名物があるんですが、その出汁にも“あご”を使うのが定番なんですよ」
「じゃあ……長崎のラーメンは、“あご出汁”が主流なんですか?」
「いや……長崎市内には、あるにはあると思いますけど、店の名前まではちょっと……。平戸の生月島に1軒あったような……今もやってるのかなぁ」
「えっ、長崎の人って、“あご出汁ラーメン”あまり食べないんですか?」
「どうでしょうねぇ……少なくとも、長崎市内ではそんなにメジャーじゃないかもしれませんねぇ」
宮沢さんが少し考えるように言う。
「……長崎の人の、“さかな”に対する向き合い方、ますます “わ・か・ら・ん”……」
大杉主任は困惑した顔で、テーブルの上を見つめた。
そんなやりとりも笑いに変わり、食後の満足とともに、店をあとにする。
「宮沢さん、本当にお世話になりました」
天野次長が丁寧に頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ。千﨑部長によろしくお伝えくださいね」
手を振って見送る宮沢さんに背を向けて、3人はアルファードへと乗り込んだ。
スライドドアが音もなく閉まり、午後の海風に背中を押されながら、車は静かに動き出した。
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