ブランディングのきっかけ。
「実は松浦市では、1997年から『旬サバ』、そして続いて『旬アジ』というブランド作りに本格的に取り組み始めたんですよ」
宮沢さんが続ける。
「きっかけは、当時のサバの豊漁による価格暴落でした。良い魚を適正な価格で流通させるために、“ただ高く売るための名前づけ”からスタートしたんです。でも次第に、漁獲海域・時期・魚種・サイズ・漁法という5つの条件を明確に設定し、商標登録や広報活動によって、しっかりとブランドとして根づかせてきました」
「すごいですね……」と大杉主任が感心する。

「地元鉄道の中吊り広告や、シールやステッカー、クリップなどの販促グッズも使って、地域内外への認知拡大を図ってきました」
と宮沢さんが続ける。
「さらに、天然魚の漁獲量が年々減るなか、松浦では養殖マサバ『長崎ハーブ鯖』の開発にも着手したんです。餌の工夫、出荷マニュアルの統一、そして鮮度保持のための迅速な活〆と脱血処理も徹底して。今では航空便での全国出荷も実現しています」
「なるほど……」
伊達木社長も、思わず真剣な表情で聞き入っている。
「それだけじゃなくて、松浦市では水産業の価値を観光にも結びつけてるんですよ。修学旅行の学生向けに、漁業や農業の体験学習、家庭での宿泊、魚のさばき方や調理のレッスンなどを提供して、地域への理解を深めてもらってます」
「すごいな……」
と大杉主任が感嘆の声を漏らした。
「つまり、ブランドづくりにとどまらず、生産現場と消費者を直接つなぐ仕組み、そして体験の場まで用意して、地域振興と経済循環の両立を目指しているんです。2019年に『アジフライの聖地』を宣言したのも、そうした一連の流れの中にあります」

話を聞き終えた天野次長は、ゆっくりと湯飲みに口をつけたあと、しみじみと呟いた。
「なるほど……水産物が、地域振興に一役買うか……」
その言葉には、どこか希望のような響きがあった。
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