友人と一緒に
「30分で書く」試みの8回目をしました。
7月も、この書く楽しみは続きそうです。
今回は、書き始めの一文から創作しました。
30分で書いたものは「秘密」
(少し手を加えています)
秘密
もしかして、言い間違えた? 待ち合わせたランチのお店に向かって歩いていても、心の中が重くなる。わたしの会社は部署全体の朝礼があって、毎週1人ずつスピーチの当番がある。今朝はわたしの番だった。30人の前で、先週の振り返りを話した。隣のブースにいる田口くんに助けられたことを話し、「ご厚意に甘えちゃいました」と笑顔を添えて締めくくった。
それからの雰囲気は最悪だった。ニヤニヤしながら見つめてくる人、コソコソと話し合って笑う人。デスクに向かってパソコンのキーを叩いていても、電話で取引先と話していても、誰かの視線を感じる。不快だ。
トイレに行くふりをして、部署の端っこの席にいる同期に話しかけてみた。同期はすばやく周りを見渡して、給湯室に向かうようにと目配せする。わたし達だけの合図みたいなものだ。
トイレの前を通り過ぎて、給湯室に入る。小さな換気扇が回っているけれども、風通しが悪くて夏は暑い。同期がちょこっと顔を覗かせた。紙コップに入ったコーヒーを1つ、手渡してくれた。暑いね、とお互いに言って、アイスコーヒーを一口すする。
「どうしたの」
同期が紙コップに口をつけたまま、上目遣いに尋ねる。わたしは何から切り出そうか、迷った。
「今朝のスピーチ、変だった?」
「いや、別に」
同期は小さなシンクにもたれかかる。わたしも隣でもたれた。
「スピーチしてから、何か周りが変なの。ニヤニヤされたり、コソコソされたり」
「ああ、それ。もしかして、田口くんがあんたのこと好きなの、知らないの?」
わたしは紙コップを落としかけた。少しコーヒーがこぼれた。同期は笑って、干してあった雑巾で床を拭いてくれた。
「確かに、今日のスピーチ、告白っぽくも聞こえたなぁ」
え、え、え、なんで。どうしてわかったの? わたしが田口くんに好意を持っているのは、誰にも話していない。それで、田口くんがわたしを何だって? 頭の中がぐるぐると回る。同期は、ニヤニヤとわたしを見つめていた。
「ふふ。今日のランチ、おごりなよ」
お気に入りのカフェの名を言って、同期は颯爽と去って行ったのだ。
ランチタイムのカフェは混んでいる。店の奥に同期を見つけた。「お待たせ」と言って、椅子を引く。座ろうとしたとき、同期が手を高く振った。何だろうと振り返ったら、田口くんがこちらに近づいてきた。とっさに逃げようとして、同期に手をつかまれた。何かを企んでいるような目で、彼女は笑っていた。