アンティークコレクター?
林夫妻が戻ってきた。満面の笑みで「謝々」と言いながらその中国人夫婦と握手をしていた。そこに華さんが、通じないであろう流暢な英語で、中国夫婦に話しかけた。「I am a collector of Chinese antiques. If possible, could you please give me that address plate?(私は中国アンティークのコレクターなの。もし可能なら、この住所表示プレートを譲ってくれませんか?)」
やっぱり通じてないが、100元札を見せて、301号のプレートを指さして「チェンジ、チェンジ」と言っている。林ご夫妻と俺は、あっけにとられた。中国人のご夫婦は、何やら思案顔である。華さん今度は逆のポケットから、もう1枚100元札を出して「もう100元。200元でどうかしら」と言っている。「チェンジ、チェンジ」林夫妻と俺は相変わらず呆然と見ているだけだ。
ついには、中国人夫婦はにっこり笑って、「好的(いいよ)」と言った。「山本さん、ヨロシク!」と華さんが言ったので俺は錆びたくぎで止められた301号のプレートを力任せに外した。そして華さんは、200元を渡しながら「謝々、謝々」と言った。そして、我々4人は中国人夫婦に手を振りながらその場を離れていった。
謝さんの待つ車に戻った華さんは、後ろの席に乗り込むとハンカチでくるんだ301号のプレートを自慢げに謝さんに見せた。謝さんはかなりびっくりした様子で、俺に言った。「山本さん、泥棒ダメよ。」俺は半笑いで「違うよ、泥棒じゃないよ。お金は払ったよ。」「売るのダメよ~。」と言いながらも、謝さんはいつもの笑顔に戻った。そこで、プレートはご夫妻に引き渡され、ようやく俺と林夫妻と華さんは笑顔で笑った。
あとで、謝さんに聞いたのだが、今回訪ねた武昌路の界隈の建物は、近々再開発で解体されるらしく、まあ今回の件は問題にはならなそうだと分かった。
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