せっかくの機会ですから…。
「せっかくの機会です。“攻め”のタイトルで行きましょう」
柔らかな口調の中にも、確かな決意がにじんでいた。
俺は、このチームにとって今回の講演依頼が、
単なる仕事を超えた、ある種の“使命”になりつつあるのを感じていた。
千﨑部長は、モニターから一番離れた“お誕生日席”に座って、口を開いた。
「私から質問です」
会議室に一瞬、緊張が走った。千﨑部長が静かに続ける。
「“東京一極集中が日本を滅ぼす”——この言葉に説得力を持たせるために、そのロジックを簡潔に説明してください。そして、それに対して、天野さんが講演で訴えたい“処方箋”を併せて教えてください」
全員の視線が天野次長に集まる。

「はい。まず、私の仮説はこうです」
「根本的な問題は『人口減少』です。そしてその加速要因は、若者が東京に集中しているという社会構造にあります」
彼女はスライドを一枚めくった。
「大学進学や就職を機に、地方の若者が東京へ移動する。すると地方には若者がいなくなり、結果的に“出会い”や“結婚”の機会が減少し、出生数も落ち込む」
「なるほど。地方が人を失うのは、機会を失っているからだね」
俺がつぶやくと、天野次長がうなずいた。
「その通りです。そして東京はというと、今度は生活コストが異常に高い。家賃も物価も高く、結婚や子育てに必要な経済的余裕が持ちにくい。その結果、“結婚しない”“子どもを持たない”という選択が増えているのです」
「キャリア志向の高まりとライフスタイルの多様化も背景にあるんですね」
と、大杉さんが補足する。
「そうです。特に東京では、高学歴・高キャリア志向の女性が多い。そうした女性たちが“自分らしく生きる”ことを選びやすい環境が整っている。それは非常にポジティブなことでもありますが、一方で、少子化という観点から見れば“負”の側面もあるのです」
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