過去の自分の記事を見直していて、米欧プロパガンダ・メディアの情報工作の典型的手法に気づいた。
あらためて「OSINT(公開情報調査)は力なり」であると実感する。
大本営メディアがプロパガンダを行うとき、最も重要な手法は「何を語るか」ではなく「何を語らないか」だ。
ウソを語るとバレた時にやっかいだ。
語らないことによって、事実を隠蔽し、都合の良い方向に世論を誘導することができる。
皆さんはテレビで「戦争を始めたのはロシアではなくウクライナです」と事実を言う親ロシア派や、「政府はお金をいくらでも創れる」と事実を語るMMT派を大手メディアで見たことはあるだろうか?
皆無、もしくは殆どないだろう。
為政者に都合の悪い情報は隠されてしまうのだ。
(*マクロ経済学に関しての藤井聡氏のたちまわりは極めて例外的である)
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1年前の2022年4月30日以降に、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所にアゾフ連隊(大隊)の兵士らと共に地下に立て籠っていたウクライナ市民が解放された事件を思い出してほしい。
アゾフスタリ製鉄所は、マリウポリ最後のウクライナ軍の砦であった。
この件を少しおさらいしたい。
以下のロシア国防省の情報は、ちょうど一年前のアゾフスタリ製鉄所から解放された市民についてとなる。特に嘘もないだろう。
ロシア国防省
Telegram: Contact @mod_russia_en
4月30日、マリウポルのアゾフスタル工場でウクライナ民族主義者に拘束された民間人を救うためにロシアのプーチン大統領が始めた作戦の結果、近隣の住宅から25人、さらに工場敷地内から21人が歩き出した。
▫️46人全員がドネツク人民共和国に残ることを自主的に決定した。
▫️ 5月1日、ウクライナの民族主義者に拘束されていた別の80人の市民が工場から救出され、宿泊施設、食料、医療を提供された。
▫️そのうちの11人は、自発的にドネツク人民共和国に留まることを決めた。
▫️69人はキエフ支配地域に向けて出発することを決め、国連と赤十字国際委員会の代表者に引き渡され、現在ザポロジエ市に向けて車列を組んで移動している。
▫️ロシア連邦軍は、アゾフスタル工場からキエフ支配地域に避難した民間人を乗せた人道的車列の安全を確保しています。
この後、合計150人ほどの民間人が解放されたが、やはり15%ほどがドネツク側に保護されていた。
私は、以前から「米欧テレビ局による住民インタビュー映像は短く編集されてしまっていて、証言が要領を得ない」、「住民証言はロシア/ウクライナのどちら側の軍に攻撃されたのかよくわからない内容になっている」、そして「都合の悪い発言をカットしているのではないか」等と疑っていた。
今回、その証拠と言ってもよい事案を過去の記事から見つけた。
もちろん全ての事案がそうだと言いたいわけではないが、本件は典型的な事案に分類されるべきものだということだ。
(*本件は、アゾフスタリ製鉄所はロシア軍に攻撃されていないなどと主張するものでもない)
昨年5月14日の下記の拙記事にある「PBS」と「チャンネル4」の報道部分から抜粋・加筆する。
▼マリウポリ市民が一様に「アゾフに『人間の盾』にされた。撃たれた」と証言(2) 公的資料で反論⑬
2022-05-14
以下の報道でインタビューを受けるアゾフスタル製鉄所から脱出した高齢女性の衣服のフードの柄と髪留めの柄に注目してほしい。
▼ Ukrainian civilians desperately try to flee the hellscape of Mariupol amid Russian attacks
2022/05/03 PBS (アメリカの公共放送)(英語字幕)
https://www.youtube.com/watch?v=AIUAIFErUM0
〇アゾフスタリから逃れてきた高齢女性 「私にはもう家がありません。もう、ないのです。」
この高齢女性の名前は「Olga Savina /Ольга Савина/オルガ・サヴィーナ」であることもわかった。
この女性のインタビュー映像は「チャンネル4」にも使いまわしされる。
チャンネル4はPBSより少し長く証言を報道している。
▼ Russia Ukraine conflict: First civilians evacuated from Mariupol steel plant
2022/05/03 Channel4(イギリスの公共放送)(英語字幕)
https://www.youtube.com/watch?v=OxyDSnwFdc0
〇アゾフスタリから逃れてきたオルガ・サヴィーナ 「私にはもう家がありません。毎日爆撃されて無傷の家はもうありません。アゾフスタリのシェルターにいた時も常に彼らの爆撃がありました」
米欧プロパガンダ・メディアは自由主義に忠実であるあまり、自由権である「報道しない自由」を存分に行使する。
オルガ・サヴィーナ氏にも、詳細を語らせない。
語ってもらっては困る内容があるのだ。
アゾフスタリに立て籠っていた民間人らは人質(人間の盾)だったのか、自発的に参加したのか議論が分かれるところだが、沖縄戦を思い出すと理解が進むかもしれない。
これは当地のアゾフの司令官が「外に出たら収容所送りにされる」と発していることから、立て籠もった市民を洗脳していたことが推察できる。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20220428-OYT1T50000/2/
さて、昨年5月20日の拙記事でも扱った以下に掲示する動画を確認してほしい。
米欧の無視するイリイチの虐殺・マリウポリ住民の証言 - 公的資料で反論⑮
2022-05-20
まったく同じ女性(オルガ・サヴィーナ氏)がロシア側によるインタビューに答えている。衣服のフードのストライプ柄、そして髪留めの柄に注目してほしい。同一人物だ。
私は昨年の記事執筆中に、この女性が、PBSやチャンネル4に現れた女性と同一人物だと気づいていなかった。翻訳も精度を高めたうえで再掲する。
▼ Rescued civilians held by Ukrainian nationalists at Azovstal plant described conditions of detention. (2)
May 4th, 2022 (英語字幕なし)
https://odysee.com/@Velyaminov:a/Rescued_civilians_held_by_Ukrainian_nationalists_at_Azovstal_plant_2:3
同じ動画をYoutubeでも見つけた→ https://www.youtube.com/watch?v=wkcPan6uGvg
〇アゾフスタリから逃れてきたオルガ・サヴィーナ氏 :
私達には食べ物もないし、誰も何も持ってきてくれないし、飢えていました。
民兵〔*筆者注:アゾフ兵のこと〕が私たちに塹壕を掘るように強制しようとしたとき、私たちのうちの一人は「塹壕なんか掘れるわけない」と言いました。私たちは空腹で疲れ果てて掘ることができないことに加えて、外には砲撃の的になる空地しかなかったのです。
17人の子供たちを含め、70人以上がそこ〔*筆者注:アゾフスタリの地下〕にいました。一人はまだ赤ん坊で、二歳の女の子もいました。
子どもたちは空腹で泣いていました。両親は、民兵がやってきて、煩わしい子供達を殺すのではないかと恐れていたので、子どもたちを懸命に落ち着かせようとしていました。
私はロシア人とウクライナ人の両方に対して良い印象を持っています。 ロシアには多くの友人がいますが、ウクライナにはもう誰も残っていません...ロシアに移住したいです。
上記のインタビューの英訳が捏造などではなく、正しいとすればこれは大事だ。
PBSやChannel4は、彼女の「都合の悪い証言を編集でカットした」疑いが生まれたのだ。
今回、再び少しリサーチした結果、この高齢女性はアルジャジーラの報道でも見つかった!
しかもアルジャジーラのインタビューでもアゾフへの恨み節を吐露している。
▼アルジャジーラ(カタールの半国営)「Civilian evacuees from Azovstal plant reach Ukrainian-held city」
https://www.youtube.com/watch?v=M8qEEUUYawA
そうですね、軍は私たちといろいろな物を共有してくれていましたが、それはアゾフ大隊でしたから、彼らが何を言ったか想像がつくでしょう。私たちは、「お前たちは誰にも必要とされていないんだ」と言われて、自分たちは何者でもなく、見捨てられたと感じました。
アルジャジーラはずいぶん踏み切った報道をしたなとの印象を受ける。
件の高齢女性がアゾフに酷いことをされたと話す映像を報道していたのだ。
昨年の2月24日を境に、急にネオナチの「アゾフは英雄だ」と合唱しだした米欧の報道では見ることのできない光景だ。
(*米欧メディアも2月24日以前はそれなりに「アゾフは危険なネオナチだ」と報道していた)
この女性オルガ・サヴィーナ氏は、ロシア派とアルジャジーラの報道において少なくとも2度、アゾフへの恨み節を吐露していたのだから、PBSやチャンネル4のインタビュー時にも似たような証言をしていたのではないだろうか?
PBSやチャンネル4はその都合の悪い発言をカットしたとの疑念が湧く。
アルジャジーラは元々カタール政府と英米に出資され設立・運営されたプロパガンダ放送局と言える。アメリカからの恫喝もあり、報道内容も米欧視点に寄っていた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Al_Jazeera
かつてのカタールは、サウジアラビア王政の衛星国(傀儡国家と表現しても過言ではない)であり、親米傾向の国だったが、近年は本来敵対する相手だったイランと近づくなど、立ち位置が変わってきている。
つまり、米欧サウジの影響を払拭しつつあると推測できる。
(そのサウジもここ数年、イランやBRICSに近づき米欧から離れようとしているが…)
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「Olga Savina Azovstal」でbing検索すると、他にNYタイムスとロイターの2件の記事が見つかった。
一方で、ロシア語「Ольга Савина Азовсталь (オルガ・サビーナ アゾフスタル)」でbing検索しても一件もヒットしない。
「Olga Savina」は米欧メディアの設定した偽名ではなかろうか。実名を報道することで危険にさらされる可能性を忌避したのかもしれない。
(*ちなみに私は米欧のプロパガンダで汚染された「Google検索」はほぼ使わない。Yahooも同じだ。何かを検索するときは、Google以外のbingやOperaなどを推奨したい)
NYタイムスとロイターの記事の記述を紹介しよう。
〇NYタイムス
オルガ・サヴィーナ氏「私はアゾフスタルに2ヶ月半いたのですが、彼らは四方八方から叩いてきました」
https://www.nytimes.com/2022/05/03/world/europe/mariupol-azovstal-survivors-evacuated.html
〇ロイター
オルガ・サヴィーナ氏(65 歳) は、マリウポリにある自宅も破壊されたと語った。
「毎日爆撃があったので、無傷ではありません。私たちがバンカー(アゾフスタル)で過ごす間、彼らは爆撃を続けていました」と彼女は涙を流しながら言いました。
https://news.yahoo.com/ukraine-evacuees-head-safety-ordeal-093908733.html
上記二件の記事でもわかるように、ここでもオルガ・サヴィーナ氏は詳細を語っていない。(メディアが語らせていない)
PBS(米国の公共放送)、チャンネル4(イギリスの公共放送)、NYタイムス、ロイターの報道は、オルガ・サヴィーナ氏の発言の都合の良い部分だけを切り取ったのではないかとの疑念が尽きない。
米欧の大本営メディアは「アゾフスタルから救出された市民の14%(80人中11人)がドネツク側に保護された(後に解放者数は増える)」ことにはほとんど言及しない。
あくまで、「ロシアの攻撃からウクライナに助けられたかわいそうな人々」との向きで報道を行う。
アゾフスタリ製鉄所に逃げ込んだ民間人は、当地がアゾフの基地になっていたことを知ったうえで、ウクライナ側の庇護を求めて逃げ込んだ人が大半であろう。そういった人々のなかでも解放後にドネツク側に逃げた者もいたのだ。
そして西側メディアは、ウクライナ側に脱出(国連や赤十字にザポリージャに搬送)した人たちの中に、オルガ・サヴィーナ氏のように「アゾフの酷い扱い」を語る者がいても黙殺してしまっている可能性が高いのだ。
米欧のプロパガンダ・メディアが誘導したいストーリーから外れる証言は、徹底的に存在を消されるのだろう。
オルガ・サヴィーナ氏に詳細を語らせない米欧メディア(4社):100%
オルガ・サヴィーナ氏に「アゾフへの恨み節」を語らせた米欧以外のメディア(2社):100%
私の知る限り、こういう構図になっている。
本記事の冒頭に戻ろう。
大本営メディアがプロパガンダを行うとき、最も重要な手法は「何を語るか」ではなく「何を語らないか」だ。
ウソを語るとバレた時にやっかいだ。
語らないことによって、事実を隠蔽し、都合の良い方向に世論を誘導することができるのである。
以上。
cargo