監督
ライアン・クーグラー
ジャンル
ホラー、スリラー
出演
マイケル・B・ジョーダン as スモーク/スタック
ヘイリー・スタインフェルド
マイルズ・ケイトン
ジャック・オコンネル
鑑賞方法
映画館(IMAXレーザー/GTテクノロジー)
今最も注目を集める監督の一人、ライアン・クーグラーが盟友マイケル・B・ジョーダンと組んで放つオリジナル大作、ということで観る前からワクワクが止まらない。
どうやら『フロム・ダスク・ティル・ドーン』のような、最後はホラー作品にジャンルチェンジするという奇天烈な内容になるという噂。そんなB級映画のような展開の作品をフルサイズIMAXを駆使して撮影しているというのだからもはやちょっと怖いもの見たさみたいなノリさえある中、いそいそとエキスポシティのIMAX詣。
お客さんが結構入っているのは上映館が少ないからでしょう。8割ぐらい席が埋まっていました。
ほぼ黒人フルキャストの映画としては異例のことだと思います。
ブラック・ムービーが好きなのにいつも公開されないことが多くて悔しい思いをしているのでなんだか嬉しい。
ジョーダン・ピールと並び称される当代きっての黒人監督が撮る作品だけに、ブラック・カルチャーのことはきちんと語る内容であることは確実。奇天烈な作風を通してどう切り込んで語るのかが注目ポイント。
はてさて期待値は大きくなるばかりですが、観終えての感想としてはもう、大満足。
今のところ本年度最高の作品です。
音楽好きの立場から言うと、この映画はホラージャンルというより音楽もの。
ジョーダン・ピールが『NOPE』で映画史と黒人のことを掘り起こしましたが、ライアン・クーグラーは米国ポピュラー音楽史の黎明期に大きな役割を果たした黒人が遭遇した問題を寓話に昇華しながら丁寧に掘り起こしました。
舞台が1930年代の南部ということもあって、基本はブルース。
主人公が作る、酒場ジューク・ジョイントの演奏家はそのブルースの達人は劇中でも何曲か素晴らしい歌を披露してくれます。
黒人音楽のもう一つの大事な柱であるゴスペルを物語に組み込むために、彼の実家を教会にしているところもポイント。
教会の牧師である父親から、背徳的で悪魔の音楽とさえされていたブルースを歌うことをやめるように言われる件は、この物語が悪魔に呪われたような結末を迎えることを暗示しています。
さて、この映画は中盤に音楽のPVのように、曲の盛り上がりとともに一堂に会した参加者が歌い踊るという高揚するシーンがかなり長回しであるのですが、そこでブラック・ミュージックの系譜をたどるような、ファンクあり、ヒップホップありのアレンジに、ブーツィー・コリンズのようなギタリストやトゥオークを踊るダンサーなどが続々増えて出てくる演出になっていて否が応でもアガりましたね。
ただ、この映画、ただただ黒人音楽最強ってことでは終わらせず、アリス・イン・チェインズなど、ブルースに影響を受けた白人アーティストも、ライアン・クーグラーのお気に入りということもあってしっかり引用。
黒人音楽と白人音楽は混じりあって現在存在することを無視せずに入れているところは今まであまり無かったアプローチで新鮮でした。
ヴァンパイア設定にしても、アイルランド系の白人設定にすることで、ロックンロールの誕生に通じる、リズム&ブルースとヒルビリーの邂逅を示唆するというものになってるし、色々な情報がてんこ盛り。
ちょっとなんだかんだと詰め込みすぎなところはありますが、それはライアン・クーグラーの生真面目さが表れているのでしょう。
彼の作った『ブラックパンサー』は全国の黒人の小学生が学校のプログラムとして映画館に行くような社会現象的な事態にまでなり熱狂的な支持を集めました。そこではブラック・カルチャーの持つ魅力を余すことなく取り込んでいました。
今回ライアン・クーグラーはそのオトナ版ともいえる本作で、忘れ去られそうな黒人音楽の歴史を映画に封じ込めて、こどもではなくもっと上の世代の若者に向けてブラック・カルチャーの記憶を語り継ぐことに挑んでいるように感じます。
エンタメとアカデミックな要素をうまくブレンドして見せる手腕はさすがライアン・クーグラー。なんだかいかにも教養豊かな彼らしい作りです。

