クリスマスの思い出 フランス駐在時代
1997年から2003年までの6年間、ぼくはパリの16区のポルト・ド・サンクルーという所に住んでいた。
日本人駐在員はオートロックでセキュリティシステム完備の新しいアパートメントに住む人が多かったが、ぼくのアパートメントはシステム化されていない3棟建ての古いアパートメントだった。
しかし、ガルディアン(管理人)が初老ではあったが、きびききびとよく働き、不審者に目を光らせており、システム化されたアパートメント以上に安全だった。
このためか住民は外国人よりもフランス人の裕福なお年寄りが多かった。
彼は往年のショーン・コネリーを思わせるような男前系のコワモテで、最初、ぼくはフランス語もフランスの生活習慣もわからず、彼からいろいろ怒られ、正直苦手だった。
彼の印象が変わったのはクリスマス・シーズンだった。
12月になると、彼は中庭に巨大なクリスマスツリーと飾りをした。
3棟各棟にも入り口にクリスマスツリーや電飾を施した。
さらに、掲示板には住民のクリスマスパーティの案内をしている。
「シャンパンとおつまみを用意したので、12月某日クリスマスツリーの前に集まってください。」
当日、住み込みのガルディアン夫婦だけでなく、離れて住む息子たちが呼び寄せられ、サンタクロースの格好をしてみんなを盛り上げている。
さらに子供たちには担いでいる大きな袋からおもちゃなどのプレゼントを渡している。
シャンパンやおつまみは盛大にテーブルに並べられ、みんな普段あまり話さない別棟の人たちとも楽しく歓談する。
これらが会費制ではなく、すべてガルディアンの好意で身銭で提供されているのである。
とはいっても彼の献身は報われていたはずだ。
フランスではクリスマスの時期に、お世話になった人にチップを渡す習慣がある。
ガルディアンへのチップはピンキリで、あまり献身的でない場合は1千円程度のチョコレートで済まされるが、よくやってもらっている場合は1万円以上の現金を渡す。
このアパートメントでは、ぼくだけでなく、みんな最高ランクの1万円以上を渡していたのではないかと思うので、チップ収入だけで30万円以上あったはずである。
それにしても、あれは今でもクリスマスのとてもいい思い出となっている。