本記事は前回の「MMT派ハドソン教授 -ドル覇権の終焉(Ⅱ) -全体主義からの脱獄⑭」の続きとなる。
*この記事はシリーズ「全体主義からの脱獄」の一部となる。他の記事はこちらから。
ハドソン教授のロジックを一枚の画像にまとめたので、全体像をイメージしやすいかもしれない。
「アメリカと銀行家たちが、IMFや世界銀行を通じて、世界をドルによる負債で支配している」という構造だ。

ハドソン教授、デサイ教授、アン・ペティフォーの鼎談の続きを抄訳する。
▼ A new Third World debt crisis? The need for system change
2023/06/23 Geopolitical Economy Report
〇デサイ教授:
今のお話に私が付け加えたいのは、世界はケインズのブレトンウッズでの会談に戻って何が間違っているのかを考え直すべきだということです。
ケインズの提案は貿易に頼らずともバランスの取れた国内経済を促進することでした。
ケインズはブレトンウッズでは議論に負けたと言われますが、それはIMFがアメリカのドルという一国の通貨システムに追随したことを意味します。
このシステムはとても不安定であったため、1971年の債務危機に繋がりました。
グルーバルサウス国の財政赤字が拡大するほど、彼らはドル債務を必要とし、そしてドルの発行量が拡大するほどドルの価値は落ち、システムが不安定化するというジレンマに陥ったのです。
ドルの発行量の増大は、財政的な理由だけでなく、略奪的で投機的な理由でドルの需要を増加させました。これが破滅的な金融市場の拡大に貢献してきました。
債務危機は、70年代も今も、ドルの覇権体制を安定化させるために必要となる不均衡の結果起こったことだと言えます。
70年代の石油危機の時に、アメリカは産油国を説得して石油価格を抑えられたはずですがそうしませんでした。
それは、米国は産油国が石油を売って稼いだドルを米国の銀行に預金するよう促して(ここでペティフォーが「脅しましたね」と同意)おり、その資金を、利息の儲けのためにグローバルサウス国などに融資していたからです。
70年代、ポール・ボルカーは「金利が上がり続ける限り許容する」とした政策を採用し、いわゆるボルカー・ショックを引き起こしました。
ボルカー・ショックはインフレを抑えるためではありましたが、同時に第三世界の労働力を抑制し、公正を求める声を抑える向きで機能しました。
IMFと世界銀行は、グローバルサウスの発展のための投資政策を優先させるのではなく、実際には開発を後退させる(De-Development)ようなことを行っています。
これは、民営化などを介して、第一世界の国に従属させるために設計されたシステムなのです。
サウス国の債務は、このように設計された循環システムのうえに成り立っています。
そしてウォール街こそがこれを駆動させる権力であるとするペティフォー氏の主張に同意します。
ウォール街はお金を稼ぐためにサウス国に融資を押し付け拡大することに全力を尽くしているのです。
〇ペティフォー:
世界の負債の総額は300兆ドルと言われていますが、所得の合計は90~100兆です。これらの負債が返済されることはありません。
ウォール街は一方で世界中の資産の民営化を進め、もう一方で民営化された資産を再投資し資産管理ファンドやプライベート・エクイティ・ファンドによって巨額の資産を貯蓄するようになりました。
シャドーバンキング部門では、信用仲介のかたちで年金基金の管理も行っています。
彼らは事実上、信用(クレジット=通貨)の創造者になっていますが、このあたりの話は限度を超えていると言えますね。
超低金利で緩和された「イージーマネー(Easy Money)」が増えていく過程で危機を引き起こし、アメリカ経済を破壊するのです。
2007年の金融危機やコロナ禍後の危機でも、中央銀行は、銀行を「Too Big Too Fail」のスローガンのもと救済しなければなりませんでした。
大金持ちたちが利益を上げるためにはボルカーショックをもう一度起こす必要がありますが、最近金利を上げたのはそのためです。
これはポンドやドルには通貨高をもたらす一方で貧しい国にとっては大打撃となるサディスティックな中央銀行の政策でした。
お金の流れをアフリカからロンドンへと向かわせ、彼らの通貨を弱体化させ、また債務も増加させるでしょう。
このようなことは今までに何度も繰り返されてきましたが、今回はどうやらこれまでよりも規模が大きく、私には最後の一撃(Final Straw)のように見えます。
ご存じの通り、米国議会も事実上、ウォール街に買収されていますので手を出せません。
〇ハドソン:
ペティフォーさんが話したのは、各国がその支払い能力の範囲内で負債をどう解決するかということでした。
米国が利上げによりドルの為替レートを上げたことで、外国は自国通貨で支払うためのお金をもっと稼がなければならないということです。借金を支払うのに必要なドルを購入するための現地通貨のコストがますます高くなるのです。
しかし基本的に、お金はいつでも印刷できるので、本来はこの負債は自国通貨での支払いを可能にすべきです。
価値の上昇し続けるドルなどの通貨での支払いは、時に利払い費さえも越えた額になります。
これらはウォール街の仕業であることは確かです。
一方でロシアへの制裁に関してはアメリカ政府主導であり、ロシア産のガスや石油を止めたことで価格を急騰させ、グローバルサウスの債務国は突然多くの支払いをせねばなりませんでした。
またロシア産肥料の価格が上昇したので食糧価格も上昇し、債務国を圧迫しました。
しかし債権者はいかなる手を使ってもこの債権を回収しようとするばかりです。
実際には、アメリカ政府としては、他の国がドルを借りてウォール街が儲かれば儲かるほどアメリカ経済が良くなり、同時にアメリカに外交力も与えると考えています。
そうやって抱えたアメリカの巨額の国際収支の赤字は、プレデター国家としてグローバルサウス国から巻き上げたお金により成り立っているのです。
〇ペティフォー:
ちょっと中断させてもらっていいですか?
私は「ウォール街がアメリカ政府を所有している」と主張したいです。
〇ハドソン:
ええ、それにはまったく同意しますよ。(ニッコリ)
〇ペティフォー:
この点は区別するのが難しいんです。例えばロシアに関してはあなたと私は意見が異なると思うんだけど、少し言っていいですか。
ロシアはウクライナを侵略しましたが、私にとって明確なのは、ロシアが預けている外貨準備(Reserves)をアメリカが凍結したのは絶対に許されるべきことではないということです。これはロシアの公共財(Public Goods)で、ロシア国民の資産でもありますけど、戦争になったからといってアメリカがこの衛生機能とも呼べるものを凍結することは許されません。
しかしこのことこそが地政学的な大再編を引き起こし、米国に害を及ぼすことになりました。
〇ハドソン:
そうです、それこそが唯一の希望とも言えます!ドル資産なら安全だという考え方が崩れたんです。これが希望の光です!
〇ペティフォー:
ええ、つまり私達は、ウォール街が政府を所有していることについては、まったく同意見というわけですね。
ウォール街のシャドー・バンキング・システムは誰にも見えず、説明するのも困難ですが、ひとたび国際コモディティ価格が下落すると現実に見えるようになります。
誰もが「プーチンが石油価格を吊り上げた」と、また「サウジが価格を決定している」と考えていますが、そうではありません。石油価格には需要と供給の要素は影響しません。
戦争が始まって一時的に供給が途絶えましたが、すぐにアメリカは石油備蓄の供給を始め、また同じように世界の他の地域からも供給されるようになりました。
実際に起こったことは、シャドーバンキングや、年金基金や保険会社の資産運用ファンド、プライベート・エクイティが価格を吊り上げるために、危機に便乗して投機を行ったということです。
そして政府やエコノミストたちは、こういったグローバル市場について話すことを拒否しました。
エネルギー市場はここで決まるものでもなければ、需要と供給で決まるものでもないのです。
〇デサイ:
ここで話題を変えましょう。
中国は、今話してきたようなグローバルな帝国主義的統制システムから自らの身を守って来たからこそ今の発展があります。
米国の望む資本規制の緩和を拒否してきた点も大きいでしょう。
重要なのは、現在、中国が他の発展途上国に対しての最も大きな債権者になっていることで、これは彼らにとっての代替財源として今までと違う性格を帯びています。BRICSの拡大と共にその機能は拡大しています。
現在のコロナ禍と戦争、制裁は第三世界に莫大な代償を支払わせることになるでしょう。しかし今までのなんらかのイニシアティブは、極めて詐欺的でした。
〇ペティフォー:
あなたの意見に全て同意します。一つ加えるなら、「債務返済のための生態学的危機」です。返済のために森林を伐採し、海洋資源や鉱物資源を差し出さなければならないかもしれません。
でもそうなればなるほど、自国のみならず世界の、そして債権国であるアメリカの生態学的危機をも引き起こします。
アメリカ人は、自分自身を傷つけることなく貧国を搾取し続けることはできないという盲点に気づくべきです。西欧やIMFも、この危機的状況に気づくべきなんです。
債務を返済するためには実物資産(Real Asset)、物理的な意味での資産を充てることが必要です。
現在の生態系が危機的であることは皆さんも共有していますが、まったくの自殺行為です。
〇ハドソン:
まったくあなたの言う通りですが、問題は、なぜ世界が、そしてウォール街がこの課題を解決しようとしないのかということです。
もし政府をコントロールするウォール街が短期的視点ではなく、長期的視点を持ち合わせていたら、第三世界の発展が気候危機の解決に役立つと理解するはずです。
しかし彼らは3か月、長くて1年先の利益のことしか気にしていません。この相違が悲劇を生みます。
デサイ教授が先ほど言ったように、この長期的視点こそが、中国を強靭にさせているのです。なぜなら中国では、中央銀行が政府を運営しているのではなく、政府が中央銀行を運営しているからです。
〇デサイ
新自由主義は常に自由市場のようなものと見なされていますが、実は資本主義の進化の特定の段階において、新自由主義が現代において唯一取り得るものは、金融化です。
気候問題や生態系の問題に対処するためには長期的な視点が必要ですが、金融にはそれがない。
マルクスは「資本論」第3巻の賃借料の章の冒頭で、私的所有権では、土地を管理する方法として合理的な農学は成り立たないと言っていますが、私が付け加えたいのは、もし私たちが皆、重要な解決策としての脱成長について話しているのだとしたら、ということです。
私は彼らの言うことに反対ではありませんが、彼らが使っている言葉には少し問題があります。
というのも、新自由主義政策が始まった後、実際には世界の成長率は下降線をたどっています。生態系破壊のあらゆる指標は、気候変動であれ、公害であれ、生物多様性の損失であれ、あらゆる指標において、1980年以降に急増しているのです。
お二人ともおっしゃっているように、金融化とは、ごく少数の特権のために地球のあらゆる資源を乱用することなのです。
そしてこれが、私たちが作り上げた金融システムであり、旧来の金融システムと同様に、この新たな債務危機を引き起こした金融システムなのです。
さて、もう今回は時間が来ました。
そこで提案したいのは、一旦終了して、この議論を再開すべきだということです。
私たちはまだ質問②の段階ですが、解決策は何かという極めて重要な質問を含め、いただいた7つの質問のうち、あと5つの質問に答えなければなりません。
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長くなったので残り半分の抄訳は次回に続けよう。
ポストケインズ主義やMMT派の議論に慣れていない人は、「赤字=悪い事、黒字=良い事」と考えてしまいがちだが、実際はそうでもない。
アメリカの巨額の対外赤字負債は、多くが他国に対するドル融資・投資に起因するものであり、他国、特にグローバルサウスにとっては首根っこを押さえられることとなる債務のことだ。
アメリカの上院予算委員会経済顧問でもあったMMT派のステファニー・ケルトン教授は「海外に対するアメリカの負債(例えば中国が購入する米国債)は、アメリカにとっての利益だ」と説明する。
https://www.youtube.com/watch?v=RpyuqKLh6QU&t=226s
アメリカにとっての負債、つまり融資や投資は、ネットではリターン(黒字)となって返ってくる。

イギリスのMMT派リチャード・マーフィーによる米国の部門別収支(青色が海外収支)
https://www.taxresearch.org.uk/Blog/2021/01/14/sectoral-balances-show-that-government-deficits-fuel-private-saving/
米国政府の赤字負債が拡大する(収支マイナス)ことで、民間部門と海外部門が黒字(プラス)になる。

*上記は日本の場合。筆者作成。
高利貸しであるアメリカの銀行はその借金返済を迫りつつ、サウス国のインフラや年金機構などを収奪すべくどんどん融資を拡大させ、同時にアメリカの赤字も拡大させてきた。
アメリカ政府が対外赤字を増やすことこそが世界覇権のメイン・ツールだということだ。
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