2022年お気に入り洋画の総括② | ポップ・ミュージックのトリコ

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流行音楽を聴きながら、人生を音楽で豊かにしたいと願う、私的でミーハーなブログです。

ベストランキング2種類、①ヘッドホンしながらでも繰り返し何度も見るべき映画と、②デカい画面と大音量で聴いて体験すべき映画のうち、②デカい画面と大音量で聴いて体験すべき映画のリストです。

 

早い話がこれは是非映画館で観よう、ということですが公開が終わってしまうとそれはムリなことになるので、それならできればタブレットとかではなくテレビで観ましょう、という趣旨です。

最近はWi-Fi環境があればファイアスティックとかでテレビがインターネット接続になるので、配信開始しているものなら簡単にテレビで楽しめます。

 

できればよりよい環境でお楽しみいただければ。

 

ということでリストです。

 

①『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

アート系の映画だと物語のバックボーンは心理学に加えて西洋哲学や西洋古典を使うことが多い中、この作品は心理学と東洋哲学を下敷きに物語が構築されます。ただ語られるストーリーそのものは親子愛を中心にした家族愛。料理で言えば”おにぎり”ぐらい簡単な題材ですがなかにつまった具が半端ないよ具が。

そこで登場するのは”ゼロ”つまり”無”の存在。これぞ東洋思想の根本というべきものを”ベーグル”という呼び方にしてポップな作品に仕立て上げます。天国と地獄をわける”審判”をくだすのではなく、大乗仏教のような慈愛の精神で全員の救済を試みたり”無”の境地にこそ”悟り”があったりと普段我々の見るヒーローものの仕組みとは全然違います。マルチバースという最新の流行のSF設定を人生の無限の可能性と解釈する使い方も素晴らしい。しかもあちこちのバースに自在にジャンプするのはここでは明らかにADSDのメタファー。疾患を特殊能力として扱う潔さ。

ザ・アメリカの下町な世界観で忍者対決ものムーヴィーを撮ったかのようなごった煮感が強い作品。

このヒーローもの日本で獲るならトットちゃんこと黒柳徹子主役だろうな。彼女のジャンプ能力は日本では最強ですからね。

 

②『トップガン マーヴェリック』

マーヴェリックが帰ってきた、なんて話になってますが、気が付けばそこにはトム・クルーズ本人が、本人のままに本人を演じている作品。そして彼が命がけの演技をすることで、時代遅れのおれが映画界のピンチを救おうとして本気で挑んでいることが伝わってきます。観終わった後、『プロジェクトX』の神回を見終えたような感動を覚えるのは、本作がフィクションなのにドキュメンタリーとして観てしまうからでしょう。

敵が”ならず者国家”としか表現されない子供じみた設定でも、ありえない現役パイロット復帰のくだりも全部吹き飛んでしまうくらいトム・クルーズはガチで覚悟を決めて映画を作っています。こんなトムの姿を見ればだれも妥協なんてしません。そして妥協なしの傑作が誕生したということでしょう。

 

③『ザ・バットマン』

あのバットマンがリブート。おいおいもうノーランのバットマンで最終形は見たよ、と思いながら本作を見たら、これが驚き。2020年代らしいリアルなバットマンの再定義。バットマンの活動はいわば私人逮捕系ユーチューバーと似たもので、そこに正義はあるのか?という根本の問題をはらんでいます。バットマンを偶像化して神話にまで昇華したのがノーランの描き方なら、こちらはもっと闇に焦点をあてた陰影の濃いバットマン。リドラーもかなりいいキャラ造形。これ日本人はこっちの方が好きだよな。大ヒットを受けて急遽続編作成のために主人公のスケジュールをおさえたとか。おいおい、そんなに自信無かったんかい。

この映画観て思い出したのはアリーヤというアーティスト。Rケリーという当時飛ぶ鳥を落とす勢いのアーティストプロデュースで1作目をつくったあと、ゴタゴタがあって急遽ティンバランドなる無名の男に2作目のプロデュースをまかせることに。あまりに暗くてノレないヘンテコな楽曲にレーベル側は半信半疑だったらしいけど、この2作目でアリーヤは1作目以上の評判を受け、ティンバランドは名声を得るにいたります。

バットマン、ちょっと暗いけどちゃんと見ておけば絶対新時代の目撃者になるので1作目はチェックしときましょう。

2作目からはデカい映画館、それもできれば往年のソニーのトリニトロン並みに黒の表現が素晴らしいドルビーシネマで観るといいと思います。

 

④『NOPE/ノープ』

AKIRAバイクのシーンがあったりエヴァっぽいデザインだったりと日本映画大好きすぎるオマージュも見受けられる本作。若手黒人監督としてはほぼトップランナーである彼が初めてとるスペクタクル巨編映画。

スペクタクル巨編って何だったっけ?と言って監督がググったのかどうかわかりませんが、監督にとってスペクタクル映画とは何か?を映画中そのままシナリオとして落とし込んだような作風が面白い。

”見世物”という日本語訳となるスペクタクルだけに、”見る側””見られる側”という立場にある差別問題にも言及。見世物における”見られる側”の怒りや苛立ちをスリラー描写にうまくリンクさせているのは見事。

日本でも見世物小屋というものが昔あって、そこには頭が二つある動物のはく製や、子供の背丈もない低身長の大人や蛇に育てられた蛇女などが中に存在しそのショーをみるというものでした。

こういう少数の変異種を多数派の見世物にするという行為が意図せざるとも”見られる側”がバケモノとして消費されるということを生みます。その問題提起としてこの映画は機能します。

物語は動物の調教師の子息としての主人公兄妹にもスポットを当てていて、スカッとする映画に仕上がっているのも素晴らしい。

 

⑤『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』

ナイブズ・アウトの続編で、いかにもミステリーのふさわしい屋敷が舞台の前作とは変わって、孤島を舞台に繰り広げられる密室劇になっています。

前作では大金に目がくらむ大人たちの愚かな攻防でしたが、今回は動機不明のまま殺人が続くミステリー。やがて浮かび上がる真相は・・・とここはミステリーなのでネタバレ完全無しにします。

最近めっきり減ったジャンル映画のひとつミステリーものに挑んだ本シリーズ。

今回はNetflix独占配信でのリリース作ですが、これは映画館で観たかった。

この作品は何より舞台が美しい。コロナ禍には絶対行くことが出来ないリゾート地の魅力を劇中で余すことなく体験させてくれる映画。

 

外『RRR』

さてランキング途中ですがここで非英語映画を。

このランキングでは英語作品をといあげていますが、日英語作品にいいものがあれば勿論ランキング内に取り上げます。ただしランクのカウントからは外しています。

ということで『RRR』。インド映画の楽しさと最新のSF技術の組み合わせでとんでもない娯楽大作に仕上がっています。

あまり語られてないですが女優さんがメチャクチャきれい。インド映画のレベルの高さはそういう所でも圧倒的です。

 

⑥『フェイブルマンズ』

スピルバーグ御大が”俺もまだこういうアート作品っぽいのも作れまっせ”と本気でやったらマジでヤバいのができたっていう映画。

自信の自伝的映画でテーマは”私と映画”みたいなシンプルだけど自分が足りを余儀なくされる作品。

まあ自分自信の手で自分の映画モンスターみたいなペルソナの部分を描いており、これが彼の人格のすべてではないししても、とてもじゃないがヤング・スピルバーグを描く青春映画という見方はできません。

自分の才能に自分でさえ想定が及ばず周囲に大きな影響をあたえ、また映画に対する執着は身内の出来事ですら作品に仕上げる構想をいだいてしまう、という映画作家本人の苦悩とそして映画そのもののもつ危険な性質に切り込みます。

さすがスピルバーグ、ただの映画バンザイみたいなものは作りませんね。

 

⑦『Tar/ター』

クラシック音楽指揮者を通じてある語られる権威的な芸術文化の繁栄と衰亡を描いた作品。そこにネット社会がはらむ”キャンセルカルチャー”の問題を描き出します。

面白い部分がたくさんありすぎる作品ですがネタバレしない部分で語るとすれば、これはある経緯的な存在の失墜という悲劇を描いており、クラシック音楽そのものの没落を重ね合わせ、そしてそれは映画文化の衰退をも連想してしまいます。

この作品の最後にモンハンのテーマが流れるのはゲームという文化芸術の勃興の前に音楽も映画も時流に合わせて寄り添うしかないがそれは衰退とはいいきれない既存の芸術の再定義・再出発なのだということ。

さらにエンドクレジットでは”バーバリアン”という曲が流れます。バーバリアンとは”野蛮人””未開の人”そして古くは”ローマ市民以外の人”ということでした。新しい芸術は常に未開の人、野蛮人で既存の芸術など解することが出来ない人によってもたらされるという現実。

それは古くは”ローマ市民以外のひとという語源が野蛮で未開であるという解釈になったことからも明らかで、ギリシャ・ローマ文化を根っこにする西洋文化がいまや瀕死の状態であるが、それを不本意なかたちであれど延命しているのも”バーバリアン”たちの存在あってこそ、という事実。映画の冒頭では主人公ターが民族音楽を指して研究の対象にしているという”上から目線の見解”でみていた”バーバリアン”の音楽が物語終盤ではどうなるのかを見届けてください。

 

⑧『ノースマン 導かれし復讐者』

北欧神話をきちんとリアルに映画に落とし込むなんてちょっと地味すぎやしないか・・・と思って観始めたらなんだこのおどろおどろしい世界は。

近年日本でも中世の世界観を見直す動きがありますがこれはその北欧版で、復讐に生きる男の物語を本当に丁寧な時代考証を元に紡いでくれます。

ここに出てくるアニャ・テイラー・ジョイもとにかくきれいで・・・。

 

外『西部戦線異状なし』

戦争のリアルを描いたドイツ作品。ハリウッド版が有名ですが本作はドイツが描くということで、やはりドイツ人らしい緻密で丁寧なつくり。そして意味もなく散ってゆく命の軽さ。

ネットフリックス独占配信になってるので仕方ないにしてもこれも映画館で観たかったなぁ。

英語以外の国の映画っていうと、フランスとかインドとか韓国とかが有名ですが、ドイツもいい映画作る国なので、もっといろいろな作品に注目が集まって欲しいです。

 

⑨『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

こんなもん映画館で観るしか無かろう、ってことで観たのですがそのあと自宅でどのくらいの体験ができるのか気になって自宅で鑑賞。

まあそりゃ映像の魔術師であるジェームズ・キャメロンが最新の映像の技術を研究しつくして作った作品だから映画館で味わった映像美への感動は無かったものの、水の表現など、CGの限界値に達した描写は自宅でも十分に伝わりました。

いや、むしろよりもっと緻密に感じたかもしれません。彼の表現はむしろどこまで自然に近づけるかに関心が移っていてCGで人工的に作った舞台である惑星をただただ地球と同じようなリアルな感覚の映像で見せるという神の領域に踏み出しています。

キャメロン監督は映像美とともに作劇がうまいことも有名で本作も最後まで体験ツアーなんかではなくきちんとした物語になっていてやはり別格の巨匠なんだということを思い知らされました。

天才のつくる芸術の作品はいわば21世紀のダヴィンチの作品とでもいうべき域に達しているといえます。

 

⑩『ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス』

「あのサム・ライミがマーヴェル作品を撮るだって?なぁーにぃー」ということでドクターストレンジが帰って来ました。前作の監督のキテレツな世界観も好きだったのでそれが無かったことになるのはやだなぁ、と思ってたらそこはサム兄貴わかってらっしゃる、ちゃんとやるんですよね。それでおお、サム兄貴も大人になったな、もうやんちゃしないんだな・・・と思ったのも束の間もう馬鹿みたいにサム兄貴のエキスをドバドバ投入したお祭り映画でした。

ゾンビゾンビゾンビゾンビゾンビ、ギャー!!!

いや、もうお腹いっぱいだよサム兄貴。もう食えねぇよ。

MCUという枠組みにきちんとはめなきゃいけないはずなのに、なんかこれだけ好きにつくらせてもらえるサム・ライミの信頼度って凄いんだなぁ。そりゃスパイダーマンの実写化当てたパイオニア的存在だからなぁ。

それにしても面白かった、唯一の不満はヴィラン。ダメだよこういう辛い設定の敵は。”ならずもの国家”とかでいいじゃん。