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前回の記事では50人以上を爆殺した4月8日の「クラマトルスク駅爆撃事件」の犯人が、ウクライナ軍だった可能性がある検証結果を得ることができた。

米英政府に支援されるOSINT(オープンソース・インテリジェンス)専門家チームの検証結果から、トーチカU・クラスター爆弾の弾道が、ウクライナ軍駐留地域からの砲弾発射を物語っていたことがわかった。
OSINTチームのべリングキャットは「本稿執筆時点で、入手可能なオープンソースの証拠は、ミサイルの発射方向を含め、この攻撃に関するすべての詳細を明らかにするにはまだ不十分である」との姿勢だが、少なくともロシアがやったと確定できる証拠はないことが確認される。
https://www.bellingcat.com/news/2022/04/14/russias-kramatorsk-facts-versus-the-evidence/

また、前回記事では本件に関わるポダムTV(日テレ)・テレ東・時事・NEWSWEEKの報道が、虚報・フェイクニュースだったことも証明したが、今まで大本営メディアの「ロシアがやった」とする決めつけのプロパガンダを信じていた人には、前回の記事( https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12738357094.html )と合わせてぜひ見てほしい。


ちなみに、現在「BBCがクラマトルスク駅の攻撃はウクライナ軍がやった」と認めたという画像が出回っているが、これはフェイクであるので気をつけてほしい。
https://www.ommercato.com/en/trad/fact-check-did-bbc-report-blame-ukraine-for-kramatorsk-station-bombing_170576


前回の記事を上げてから、軍事兵器専門家のスコット・リッターが「クラマトルスク駅爆撃のトーチカUミサイルはウクライナ軍が発射した可能性が高い」と結論づけている。

リッターは米国海兵隊や国連で諜報員として活動し、1991年から1998年まではイラクで国連主任兵器検査官も勤めた。
2000年には「イラクには重要な大量破壊兵器を開発する能力がない」と、米国のイラク侵攻に疑問を呈した過去を持つ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Scott_Ritter?msclkid=ca99f697c54611ec8b1005eef431502b
 

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スコット・リッターの検証報告 2022年4月19日
https://www.rt.com/russia/554138-kramatorsk-train-station-attack/

弾頭の位置からブースターの落下地点の方向を見ることによって発射位置を推定できる。
それはウクライナ政府の独占的支配下にあった領域を指している。
つまり、クラマトスク駅を襲ったミサイルは、ウクライナ唯一のトーチカU搭載部隊、第19ミサイル旅団の作戦統制下で発射されたことにほとんど疑いがない。
具体的には、ミサイルの残骸を鑑識した結果、クラマトルスクから約45キロ離れたドブロポリア近郊に拠点を置く第19ウクライナ・ミサイル旅団が発射したことが明らかになったのである。
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リッターは私より強い論調でウクライナ軍の犯行だとする検証結果を述べている。
しかし、ロケットの残骸の位置だけで発射した陣営を特定することはできない。
過去のべリングキャットやヒューマンライツ・ウォッチの検証から、残骸の位置にはイレギュラーな事態が発生することもわかっている。
したがってこれはあくまでその可能性が高まったというだけであるが、国連の元主任兵器検査官が認めた事実は大きい


前回は、ロシアの反論(1)として、トーチカUの残骸から発射した陣営がどちらか検証した。
今回は残りの論点にも触れる。

【目次】
① ロシアの反論 - (2) ロシア軍は現在、旧式のトーチカUを使用していない
② ミサイルに書かれた「子供たちのために」の謎とべリングキャットらのダブスタ
③ ロシアの反論 - (3) 製造No.がウクライナ軍使用のものと近い
④ 結論:誰がクラマトルスク駅を爆撃したのか

 

 

① ロシアの反論 - (2) ロシア軍は現在、旧式のトーチカUを使用していない

 


2番目の論点「(2) ロシア軍は現在、旧式のトーチカUを使用していない」も、事実かどうか確認することは容易ではない。

もしロシア軍が使用していなかったとしても、ドンバスのドネツク・ルガンスク軍は使用しているはずだが、実際には2014年以降の内戦の事例を振り返っても多くが記録されているわけではない。
この内戦に関わる国連やOSCEら国際機関の報告書、各メディア報道記事を5000ページは読んだ筆者にとっても、かなりの難関だ。

WIKIや他サイトでもロシア軍ならびにドンバスの親露派は、MLRS(ウラガンやグラッド、スメルチ)などのクラスター弾搭載多連装ロケット砲を持っているが、トーチカUを持っていないことになっている。

▼ 2022年以降のロシアーウクライナ戦争で使われた軍事兵器リスト
https://en.wikipedia.org/wiki/Weapons_of_the_Russo-Ukrainian_War#Mortars

▼ ドンバス戦争のロシアの分離主義勢力によって使用された軍事兵器のリスト
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_equipment_used_by_Russian_separatist_forces_of_the_war_in_Donbas

▼ ビジネスインサイダーによるドンバス軍事兵器のリスト
https://www.businessinsider.com/weapons-russia-is-pouring-into-east-ukraine-2015-1

ドンバス軍がトーチカUを使用したとされる実例は数回ほどしか記録がなく、非常に数が少ない。少ないどころか各報道の記事からは本当に使用したのかも疑わしいことがわかる。
証拠の提示がなく、根拠が薄弱なのだ。
https://edition.cnn.com/2014/09/03/world/europe/ukraine-kill-zone-lister/
https://www.dw.com/en/ukraine-denies-using-ballistic-missiles/a-17827342
https://www.hrw.org/news/2015/06/22/technical-briefing-note-cluster-munition-use-ukraine

対してウクライナ軍は最大500台のトーチカUを保有する。ここにもドンバス軍との圧倒的な非対称性が現れる。
CSISはウクライナは500発のトーチカUミサイルを保有していると報告している。
https://missilethreat.csis.org/missile/ss-21/

他のMRLS(グラッド・ウラガン・スメルチ等クラスター弾搭載ロケット砲)も、ロシア侵攻前までは600台近く保有していたことが記録される。
https://www.globalsecurity.org/military/world/ukraine/groundforces-equipment.htm

映像にもウクライナ軍が多数のトーチカUを保有していた証拠が残る。
これは21年にクリミアに標準を合わせたトーチカU数台~数十台(?)を対岸のへルソン州に設置し、演習で挑発するウクライナ軍の映像だ。


ドンバス軍はトーチカUをほとんど所有していない(使った形跡があることすら疑わしい)ことがわかったが、一方でロシア軍はどうだろうか。

クラマトルスク駅爆撃事件の約1か月前、3月16日の国連に対するプレスリリースで、ロシアはトーチカUミサイルの運用を否定している。
https://tass.com/politics/1423317

事件後に言い訳的に発したものではないことにも注目したい。

IISS「The Military Balance 2020」でもロシア軍がトーチカUを破棄し、後継のイスカンダルに乗り換えたことが報告される。
https://www.iiss.org/publications/the-military-balance/military-balance-2020-book?msclkid=4d9d4045c63e11eca2570e6b751be69a

2021年9月15日、「ロシア連邦のクラスター爆弾禁止方針」では、「クラスター弾破棄条約にできるだけ早く署名する旨を方針とする」旨が記載される。 
http://www.the-monitor.org/en-gb/reports/2021/russian-federation/cluster-munition-ban-policy.aspx

もちろんロシアが「破棄した」と言っているだけで、実際は在庫が残っていて、本戦線でも運用しているかもしれない。


22年の戦争においてロシアがトーチカUを使ったと主張する西側の記事も多数存在する。
ただし、これらの記事本文にはその根拠が示されていないため、かなり怪しい。
これでは確定的に扱うことはできない。
https://www.bbc.com/ukrainian/news-60594123
https://www.understandingwar.org/backgrounder/russian-offensive-campaign-assessment-april-8
https://www.amnesty.org/en/latest/news/2022/02/russian-military-commits-indiscriminate-attacks-during-the-invasion-of-ukraine/
https://www.hrw.org/news/2022/02/25/ukraine-russian-cluster-munition-hits-hospital


筆者個人的に西側のプロパガンダ機関だと評価するOSINT(公開情報捜査)専門集団のべリングキャット/CITも、トーチカUの台車部分(BAZ車両)が目撃されたという事実から、ロシアがトーチカUを所有し、運用している可能性があると報告している。
https://www.bellingcat.com/news/2022/04/14/russias-kramatorsk-facts-versus-the-evidence/


https://twitter.com/CITeam_en/status/1512425881700032515

しかし上記画像からはBAZ車両がトーチカUを積載していることは確認できない。

似たような報告や記事、画像・映像もネット上に散見されるが、あくまでBAZ車両の目撃例でしかない。
https://mil.in.ua/en/news/russia-has-been-using-tochka-u-since-the-beginning-of-the-invasion/?msclkid=53907485c63d11ecb0924ac15141e27c

これに対してロシア側は、「それはただの運送用の車両であって、このBAZ車両は1L268 Credo-1Sレーダーシステムも輸送している」と反論している

https://www.donbass-insider.com/2022/04/09/ukrainian-armed-forces-fire-a-tochka-u-missile-at-the-kramatorsk-railway-station-killing-more-than-30-people-and-injuring-100-2/

これでは本当にロシア軍がトーチカUを運用していたか確定させることはできない。

そして、仮にロシア軍がトーチカUを運用していたことが証明されたとしても、それのみではクラマトルスク駅の爆撃の犯人がロシア軍である可能性が0%から1%以上になるだけではないだろうか。
もしロシア側がトーチカUを所有していたとしても、そのことだけをもって即クラマトルスク駅の爆撃犯だったとはならないのだ。

以上、二番目の論点に関しては、ロシア軍・ドンバス軍がトーチカUを使用した可能性は、ウクライナ軍使用の可能性よりも低いということが言えるのではないだろうか。

 

2014年以降の内戦において、どれほどウクライナ軍がドンバス軍を凌駕するミサイル攻撃を行っていたかは、国連やOSCEの報告するところである。

ウクライナ軍の砲撃量は、全砲撃の7~8割を占める。

 

 

② ミサイルに書かれた「子供たちのために」の謎とべリングキャットのダブスタ


日本のどこかのテレビで、クラマトルスク駅爆撃に使われたトーチカUに「子供たちのために」とロシア語で書かれていたことを読み上げたアナウンサーが涙したというようなことがあったようだ。
未確定事項を、ロシアの犯行だと確定的に伝え、純粋な人々を騙すプロパガンダ・メディアの犯罪的な悪意は本当に酷いものだ。

たとえミサイルに「子供たちのために」とロシア語で書かれていたとしても、ロシア側がやったのか、ウクライナ側が自作自演でやったのかわからないため、一切の証拠にならない。

例えば、過去にはウクライナ側が似たような文言をミサイルに書いてドンバスの市域に打ち込んでいたとする話もある。


6年前にウクライナ軍によって「The best for children」と書かれたミサイル弾とされる画像
https://www.donbass-insider.com/2022/04/09/ukrainian-armed-forces-fire-a-tochka-u-missile-at-the-kramatorsk-railway-station-killing-more-than-30-people-and-injuring-100-2/

右派セクターは過去にミサイルに「ウクライナの子供たちのために」と書いていたとも報告される。


いずれにしても、これらの写真自体もドンバス側の民兵がウクライナ兵に変装して撮った可能性もゼロではないため、物的証拠としては説得力に欠ける。

このように何の証拠にもならないことを、ことさら取り上げ印象操作を行い、人々の純粋な気持ちにつけ込むマスコミの悪質なプロパガンダには心底ヘドが出る。


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本題からは若干それるが、3月14日にもトーチカUによる似たような爆撃事件が起こっている。

この攻撃ではドネツク市中心部で23人が死亡したが、この件は西側のプロパガンダ・メディアには絶対に扱われない。
ウクライナ軍による無差別爆撃だった可能性が高いからだ。

▼ 3月14日午前11時30分 トーチカUの攻撃でドネツク市中心部で23人が死亡し、28人が負傷
https://www.donbass-insider.com/2022/03/15/volnovakha-in-ruins-and-bloodshed-in-donetsk-ukrainian-armys-war-crimes-in-donbass-continue/

▼ Ukrainian Tochka-U strike, Donetsk, 14.03.2022


【超絶閲覧注意】
https://southfront.org/14-march-missile-attack-on-civilians-in-donetsk-many-griefs-and-one-happy-story-video-18/
*上記URLでは、犠牲者の手・足・頭が吹っ飛んでいる画像等が掲載される。


しかしこの件に関して、べリングキャットと協力するCITは「ロシア軍側から発射された可能性が高い」と結論づけている。

 

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Tochka-Uのミサイルの尾部は重い。空中で分離するとき弾頭自体はその方向と速度を維持する。

ドネツクで撮影された事件の写真は、トーチカUのミサイル部分がシェブチェンコ大通りにあり、尾が南東を向き、正面が北西を向いていることを示している。
これに基づいて、ミサイルが南東から到着したことを地理的に特定することができる。

「ロシア軍と分離主義軍によって支配されている領土は、ドネツクの南東、トチカ-Uの攻撃範囲である120 km全体に沿っている。
そこにはウクライナ軍は存在しない。したがって、そこからウクライナのミサイルが発射されることはない。」とCITのアナリストは説明した。
https://www.ukrinform.net/rubric-ato/3430801-cit-tochkau-strike-on-donetsk-was-russias-provocation.html
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街の広場に転がるトーチカUのブースター部
https://www.youtube.com/watch?v=ANNhDKGjNK8


CITはさらには「ミサイルがドネツク共和国の防空軍によって撃墜されたと主張されているが、ミサイルの残骸に損傷の痕跡はない。」とも答えている。

しかし、上記の話はかなりおかしい。
実際のミサイルの残骸を移す映像では、ブースター最下部に損傷の痕跡が見られる。
おそらくS-300等で迎撃したことを示すのではないだろうか。
https://www.youtube.com/watch?v=lxtF0snKNsU


https://www.youtube.com/watch?v=ANNhDKGjNK8
「トーチカUミサイルは迎撃されたが、時すでに遅くクラスター弾は発出された」と語るドネツク軍兵士

振り返れば、べリングキャット・CITは、クラマトルスク駅爆撃時には「地面に転がったブースターの向いた方角は、発射位置を特定させる証拠にはならない」と自分自身で言っている。

極めて不誠実ではないか。
https://www.bellingcat.com/news/2022/04/14/russias-kramatorsk-facts-versus-the-evidence/

もし、このトーチカUが迎撃ミサイルによって撃墜されていなかったとしても、クラマトルスク駅の爆撃の時と同じような状態で地面に転がっていたドネツク市のブースターの示す方位の状況から、まったく違う検証結果を導きだしているのだから、「セルフ論破」に他ならないと苦笑せざるを得ない。


加えて、自陣であるドネツク市内を、ロシア軍・ドンバス軍が攻撃する理由があるだろうか?という疑問もわく。
自作自演の可能性も0ではないが、「国際社会」はロシア側の言い分など信じないことが周知であるのに、ロシア側が「国際社会に訴えるべく」わざわざそんな無意味で危険な自作自演を行うだろうか?


そしてもし西側がこの爆撃をロシア側の犯行だとみなすのなら、クラマトルスク駅爆撃の時のように西側のプロパガンダ・メディアが大騒ぎしていてもおかしくないが、彼らはただただ沈黙するのみである。


よくべリングキャットを「正義の味方」だとか「公正な捜査機関」と捉え勘違いしている人がいるが、彼らは米英蘭、そしてジョージ・ソロスに資金提供される実質的な「西側の工作機関」であることを知る必要がある。
「西側に都合の良い答えしか出さない」ことが約束された機関であることが指摘できるのだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Bellingcat

上記のような西側の帝国主義者たちの宣伝工作に騙されている人は、そろそろ目を覚ましたほうがよい。

 

 

 

③ ロシアの反論 - (3)製造No.がウクライナ軍使用のものと近い

 


3番目の論点「ウクライナ軍が常用するトーチカUの製造シリアルNo.が、クラマトルスク駅のものと近い」だが、この件は最も手ごわい。

結論から言うと、わからないことが多すぎて泥沼にハマる可能性があるので、筆者は一定程度で検証を終えた。

製造番号に関わる論点は以下のようなところだ。

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① クラマトルスク駅着弾のトーチカUは、ウクライナ軍が多用した9M79シリーズの「Ш915××」系統だ
② しかし製造番号が近いからといって、ウクライナ軍使用とは限らない
③ 少なくとも9M79シリーズの「Ш915××」系統がウクライナ軍が多用されたことを証明する必要がある

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クラマトロスク駅に落ちたトーチカUは「9M79-1 Ш91579」。類似する製造番号が存在する。

ウクライナ軍が使用したことを証明する可能性を高めるためには、上記検証作業が必要となるが、検証したとしてもあくまで可能性がわずかに高まるだけだとしか言えない。
なぜなら「製造番号が近いからといって、ウクライナ軍使用とは限らない」という反論はかなり有力だと考えられるからだ。
つまり、この場合は「製造番号が近いものは、同じ陣営によって使用された可能性が高い」ことも同時に証明しなければならないのである。

これにはかなりの泥沼検証作業が必要になると判断したため、私は一定程度までしか検証過程を提示しないこととした。
特に私はOSINTの素人であり、給料を貰ってやっているわけでもないので、検証が中途半端になることはご容赦願いたい。
(本件の3つの論点を検証する過程で数十時間は使っている。正直ヘトヘトになっている)


べリングキャットは製造番号について以下のように報告する。

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シリアルナンバーは他の弾薬の識別に有用である可能性もあるが、トーチカ-Uミサイルには適用できないようである。
ウクライナ国防省はべリングキャットに、ミサイルはソビエト連邦で生産されたあと、ソビエト連邦期の貯蔵基地、兵器倉庫、ウク軍ミサイル旅団に供給されたと電子メールのやり取りを提示した。

さらに、2014年にウクライナがスニジネ市で使用した製造番号「VG910840」のトーチカUミサイルと、4年後に(ロシア軍がバッシャール・アル・アサド大統領を支援していた)シリアで発見された別のミサイルの製造番号が25しか変わらない(VG910865)ことを付け加えた。
これは、ウクライナ・スニジネやシリアでの公開されている証拠と一致しているように見える。



〇 ウクライナ・スニジネのトーチカUの動画  ВГ910840 (02.09.2014, Snizhne, DPR)
https://youtu.be/7cV17MkoOsw?t=70
〇 シリアのトーチカUの動画  ВГ910865 (04.02.2018, Idlib, Syria)
https://youtu.be/37ZmIfyePd4?t=18

https://www.bellingcat.com/news/2022/04/14/russias-kramatorsk-facts-versus-the-evidence/
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ウクライナで使われたトーチカUとシリアで使われたトーチカUの製造番号がほとんど変わらない、ということである。

そのことから、製造番号が近くても同じ陣営が所有するとは限らないことがわかる。

これには、「シリアで使われたものはロシア軍に使われたものではなく、シリアに対しソ連/ロシアから輸出されたものである可能性もある」、または「ロシア軍によりシリアで使用された」との指摘も存在するほか、両者の製造ナンバーのアルゴリズムが違うという指摘もある。かなりのカオスである。
https://twitter.com/michy7777/status/1513470176326729731

上述した国連の軍事兵器調査担当を務めたスコット・リッターは以下のように述べている。

 

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スコット・リッターの検証  2022年4月19日
https://www.rt.com/russia/554138-kramatorsk-train-station-attack/

しかし、クラマトルスクに発射された問題のトーチカ-Uミサイルの所有者を疑う余地なく証明する証拠が1つある。ミサイルのブースターに黒字で書かれているのは、トーチカUの製造時に割り当てられた固有の製造番号(キリル文字でШ91579、ラテン文字でSh91579)である。この製造番号はボトキンスク機械製造工場で割り当てられ、ミサイルの軍事ライフサイクルを通じて固有の識別マークとなるものである。

イラクの国連は、イラクのスカッド・ミサイル在庫の会計処理に関する科学捜査の一環として、固有の識別子として製造シリアルナンバーを使用した。国連は、ソ連製スカッド・ミサイルのイラクへの到着を追跡し、その最終処分(イラク人の手による一方的な破壊、訓練中、整備中、戦闘行動中など)状況を報告するために、この番号を使用したのである。イラク人がスカッド・ミサイルの追跡と会計処理に使用した手順は、ソ連の公式手順に依拠するものである。したがってこれはウクライナ政府が使用したものと同じものである。
・・・・・・・


イラクでは所有するソ連製ミサイルの在庫を確認する手法として、一連の製造番号を用いたということだ。
トーチカもスカッドもソ連時代から製造・輸出されている。
確定的ではないが、このことだけを見れば、類似する製造番号が同一陣営から射出されたことを証明する有用な材料にはなり得るといえるだろう。

もちろんべリングキャットの報告のように「トーチカUに関してはその限りではない」という理屈も否定されるわけではない。


ウクライナ軍が多用したトーチカUは、9M79シリーズの「Ш915××」系統とされる。(*しかし実際にウクライナ軍が使用したかどうかもよくわからない)


https://twitter.com/cirnosad/status/1512516946696146944

クラマトルスク駅を爆撃したトーチカUの製造番号は「Ш91579」だ。


https://mobile.twitter.com/zrada2022/status/1512814897314373640
他のウク軍使用トーチカU製造番号

以下はドンバスでウクライナ軍が使ったとされる「Ш915xx(x)」系統のシリアルナンバーだ。

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09/04/2014 Khartsizsk (Ш915622)
02/02/2015 Alchevsk (Ш91565)
13/02/2015 Logvinovo (Ш91566, Ш915527, Ш915328)
19/03/2022 Berdyansk (Ш915611)
17/03/2022 Melitopol (Ш915516)

2022年4月8日のクラマトルスク駅爆撃 : Ш91579

その他参考 https://threadreaderapp.com/thread/1516030702055489536.html
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2014年以降のトーチカの痕跡に関しては、多くの写真等が残されている。


http://web.archive.org/web/20170723234842/http://lostarmour.info/articles/tochki-nad-u/ http://web.archive.org/web/20220515000000*/https://lostarmour.info/articles/tochki-nad-u/
上図はウクライナ軍が使用した「Ш915×××」シリーズの着弾位置。

 

特に上記画像で表記される連番「Ш91565」と「Ш91566」がウクライナ軍が使用したと証明できれば、「連番ないし近似の製造番号は同陣営が使用した」、つまりウクライナ軍が使用したとする説明の信憑性が格段に高まるはずだ。

しかし上記の製造番号は、本当にウクライナ軍が使用したものなのだろうか。
2015年2月2日にドネツクのアルチェフスク(Alchevsk)に落ちた製造番号「Ш91565」の行方を確認してみよう。

この爆撃に関して、「Interpreter」のジェームズ・ミラーは以下のように報告している。

 

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「2015年2月3日、Interpreterは、ウクライナ政府がアルチェフスク近くでOTR-21トーチカ(SS-21'スカラブ'/ 9M79)弾道ミサイルを発射したという主張を分析しました。Interpreterは、ロケットが民間の家の近くに落下したという主張、あるいはそれがサブ軍需品を含んでいたかもしれないウクライナ軍のロケットであったという主張を確認することができませんでした。
https://www.interpretermag.com/ukraine-live-day-352-shell-strikes-hospital-in-donetsk/
https://www.interpretermag.com/ukraine-live-day-351-us-plays-down-talk-of-supplying-arms-to-ukraine/#6652
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Interpreter Magは、自費出版の「現代ロシア研究所のプロジェクト」であり、現代ロシア研究所(IMR)は、ニューヨークとワシントンDCにオフィスを構える、非営利、無党派の公共政策組織、つまりシンクタンクである。
ジェームズ・ミラーは、ロシアとウクライナについて報告するThe Interpreterの編集長で、The Daily Beast、Vice News、Foreign Policy Magazine、The Moscow Times、AmericanProspectなどの寄稿者でもある。
https://wikispooks.com/wiki/Interpretermag

上記インタープリターのサイトで詳細を確認できるが、彼らは真摯に証拠に向き合っているように見える。

結局、「Ш91565」がどちら陣営から発射されたのかわからないのだ。

他の「Ш91566」などの行方についても調べてもいいが、正直言ってあまりの作業量にヘトヘトである。
もし他の類似製造番号のトーチカUの行方について調べてくれる方がいたらおまかせしたい。
特に「Ш91579」の連番となる「Ш91578」や「Ш91580」が行方不明である点も気になるところだ。

近似の製造番号であっても、それが同一の陣営から発射されたものだと証明できるのかもわからない。
せめて「Ш91565」と「Ш91566」がウクライナ軍が使用したものだと証明できれば、上記の謎は解消に近づくが、それさえも確定できないため、これでは袋小路である。

(*「Ш915527」や「Ш915328」では、「Ш91579」とアルゴリズムが少し違うように思えるため、可能性から排除しなければならないのではないだろうか)


もし、「Ш91566」がウクライナ軍が使用したと証明できても、クラマトルスク駅の「Ш91579」がウクライナ軍が使用したことを証明できるとは思えない。

あくまでその可能性がわずかながら高まるといった程度だろう。

しかも、ドンバス軍はウクライナ軍所有の兵器を盗んで使っているとされる。

これではもうカオス過ぎて判断のしようがない。

 


したがって、製造番号を調査することで、クラマトルスク駅爆撃のトーチカUがウクライナ軍が使用したものだと確定することはかなり難しいと判断した。

 

 

④ 結論:誰がクラマトルスク駅を爆撃したのか


提議した三つの論点を整理すると、現時点ではクラマトルスク駅爆撃事件はやはりウクライナ軍による犯行である可能性が高いのではないだろうか。
もちろんウクライナ軍の犯行だと確定することはできないが、少なくともロシア軍の犯行であることを確定することも不可能であることがわかった。

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【ロシア側の反論】
(1) ブースターの落下位置の関係から、ウクライナ軍発射のものと確定できる
(2) ロシア軍は現在、旧式のトーチカUを使用していない
(3) ウクライナ軍が常用するトーチカUの製造シリアルNo.が、クラマトルスク駅のものと近い

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結果として、論点(1)では、残された物的証拠からウクライナ軍発射のものである可能性が高まった。

論点(2)に関しては、ロシア軍・ドンバス軍が過去にトーチカUを使用した頻度は、ウクライナ軍の使用頻度に比して極めて少ない(ひょっとしたら0かもしれない)ことがわかった。

論点(3)に関しては、製造番号の類似性からクラマトルスク駅爆撃のミサイルがウクライナ軍使用のものと断定することは難しいことがわかった。


以上、本件に関する検証はここで終了する。

また何か新しい情報が入ったら更新する。

 

 

cargo