万年次長決定。
4月に入り、大阪北病院の「事業承継」と「病院建て替え」プロジェクトは、いよいよ正式にスタートを切った。
その日、田下部長から声をかけられた。「少し、時間をもらえるか?」
俺は、少し驚きながらも小会議室に足を踏み入れた。久しぶりに田下部長と向き合う瞬間だった。
「今回の大阪北病院の件、君のおかげで起死回生だ。感謝するぞ、山本次長。」
「いえ。色々な意味で自分にとっても勉強になりました。」俺は、少し緊張しながら答えた。
「実は、君の今回の活躍をきっかけに、もう一度君の職歴を見返してみたんだ。率直に言うと、なぜ君が出世できないのか不思議だった。」
田下部長は、少し真剣な表情で続ける。
「小川専務やOBの上釜さんにも話を聞いたが、最終的に俺が出した結論はこうだ。君の外為に関する知識とスキルは、グループトップクラスだ。ただ、それ以外は、平均か、それ以下だと感じる。けれども、不思議なことに、君がピンチに陥ると必ず誰かが助けてくれて、難局を乗り越える。まるで、運命に守られているような男だ。」
「その通りだと思います。」俺は静かに頷いた。
「実は、僕も過去に唯一1度だけ一番になったことがあるんですよ。」俺は少し恥ずかしそうに話を切り出す。
「それは大学生の時、和歌山の高野山の峠で「最速の男」と言われたことなんですけど。笑い話のようですが、それだけが今日までの人生の支えだったんです。」俺は続けた。
「最近はっきりと分かったんですよ。何かというと、私の自力は全くダメ。ただ、バイクや、他人の力を借りた時に実力以上の力と結果が出る。」
「なるほど。」田下部長は少し意外そうな表情を見せた。
「というわけで、君の出世はもうないだろう。この先も恐らくは山本次長のままだろう。それでいいな?」
「はい、万年次長で結構です。」俺は平然と答えた。
「そうか。俺は、もっと上を目指すがな。」田下部長は、力強く言い放った。
「足を引っ張らないよう、気をつけます。」俺は、冷静に答える。
「はっはっはっ。」田下部長は、笑いながら部屋を出て行った。
その背中を見送りながら、俺は自分の立ち位置を改めて確認した。
今後どう進むべきか――それが、この先の運命を決めるのだろう。
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