予定変更!
「さぁ、切符買って、さっさと大阪に帰りましょう!」
と、大杉主任が軽やかに言う。
しかし、天野次長は駅舎の方をじっと見つめたまま、少し考えるような表情を浮かべていた。
そして――ゆっくりと口を開いた。
「大杉さん、明日の土曜日、何か予定入ってる?」
「いえ、特には……」
「そう。せっかくここまで来たんだし、今夜は金沢に一泊しない? 部長の許可をもらってから、樫本さんに近くのビジネスホテルを手配してもらいましょうよ」
「いいですね〜! 乗ります、乗ります、その企画!」

「晩ごはん代は奢るけど、宿泊費は自腹でよろしく」
「え〜、山本副部長だったら、いつも高級料理に高級ホテル付きなのに〜」
「まあ、今回は“自己都合”ってことで……」
「はい、分かりました!」
こんな軽いやりとりも、視察の充実感があってこそだ。
2人はその場で部長に電話を入れて許可をもらい、金沢で一泊することとなった。
「さて、そうと決まったら――“おみちょ”に行きますか」
と天野次長が口元をゆるめて言う。
「なんですか、それは?」
と、大杉主任が首をかしげた。
「近江町市場。地元の人には“おみちょ”って呼ばれてるんですよ。新鮮な魚介がうまいんです。市場の中に、地元民しか知らない名店があってね……」
そのとき、大杉主任の目がきらりと光った。
「……まさか、晩ごはんって、そこのことですか?」
「当たりです。今日は腹いっぱい食べましょう」
天野次長の声には、どこか旅の続きを楽しむような、弾んだ響きがあった。
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