季節外れの…。
「さて、私から皆さんに、ちょっとしたプレゼントをご用意しました」
食後の余韻に包まれていたテーブルに、宮沢さんの声がふわりと響いた。
「えっ、なんですか?」
天野次長が身を乗り出すように聞く。
「ちょっと季節外れではあるんですが……。こちらの食堂にお願いして、“サバしゃぶ”をご用意しました」
「ラッキー!」
大杉主任が思わず声を上げて、小さく手を叩く。
ほどなくして、カセットコンロと、見事なサバの刺身が運ばれてきた。透明感のある切り身が、皿の上で静かに輝いている。

「真夏にサバしゃぶなんて、私も食べないですけど……」
と伊達木社長が言いながら、一切れをそっと出汁にくぐらせて口に運ぶ。
「ちなみに、つけダレは、長崎の伝統の香酸柑橘「ゆうこう」を使った私のオリジナルです」と宮沢さんがいった。

しばらく黙って、噛みしめるように味わってから、ふとつぶやく。
「季節じゃなくても……この旨さ。冬の旬だったらもっと脂がのって……。もっとうまいってこと?」
その言葉に、他の3人も静かに箸を動かす。
出汁の香りがほんのり立ち上り、サバのうまみが広がっていく。
やがて、伊達木社長がぽつりと言った。
「不思議なのよね。どうして長崎の人って、“旬アジ”や“旬サバ”をもっと食べたり、アピールしたりしないのかしら」

「ほんとに。不思議ですねぇ」
と大杉主任が相槌を打つ。
そのとき、伊達木社長が宮沢さんの方に向き直った。
「宮沢さん。うちの会社、最近“新領域事業”として、レストラン事業とか、出張シェフのマッチングプラットフォーム――『Premiumシェフ』っていうサービスを始めてるの。今度、改めてご連絡させていただくわ」
「またビジネスしてる……」
と、大杉主任は心の中で小さくつぶやいた。
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