アメリカとNATOアングロサクソン互助クラブが、銀行間取引システム「SWIFT」からロシアを排除したことでBRICSを中心としたグローバルサウスが「脱ドル化」を始めた。

前回記事で示したMMT派マイケル・ハドソン教授の主張通り、米欧はこの対露制裁によって自らの首を絞める結果に陥っている。

本記事は「MMT派ハドソン教授 -ドル覇権の終焉」シリーズの第二回目となる。

 

*この記事はシリーズ「全体主義からの脱獄」の一部となる。他の記事はこちらから。

 

4月、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、地方行政に外国の決済システムの使用を段階的に中止するよう要請した。
ウクライナ紛争を巡る米国、EU、およびその同盟国によるロシアの金融セクターを対象とした制裁を引き合いに出し、インドネシアは地政学的混乱から身を守る必要があるためとのことだった。
https://geopoliticaleconomy.com/2023/04/06/dedollarization-china-russia-brazil-asean/

国連事務総長の顧問を18年間勤め、現在、国連サスティナブル開発ネットワークの所長を務めるジェフリー・サックス教授も「アメリカがヴェネズエラやロシアをSWIFTシステムから追い出したことによって、他の国の二国間貿易における自国通貨決済が進んだ。アメリカが気に入らない国のSWIFT決済を止めたことで、ドル決済のリスクが顕在化した」と報告している。
https://www.youtube.com/watch?v=007qsCJUcQk

SWIFTシステムからのロシアの排除は直接的なきっかけだったが、グローバルサウスの「脱ドル化」の理由にはもっと根深い、歴史的なものがある

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前回記事で抄訳したハドソンとデサイらの鼎談で説明され、また本記事でより深く掘り進める「負債の網によるアメリカのグローバルサウス支配」ともいえる構図を、筆者は一枚の簡略図にしてみた。


元締めのIMFやアメリカは、イルミナティっぽく三角にした。
https://twitter.com/Odessa_Forever_/status/1686338341346877440

上図をイメージすると、下記で抄訳する文章が理解しやすいかもしれない。

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「Geopolitical Economy Report」で、ハドソン教授とインド系カナダ人のデサイ教授、そしてゲストとして招かれたアン・ペティフォーが鼎談を行っている。
こちらもとても重要なので抄訳したい。

アン・ペティフォーは、2007~2008年の金融危機を正確に予測した「来るべき第一次債務危機」の著者。
ケインズ派のマクロ経済政策研究所 (PRIME) の署長であり、ロンドン大学シティ政治経済研究センター(CITYPERC) の名誉研究員。
最貧国の債務を帳消しにするための世界規模のキャンペーン「ジュビリー2000」を共同設立した。
コービン時代の英国労働党の経済諮問委員会の委員、「影の財相」ジョン・マクドネル議員の顧問でもあった。
GND推進者であり、スコットランド政府の公正移行委員会にも任命された、政府間パネルの委員長。
ハンナ・アーレント賞を受賞している。
https://en.wikipedia.org/wiki/Ann_Pettifor

ペティフォーは「99%のための経済学 ジョン・マクドネル編」に小論文を提供している。
この書籍は、主に朴勝俊教授や大石あきこ衆院議員、長谷川ういこ氏らGND政策研究会の面々が翻訳した。GND政策研究会は私も属するNPOであるので、ぜひ応援してほしい。


https://onl.bz/ncPmu9p

ハドソンらとの鼎談を抄訳する前に、この書籍のペティフォーの記述から少し引用したい。

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国債の販売は昔から、戦争インフラ建設、公的支出…のための資金を政府が調達するための、由緒ある方法であった。
気候変動は安全保障を脅かすものであるため、国家を守るための軍資金を調達するのと同じような方法で、…GNDへの資金調達が行われるべきである。
そのように調達された資金が、製造業やサービス業の生産活動への投資に使われた場合、高賃金の熟練雇用が増え、「乗数」効果が発生する。
労働者は雇用期間中ずっと税金を支払う。
何年ものあいだ労働者が税を納めるということは、財務省の収入によって、確実に投資が回収できることを意味する。
    -「99%のための経済学 ジョン・マクドネル著」 p.124
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ペティフォーは、上記文章の結論として下記ケインズを引用した。
「失業にさえ対応できていれば、財政は自然にうまくいく」のだ。


また、サッチャーの発言を引用しながらこう述べた。

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彼女の公共財政に関する理解は大間違いであった。
だが、2015年4月6日にまた、デヴィッド・キャメロン首相が同じような言葉を放った。「よろしいですか、公的資金などというものはないのです。納税者のおカネしかないのです」と。
政府支出の資金はすべて税によって調達され、政府には他に資金源はなく、そして家計と同じように、どんな場合でも支出と税収の「帳尻を合わせる」必要があるという考え方は、経済理論としては大間違いである。
政府は家計とは違うし、他にも資金源がある。
財務省が通貨発行当局と緊密に協力すれば、税収を資金源とすることなくGNDの資金が調達できるのである。
実際には、(雇用の増加などによって生じる)税収は、政府による投資の結果なのであって、決して財源ではないのである。
    -「99%のための経済学 ジョン・マクドネル著」 p.126
・・・・・・・・


ペティフォーがこちら側の人間であることがわかる。
(上記二点のサッチャーとケインズのQuoteを私が過去に画像化していたことも、同じ興味を持つことを物語る笑)


ハドソン教授、デサイ教授、アン・ペティフォーの鼎談を抄訳しよう。

 

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▼ A new Third World debt crisis? The need for system change
2023/06/23 Geopolitical Economy Report

 

〇ラディカ・デサイ教授:
1980年代、ボルカー・ショック後にアルゼンチン・メキシコ・ブラジルが債務の返済不能宣言をしたことに始まった第三世界の債務危機が起こりました。この債務危機には中南米やアフリカ諸国が続きました。
この時、第三世界から貸し手である先進国に金融資産は流れた。通貨は切り下げられ輸出量は増大するが輸出額は伸びず、所得デフレが起こり、先進国には第三世界からの安い輸入品があふれました。
2020年代にはコロナ禍とウ露戦争、制裁の影響で再び債務危機が起こりました

〇マイケル・ハドソン教授:
1945年からIMFと世界銀行は、債務者である第三世界への支配力を強めることで、アメリカ人の債権者の利益に貢献してきた。
世銀は、グローバル・サウスの経済を米国からの食糧や他の製品の輸出に依存するよう誘導しました。
世銀のシステムでは、国内通貨による融資はできず、外貨での融資しかできなかったのです。
第三世界の国は自国の発展のために自国通貨での政府支出が必要だったが、アメリカは、各国の輸出事業にだけ投資をしました。
加えて世銀は、輸出用のプランテーション作物を優遇し、自国の国内食糧生産には融資しなかった。IMFもそれに追随しました。
アメリカの生産していない商品だけを生産させ、アメリカの輸出品と競合することがないようにした。さらにはその商品の価格を下げるためにグローバルサウス各国の競争を後押ししました。
捕食国家(Predator Country)の製品は主に必需食品とハイテク製品であったので、グローバルサウス各国は簡単に国際収支赤字に追い込まれたのです。
(*筆者注:捕食国家(Predator Country/Predator State)とは、同じくMMT派のジェームズ・ガルブレイス教授の著作からの引用だと思われる。https://en.wikipedia.org/wiki/The_Predator_State

そこに登場したのがIMFで、彼らの赤字を引き受ける替わりに、通貨価値を下落させ、競争力を高めるためという名目で賃金率を下げさせることを約束させました
IMFは、投資家にとっての利益となるようアメリカの労働力を安くするために、競合する第三世界の労働力の為替レートを継続的に下げさせるプロセスを75年間続けているます。
これには各国に対し緊縮財政の約束を課す協定も含みますが、それによってさらなる債務が積みあがることとなりました。
IMFは民営化を進め、石油利権や公共インフラの外国人への売却を進めました生産手段であるインフラなどを売り飛ばすよう仕向け、替わりに獲得したドルで債務を返済するよう勧めたのです。これはご存じの通り「ワシントン・コンセンサス」とも呼ばれます。
その結果、メキシコは1982年に支払い不能を宣言しました。

私は60年代にチェース・マンハッタン銀行で国際収支部門のエコノミストをしていましたが、その時にはすでにアルゼンチンやブラジルは債務を返せない状態でした。
それを知っていながら、FRBとチェース・マンハッタン銀行は彼らに対外債務を支払うための融資を貸し付けた。彼らはそれを「対外援助」と呼んでいたのです。
これらの一連の取り組みは「循環的な流れ(Cicular Flow)」となっていました

〇アン・ペティフォー教授:
概ね同意しますが、私ならハドソン氏の話にあった「米国」の代わりに「ウォール街」を主語とします
私はケインズ派の貨幣理論学者ですが、ケインズが実際に金融・財政学のなかで興味を持っていたのは貨幣と利子と雇用だと指摘したいです。
第一次世界大戦後の1919年、ベルサイユ条約締結の際、ケインズは、実質金利の高さからウォール街がヨーロッパの復興のために資金提供しないと見越して、米英仏が公的債券を発行して復興にあたるべきだと提案しました。
100万ポンドの債務がドイツに課されたのですが、実際には債権はウォール街によって提供されることとなり、彼は幻滅しました。
1932年、ルーズベルトが大統領になり、金本位制を廃止しました。銀行は全ての金を財務省に渡すように指示され、その後ルーズベルトはドルの価値をいじり始めました。(*筆者注:ルーズベルトの金没収について https://jun-kin.info/4198/

1944年、ケインズはブレトンウッズで準備通貨をどう管理するかという問題にあたっていました。彼は独立した銀行を提案しますが、唯一の帝国、アメリカのみが使用できるドルの採用を求めるアメリカ人に敗北し、IMFが設立されます。
ドルは膨大で持続不可能な民間債務と公的債務を生み出すシステムの一部を形成します。例えばサウジアラビアと構築した「ペトロダラー体制」がそれです。

私は世界30カ国の1000億ドルにも及ぶ債務を帳しにするキャンペーン「ジュビリー2000https://en.wikipedia.org/wiki/Jubilee_2000」を運営しました。2005年にはナイジェリア政府の300億ドルの債務を清算しました。
実は債務を帳消しにするのは簡単なことなのです。

低所得国に債務があることの意味は、ドルが強すぎるということです。
ドルは世界恐慌の際やコロナ禍で強化(*筆者注:利上げによるドル高のことだと思われる)されました。
何かしらの金融危機がある度にドルは強化されます。これは自動的に貧国の為替レートに影響を及ぼし、債務を増大させることを意味します。
債務を帳消しにすることは唯一の解決策ですが、本当はこのシステム自体を変えなければなりません。
「ジュビリー2000」キャンペーンの最中に思い知りましたが、債務を帳消しにすることは簡単ではあるけど、この「循環システム」を破壊することはできないということです。

債務者が破綻すると負債は債務者の負担になり、その国の資源などが担保とされますが、私は、債務者と債権者の間での公正な交渉プロセスを持つべきであるとIMFに提案しました。
このことを2003年にIMFで提案しましたが、ウォール街のハゲタカによって阻止されてしまいました。
メキシコの財務大臣においては「我々にはお金を貸してくれる債権者が必要なため、債権者を怒らせたくない」と言っていたのですよ。
結局、債権者と債務者の力関係は変わっておらず、これがその後のソブリン債務危機を引き起こしたのです。
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このハドソン教授、デサイ教授、アン・ペティフォーの鼎談は非常に面白いので、次回ブログでも抄訳を続けたい。


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