長崎。“新幹線”でGO!
「いいでしょう」
千﨑部長が、迷いなく言い切った。
「長崎には朝イチの新幹線で前日入りしてください。あえての“新幹線”です。そして、終点の長崎駅まで乗ってください」

一瞬、“あえての”という言葉に皆が引っかかる。だが部長はお構いなしに、よどみなく続けた。
「駅周辺で、ちゃんぽんでも食べて。午後から『ながさき地域戦略研究所』を訪ねてください。その日の夜は――」
と、ここで一呼吸。
「大杉さんと二人で、料亭橋本に行って、卓袱(しっぽく)料理を堪能してきてください。長崎の文化に触れて、楽しんでくることも、立派な仕事です」
会議室がふっと和やかな空気に包まれた。
「翌日は、長崎駅から在来線で佐世保駅まで移動。2時間半くらいかかるから、早めに動いてください。佐世保駅ではレンタカーを手配しておいて。10時からの医療法人H会との面談は、佐世保市役所の会議室で間違いなかったですね?」
「はい、そうです」と天野次長。
「面談が終わったら、そのまま車で北上して、松浦市にある『西日本魚市』へ。構内に『エンヨウ』という水産会社があります。そこを訪ねて、現地の状況を視察してきてください」
天野次長と大杉主任がうなずく。
「松浦での視察が終わったら、佐世保に戻ってレンタカーを返却。そこから在来線でJR大村駅へ。長崎空港発の大阪行き最終便には、たぶん間に合うと思います。念のため、少し余裕を見ておいてください」
と、ここまで一気に語ったあと――
「……部長、まさか今、その行程を考えました?」
と天野次長が思わず聞く。
「そうですけど。なにか問題でも?」
千﨑部長は、肩をすくめながらあっさりと応じる。
「い、いえ……。すごいなと思って」
次長が苦笑しながら答える。
「研究所とエンヨウへのアポ取り、それと料亭橋本と宿泊の予約は私の方でやっておきます。チケットとレンタカーの手配は、樫本さんにお願いしてください」
その言葉とともに、会議の空気が少しずつ緩んでいく。
「では、ミーティングは以上です」
「おつかれさまでした」
軽く声を掛け合いながら、終始活気のあったミーティングは、静かに、しかし前向きな手応えを残して締めくくられた。
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