地域戦略部には戦略が無い(98) | cb650r-eのブログ

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副部長。ご存じでした?

週明け・案件会議にて。

「以上が、石川県にあります『Share金沢』の視察概要と所感になります」

天野次長が簡潔に報告を締めくくる。

続いて、大杉主任が一歩前へ出た。

「私からは、長崎県佐世保市にある医療法人に提出予定の“日本版CCRC”に関するレポートについて、天野次長と打ち合わせをしながら、私の方で取りまとめていきたいと思っています。また、佐世保での面談につきましても、次長と私にお任せいただければと考えております。

さらに、今回の金沢視察を通じて、長崎県内の他自治体にも展開できる新しい提案の構想が見えてきました。来週月曜日の定例ミーティングの際に、概要をご説明させてください」

 



「いい動きですねぇ」

と、千﨑部長が満足げにうなずいた。

すると、大杉主任が少し笑いながら口を開いた。

「……あと、ちょっと話は逸れるんですが、山本副部長。ご存じでした? 天野次長のご実家が“厳原トレーディング”さんだって」

「……」

俺は思わず、言葉を失った。

――厳原トレーディング。対馬の水産商社。あなごのプライスリーダー。確かタチウオも扱っていたはずだ。

記憶の引き出しをまさぐるうちに、すっと社名のロゴと帳票の書式が浮かび上がる。

「……思い出したよ。うちがまだ大阪貿易だった頃、ずいぶん取引してた。懐かしいなぁ……」

「ああ、今は弟が代表を継いでます。今でも、関西E&Iさんとは取引があると思いますよ」

と天野次長が、淡々と答える。

不思議な縁だな、と思いながら、俺はしばし無言で天井の蛍光灯を見つめた。

かつて何度もやり取りしたFAX用紙の匂いまで、ふと蘇ってくるようだった。


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