石垣海上保安部
午後からは、石垣海上保安部の視察だった。
出迎えてくれたのは、副部長の石橋氏。帽子のつばを軽く押さえながら、遠くに停泊する巡視船「とかしき」の方をじっと見つめていた。その背中には、海の男特有の静かな緊張感が漂っている。
「ようこそお越しくださいました。こちらへどうぞ」
石橋副部長の案内で、俺たちは巡視船「とかしき」の内部をくまなく視察した。
写真撮影は、当然ながら厳禁だった。

船内はどこまでも整然としていた。無駄なものが一切ない。計算し尽くされた動線、磨き上げられた金属の手すり、そして、静寂の中に満ちる緊張感。
「正直、緊張感が肌で伝わってきます」
千﨑部長が、ふだんの飄々とした口調を封じ、低く言った。
「あの海域で、毎日のように任務にあたっている職員の皆さん。その責任感と集中力には、ただただ頭が下がります」
「やはり、近隣国の海上の動きは――」
部長が言葉を濁すように切り出すと、石橋副部長は、ほんの一瞬、視線を海にやった。
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