オートバイをもう一度(K-1 バトル編 ⑥) | cb650r-eのブログ

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XSR900 GP? 想定外

梅雨が明けたばかりの、よく晴れた日曜日。
走り出して間もなく、思った以上に多くのバイクとすれ違った。

郊外に入ると、すれ違いざまにピースサインを送ってくるライダーがちらほらと現れる。
「ピースサイン」――ブイサインや手を軽く挙げる、ライダー同士のさりげないコミュニケーションだ。

俺はてっきり、そんなのは1980年代の古臭い風習だと思っていた。
だが、どうやら最近、アナログなジェスチャーがじわじわと復活しているらしい。

……なんだか、不思議と心が温かくなる。
懐かしさと嬉しさが入り混じったような感情に、しばし浸った。

1時間半ほど走り、いつもの休憩スポットに到着。

見慣れたR1が、やはりそこにあった。
さらに、その隣には初めて見る――YAMAHA XSR900 GPが停まっている。

 



どうやらR1のライダーとXSRの男は、談笑している様子だった。

俺がバイクを停め、無言で近づいていくと、R1が皮肉たっぷりに口を開いた。

 



「ほう……逃げずにノコノコやって来たか。感心、感心」

言葉は軽いが、その目には試すような光が宿っている。

続けて、XSRのライダーが口を挟む。

「おっ、ヘルメットは“巨摩 郡”カラーか。気合入ってますねぇ。
 たださ、そのフォルムがまた……昭和の香りプンプンですよ? どこのアンティークショップで手に入れたんスか、そのデザイン」



 

……言いたい放題だ。

「……ガタガタうるせぇな。いいから、走ろうぜ」

こっちは口先合戦に興味はない。

「よし、CB。お前が先頭だ!」

R1が低く響く声でそう言い放つ。
その目は鋭い。

「ナメた走りしやがったら、容赦しねぇぞ」

俺の背中に、緊張感が走る。

――そして、もう一つの誤算。

XSR900 GP。
3気筒、120馬力。ヤマハのニューモデルが、今日のバトルに加わるとは思ってもいなかった。

どんな挙動をするのか。どこで仕掛けてくるのか。
まったく想像がつかない。

だが――逃げるという選択肢は、ない。

グローブのフィット具合を確かめ、セルスイッチに右手親指をかける。
CBのエンジンに、火が入る。

次の瞬間、K-1の空気がピンと張り詰めた――。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。