心配ご無用!
帰りの車中、宇都宮理事長は俺が知らなかった親父の和歌山県立大学でのエピソードを語ってくれた。とにかく、頴二は優秀だったと繰り返していた。
父の名前から「頴」、理事長の名前から「悟」を取って、医療法人「頴悟会」が名づけられたことについては、恐らくそうだと思っていたが、「頴悟」という言葉自体が、賢く聡明で、才知に優れるという意味を持つことを、理事長からその時初めて教わった。
無事に理事長を送り届け、事務長に車を返すと、彼は長旅にもかかわらず、矍鑠(かくしゃく)とした足取りで病院の建物に戻っていった。
数日後、井村さんと一緒に北病院を訪れ、事務長に報告とお礼を伝えるために玄関に近づくと、スーツ姿で眼鏡をかけた細身の男性が出てきた。大阪経営の藤沢社長だ。
俺は軽く会釈をしてすれ違おうとしたが、その時、藤沢社長はすれ違いざまに振り返り、こう言った。 「ひょっとすると、山本さんですか?」
「はい、そうですが…。」俺は答えた。
「大阪経営の藤沢です。実は、宇都宮理事長からとても素晴らしい話を伺いましたよ。」
「そうですか。」俺は淡々と答えた。
「私はね、両親を大切にする人間が好きなんです。身近な人を大切にできない人間は、信用できませんから。」
「余計なお世話かもしれませんが、事業承継と病院建て替え、このタイミングではしっかりコンサルをしないとダメですよ。」藤沢社長がこちらに背中を向けて歩き出しながら言った。
その言葉を聞いて、井村さんが大きな声で言った。「心配ご無用!私たちが、しっかりやります!」
藤沢社長は振り返らず、右手を軽く上げて応じた。
「井村さん、言うね~。」俺は呟くように言った。
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