てるさんのしあわせイノベーション -978ページ目

『虐殺器官』伊藤計劃: 肉体を超えた永続発展

伊藤計劃の『虐殺器官』を読んだ。


解説 翻訳家 大森望 より

物語の背景は、モスレム原理主義の手作り核爆弾によってサラエボが消失し、”テロとの戦い”が新たなステージに入った近未来(おそらく2020年前後)。先進国諸国では、市民の監視を徹底することで、自由とひきかえに安全を手に入れたかに見えたが、その一方、発展途上国では内線と民族紛争が頻発しはじめる。
一人称主人公の”ぼく”こと、クラヴィス・シェパードは、暗殺を専門とするアメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊の大尉。心理操作とハイテク装備によって優秀な殺戮機械となり、紛争地域へと潜入して任務を遂行する。その新たなターゲットとして浮上したのが、各地で起きる不可解な虐殺の背後でつねに見え隠れする謎の米国人、ジョン・ポール。その影を追って、”ぼく”は悲惨な虐殺の現場へと赴く…。


以前よく読んでいた小説と縁遠くなり、ビジネス書、実用書に長らく浸っていた僕にとっては久しぶりのSFサスペンス小説だ。

虐殺がテーマで、社会企業家らしくない内容かもしれない。
読むきっかけになったのは作者、伊藤計劃の経歴だ。


解説の一部を要約すると、以下のようになる。

1974年、東京生まれ。武蔵野美術大学美術学部映像科卒業。大学時代は漫画研究会に所属。卒業後はウェブ制作会社に勤務。2001年夏(おそらく会社勤めして数年後)に最初の癌を発見。
手術と治療を経て、しばらく健康を取り戻すが、2005年6月に肺への転移を発見。闘病記をネットに公開。2006年4月まで長く続いた抗癌剤治療が一段落し、2006年5月に会社勤めのかたわら『虐殺器官』をわずか10日ほどで一気に書き上げ、第七回小松左京賞に応募する。おしくも落選するが、絶賛した予選委員の働きかけで刊行が決定し、改稿して2007年6月に出版。「ベストSF2007」の国内篇1位、ほか数多くのランキングで高評価を得ている。
その後数冊の短長編を出し、2009年3月20日に逝去。
作家活動は闘病しながらのわずか3年あまりながら、ゼロ年代の作家のベストと言われている

僕の母も肺癌で3年の闘病後、伊藤計劃と同じ2009年3月に亡くなっているのが、本書を読む動機になった。


闘病中の苦しむ姿を見るのは辛かったし、亡くなった後しばらくは「もっとああしてやればよかった」という自責の念に苦しんだ。

その後、会社の意向で、僕は社会的事業に携るようになった。
そこで、ある方から「肉体を超えた永続発展」という話を聞いた。
一言で言えば、人の肉体は有限である、しかし志とそれによって生まれた事業は肉体を超えた永続発展が可能である、ということである。

たとえば、稲盛和夫氏は政府から乞われて、78歳にして無給でJALの会長に就いた。
京セラを世界的企業に築き上げ、第二電電(KDDI)を成功させたカリスマ経営者。
名誉欲や私心を考えれば晩節を汚す危険性が高く受けてはならない仕事。
それをあえてやるのは「肉体を超えた永続発展」の天命。

そして、母は僕や妹を育てることに「肉体を超えた永続発展」を無意識に見出していたと思っている。
だから、ぼくは今、母の死を悲しむより、その「肉体を超えた永続発展」の志を引き継ぐことが大切と思うようになった。

伊藤計劃の本書にも、彼が肺癌で決意した「肉体を超えた永続発展」の足跡が満ち満ちている。

着想の独自性が秀逸なのはもちろんのこと、現代社会のイシュー(課題)、科学技術との整合性なども非常に精緻に調べている。


残り少ない有限で濃密な生の時間から紡ぎだされた文学史に残る名作である。

作品だけでなく彼が日々感じ、残した思いをこれからはブログ『伊藤計劃:第弐位相』でたどっていきたいと思った。


伊藤計劃:第弐位相↓
http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/



ペタしてね