「日本の国民負担率は低い!北欧みたいな税率に上げてしまって良いのか!?」という人がいます。
もしくは逆に「社会保障を手厚くするために北欧みたいな税率にするべきだ!」といういう人たちもいます。

上はネオリベ、下は緊縮リベラル様の代表的な教条のひとつと言っていいでしょう。

一見相反するように見える双方の教条ですが、実は背中合わせの構造になっていて、「俺の背中はおまえにまかせる!」という向きで、どっちも「緊縮財政志向」という背骨同士がしっかりと接着されています。

ネオリベの教義は「歳出を少なくするために、歳入(税金)も少なくする」で、緊縮リベラル様の教条は「歳出を少なくしながら、歳入(税金)を増やす」です。
どっちも家計簿脳のヤベえ奴ですが、この上で、双方とも「財源がないのだから規制緩和だ!」と、同じ結論に陥るので困ったもんです。

ネオリベの方は堂々とバカ丸出しでわかりやすいのですが、緊縮リベラル様のほうは自分の中の「ネオリベという獣」に気づいていないだけに、余計にタチが悪い。
 


この手のタイプはネオリベの亜種の「第三の道」とも呼ばれます。

最近は緊縮リベラル様たちもだいぶ「規制緩和は悪い事なんだ」と気づいてきたので、トーンダウンしてきましたが、立憲の基本政策にもまだまだ残っていますので注意が必要です。

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さて、日本のネオリベ界のオピニオン・リーダーたちの実際の発言も確認してみましょう。

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竹中平蔵氏
私は小さな政府にしていない。骨太の方針を作ってどんどん大きくなる政府をこれ以上大きくしないようにしただけ。
本気で高福祉を目指すなら北欧のように給料の6、7割持ってかれる国になる。

詳細は動画で
https://youtu.be/-gCSxHesErA
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デービッド・アトキンソン氏
「消費税の凍結や引き下げを行うべきだ」という意見もよく耳にしますし、海外ではコロナ禍で実際に引き下げている国もあります。
しかし、日本ではそれらの国ほど(減税の)プラスの効果は期待できないと思います。
GDPに対する税負担率が低い国の場合、減税の経済に与えるプラス効果は当然小さくなるからです。
例えば、フランスのようにGDPに対する税負担率が20%台の国と10%強の日本で同じ程度の減税を実施した場合、当然フランスのほうが経済に大きな好影響が出ます。
https://toyokeizai.net/articles/-/415139
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竹中氏もアトキンソン氏も良い感じでネオリベの教義に倣っています。

 

余談となりますが、明石先生と並んで立憲の経済顧問であられる田中信一郎・千葉商科大学准教授は、アトキンソン氏に心酔しておられます。よほど規制緩和に親和性が高いのかもしれません。

 


この上記の二人のネオリベの共通項は、「北欧・欧州のように税率を高めることはできない!」ということですね。
アトキンソン氏が減税を嫌がる理由は、景気回復してしまうと自分の「規制緩和という名の毒饅頭」を日本政府に食わせられないから、ではないかと推測しますけど。
規制緩和をやってはダメな理由はこちらで確認ください。


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とにかく、彼らの「北欧のような税率に」論がいかに間違っているのか、確認していきましょう。

この「北欧のような税率に」論は、おもに二つのレイヤーにより構成されています。

 ① 日本の消費税は低いので、北欧のような税率に
 ② 日本の国民負担率は低いので、北欧のような税率に


 *国民負担率というのは、税金に加えて社保料など(広義の税金)も含めた負担のことで、所得に対する税金と社保料を合わせた負担度合のことをいいます。

私たち反緊縮勢は、北欧の税金が高かろうがなんだろうがどっちでもいいと思っていて、本来なら日本も北欧も税を財源とせず、自国通貨を発行し支出すればよい(北欧三国も自国通貨を発行する国)と考えるのですが、あえて税のみに絞って議論したとしても「北欧のような税率に」論はおかしい、という主張となります。


上記①の「日本の消費税は低いので、北欧のような税率に」は池上彰さんをはじめ多くの人が発する耳馴染みのあるフレーズですが、下の画像一枚で論破終了です。


画像:国公労連の雑誌『KOKKO』編集者・井上伸

国税全体に占める消費税の割合で考えれば、すでにデンマークを超える比率であり、日用品に対する軽減税率もない日本は応能負担原則を無視した狂った国だとしか言いようがありません。
 
これ以上、消費税を上げる必要なんかないことはわかりますよね。

そこで、「国税に占める消費税の割合」に反論したい緊縮リベラルさんたちが持ち出したのが②の「日本の国民負担率は低いので、北欧のような税率にしろ」論であり、ネオリベの「北欧のような国民負担率にできない」論です。

3月にあった以下のような報道では、「国民負担率が増えたが、北欧に比べればまだマシだ!」「いやいや、社会保障の充実のためには増税!国民負担率がまだ低い!」という議論が巻き起こりましたが、上記にある竹中氏やアトキンソン氏の発言はそれを受けて出てきたものです。
私はどちらの主張もマトを得ていないと考えます。政府支出も削ることなく普通に減税すりゃいいじゃんと思うばかりです。
▼今年度「国民負担率」 過去最大の見込み 新型コロナで所得減少
2021年3月8日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210308/k10012902781000.htm


https://www.mof.go.jp/budget/topics/futanritsu/20210226.html

国民負担率の主要国の税・社会保険の構成内訳は以下のような感じなります。


国民負担率の推移は以下の感じです。

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a04.htm

この20年間で所得は100万円以上も下がったのに、国民負担率は増え続ける、いわゆる可処分所得の下落している状態となります。

その辺をふまえて、ノルウェー・スウェーデンと比較しながら考えてみたいと思います。

上の財務省資料から、この三国の国民負担率はこうなることがわかります。

 

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■国民負担率

9位 スウェーデン 58.8%
16位 ノルウェー 51.9%
26位 日本 44.3%

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平均年収も比べてみます。

 

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■ 平均年収
https://worldcosplay.net/lifeplus/news/4897
1位 スイス 1073万円 (95,002)
2位 ノルウェー 921万円 (81,508)  
3位 ルクセンブルク 899万円 (79,591)
4位 デンマーク 835万円 (73,959)
5位 オーストラリア 791万円 (70,050)
6位 アイルランド 767万円 (67,922)
7位 オランダ 685万円 (60,621)
8位 アメリカ 645万円 (57,139)
9位 ベルギー 641万円 (56,729)
10位 カナダ 638万円 (56,518)
11位 スウェーデン 624万円 (55,245) 
12位 イギリス 614万円 (54,350)
13位 フィンランド 608万円 (53,851)
14位 オーストラリア 599万円 (53,091)
15位 ドイツ 547万円 (48,479)
16位 フランス 541万円 (47,885)
17位 イタリア 431万円 (38,145)
18位 日本 429万円 (37,988)    
19位 イスラエル 408万円 (36,109)
20位 スペイン 403万円 (35,693)

※()内=米ドル
※日本円換算 1ドル=113円(2017年12月時点)
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上で確認できますけど、日本はノルウェーの半分以下ですよ(笑)
この時点で「国民負担率でさえもあまり意味のない数字なんじゃないか」と感じてきませんか??

じゃあ、上の年収の数字をもとに簡易的に可処分所得を導き出しましょう。
可処分所得というのは、要は皆さんが自由に使えるお金ってことです。
ノルウェー : 平均年収921万円 ×(100% ー 国民負担率51.9%) = 443万円
スウェーデン: 平均年収624万円 ×(100% ー 国民負担率58.8%) = 257万円
日本    : 平均年収429万円 ×(100% ー 国民負担率44.3%) = 239万円
  *国民負担率は国民所得(NI)から導き出すので、上記は実際の可処分所得の定義とは異なるが、あくまで簡易的ということでご容赦ください。
なかなかヤバいですよね(笑)
日本の可処分所得(239万円)はスウェーデン(257万円)とだいぶ近いですが…、わが国にはスウェーデンのような手厚い社会保障がありましたでしょうか??
我が国は、医療費が年間最大1.5万円以下で、大学までの学費は無料でしたでしょうか?
違いますよね?

この時点でも緊縮リベラル様の想定する、「国民の所得は据え置きで、北欧のような税率にする案」の愚かさを感じていただけると思います。
だって、これ以上税金を上げたら、年収200万円代の人はどうやって生きればよいのでしょうか?

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さて、ここからは②の「日本の国民負担率は低いので、北欧のような税率に」のレイヤーを超えた議論をしていきたいと思います。

考えるべきは、年収に比べて、一体本当にどれくらいの負担があるのかということだろうと思います。
そうですよね?

人間が生きるためには税や社会保障だけでなく、家賃や光熱費、食費なんかも必要ですよね。
(*まだもう少し話は長くなります)


「生活費指数」というのがあって、定義は調査主体によってまちまちなのですが、だいたいその国の家賃や食費、交通費などを総合的に比較したものがあります。
「生活費指数」は、ニューヨークの生活費の高さを基準に、各国を指数化したものとなります。

このあたりも確認してみましょう。

 

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【生活費指数の比較】
▼ 経済誌・エコノミストの調査
https://www.msn.com/ja-jp/money/news/%e3%80%8c%e4%b8%96%e7%95%8c133%e9%83%bd%e5%b8%82%e3%81%ae%e7%94%9f%e6%b4%bb%e8%b2%bb%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%82%ad%e3%83%b3%e3%82%b0%e3%80%8d%e3%83%88%e3%83%83%e3%83%97and%e3%83%9c%e3%83%88%e3%83%a010%ef%bc%88%e8%8b%b1economist%ef%bc%89/ss-BBUZ8X1
英Economist 「生活費が高い都市」世界ランキング(トップ&ボトム10)
モノやサービスなど160品目について400を超えるアイテムの価格を調査し、世界133都市をランキング。調査項目については、食料、飲料、衣類、家賃、交通費、光熱費、私立学校、家事支援サービス、娯楽費などが対象に含まれるという。


6位: 日本・大阪
ランク外: ノルウェー、スウェーデン

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▼ ビジネス誌・CEOWORLD
https://yofu.hatenablog.com/entry/2020/09/25/154028
CEOWORLDマガジンは、宿泊、衣類、タクシー料金、ユーティリティ、インターネット、食料品の価格、交通機関、外食など、さまざまな生活費に基づいて評価を行いました。ランキングは、生活費、家賃、食料品、外食、購買力という5つの主要な指標に基づいています。
生活費指数はニューヨークの物価を100とした場合の比率です。

1 スイス 122.4
2 ノルウェー 101.43 
3 アイスランド 100.48
4 日本 83.35  
5 デンマーク 83
6 バハマ 82.51
7 ルクセンブルク 81.89
8 イスラエル 81.15
9 シンガポール 81.1
10 韓国 78.18


23 スウェーデン 69.85 
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▼ ビジネス誌・GOBankingRates
https://www.businessinsider.jp/post-206322
ニューヨーク市を基準にして、生活費、家賃、食料品価格、レストランのメニュー価格、現地購買力(国の平均賃金に対する財やサービスの価格での相対的購買力として定義)という5つの指標を分析
1位 アイスランド
2位 スイス
3位 ノルウェー 
4位 バハマ
5位 ルクセンブルグ
6位 デンマーク
7位 シンガポール
8位 日本  
9位 イスラエル
10位 アイルランド


13位 スウェーデン 
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調査主体によってかなりばらつきがあるのですが、エコノミスト誌のものは歴史的にも調査量的にも最も信頼できるような気がします。(当該誌にだけ光熱費が含まれている)
東京より大阪が上なのが謎ですが。
おそらく都市で考えたら日本(大阪)のほうが生活費が高く、国単位だとノルウェー、日本、スウェーデンの順なのだろうと思います。

この際、水光熱費もざっと確認してみましょう。

 

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▼ 世界の電気料金(家庭用) 国別ランキング・推移
10位 日本
16位   スウェーデン
23位 ノルウェー

https://www.globalnote.jp/post-12842.html
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▼ OECDのデータに見る水道料金の高い国(都市) ランキング
第7位 ノルウェー(オスロ)……4.32 USドル
第16位 スウェーデン(ストックホルム)……2.52 USドル
第17位 日本(東京)……2.18 USドル

https://gakumado.mynavi.jp/gmd/articles/27598
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▼ 世界のガス料金(家庭用) 国別ランキング・推移(US$/100kWh)
1位   スウェーデン13.16    
2位   日本      11.51
25位以下 ノルウェー

https://www.globalnote.jp/post-12838.html
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▼ 携帯料金
〇総務省が世界6都市での比較結果を公表(2018年の記事)
https://www.appps.jp/305223/



〇日本のスマホ料金を世界と比較(2014年の記事)
https://itstrike.biz/news/15687/



〇東京の携帯料金、やはり「世界最高」
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20200630-OYT1T50240/

*傾向として、日本と米国は同じくらいで、日本は欧州より総じて高い。
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▼ 家賃
https://www.businessinsider.jp/post-33653
10. 日本 / 東京 —— 22万4100円
12. ノルウェー / オスロ —— 20万4100円
ランク外 スウェーデン

  *ノルウェーやスウェーデンの家賃には水光熱費やネット料金が含まれる場合が多いらしい
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データがだいぶ欠損していますが総合的に考えて、家賃・水光熱費・携帯料金が最も高いのは日本だと考えられます。
(ガス・水道代より、相対的に電気・携帯代のほうが全然高いですし、家賃は最も高いですからね。しかもノルウェー・スウェーデンは家賃に水光熱費・ネット代が含まれるので勝敗は歴然だと思います)
 
他にも北欧の生活費を比較したサイトもありますので、見比べてみてください。
 https://sekai-ju.com/life/swe/life/costofliving/
 https://chu-zuma.com/14097/

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今回はネットに転がってるデータを利用しましたが、ちゃんとしたデータを利用したとしても大勢は変わらんと思います。

そんなわけで結論をまとめます。

税や社保料の負担(国民負担率)のありかただけを見て国際比較するのはまったくの誤りです。
【日本、ノルウェー、スウェーデンの税負担・生活費を総合的に比較】
  ・平均年収・国民負担率・簡易的な可処分所得の関係は、
    ノルウェー : 平均年収921万円 ×(100% ー 国民負担率51.9%) = 443万円
    スウェーデン: 平均年収624万円 ×(100% ー 国民負担率58.8%) = 257万円
    日本     : 平均年収429万円 ×(100% ー 国民負担率44.3%) = 239万円
そのうえで…
  ・生活費(食費や日用品、交通費)は、ノルウェー、日本、スウェーデンの順に高い
  ・家賃は、日本、ノルウェー、スウェーデンの順に高い
  ・水光熱費・携帯代は、日本、スウェーデン、ノルウェーの順に高い
しかも…
  ・社会保障は、ノルウェー(教育・医療無料)、スウェーデン(教育無料・医療費激安)、日本の順に手厚い
…と言えるでしょう。

結局、日本は所得が低く、税や社保料が高く、生活費・家賃・光熱費等がやたら高く、社会保障が薄い、クソみたいな国であることがわかりました。

この結論があった上で「日本も税を北欧並みに」と考える緊縮リベラル様がいたら、そいつはただの無知蒙昧のバカです。
勿論、支出を削り社会保障を削り、富裕層減税で格差を拡大するというネオリベはさらにバカです。

本来、我々が求めなければならないのは、「政府支出を増やし、所得を上げること」でしょう。
そのあとに、格差の是正やビルトイン・スタビライザーを考慮して税を配分することです。


北欧と日本の、1999年~2019年の20年間の「政府総支出額の変化率と平均賃金の変化率」を比較しました。
(ついでにデンマークも出しました)


*平均賃金は購買力平価のドル換算、政府総支出額は自国通貨
https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2021/April
https://data.oecd.org/earnwage/average-wages.htm


ご覧の通り、ド相関関係にあります。

「政府支出を増やしている国は、給料も上がっている」
これが事実ですね。


本日はここまで。
最後までご覧いただきありがとうございます。
 
cargo