最も印象に残ったのは…。
「ええ。領海侵入は、今も断続的に繰り返されています。決して簡単な状況ではありません。ですが、我々は力を誇示するのではなく、法と規律に基づいて、冷静かつ確実に対応する。それが、海上保安官としての信念です」
その言葉には、揺るがぬ芯があった。

「放水銃も、機関砲も見せていただきましたが――」
千﨑部長はふと目を細めて続けた。
「最も印象に残ったのは、甲板に整列したあの職員たちの眼差しです」

石橋副部長が静かに頷く。
「極度の緊張の中、彼らは国家の最前線で使命を果たしている。その覚悟に、我々は最大限の敬意を払わねばなりません。だからこそ、いま海上保安体制の強化は、国家的な最優先課題とされているのです」
そして、副部長は少し声のトーンを落として、続けた。
「現在、11管区にある巡視船のうち21隻中15隻がこの地域に対応し、約700名の職員が任務に就いています。ここはまさに、“海の最前線”です」
ふと、外に目をやった。
午前中の晴れ間が嘘のように、空はどんよりと曇り、雨がしとしとと降り始めていた。
その灰色の海の下で、今日も誰かが沈黙の覚悟を背負いながら、任務にあたっている。
それが、“国境を守る”ということなのだと、俺は改めて思い知った。
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