本稿は「生産性を上げるために中小企業を潰し大企業に編入してもGDPは下がるだけ」シリーズの第3回目です。

その①の投稿では、スガ政権と財務省・経産省が「中小企業を潰し、大銀行や大規模企業にM&Aさせれば生産性が上がり、給料やGDPも上がる」と考えていること、そして、なるべく多くの中小企業・個人事業主を潰したいがために、コロナ禍の財政出動を激ショボ額に抑え、持続化給付金や家賃支援金なども打ち切ることで、その狂った施策を推し進めようとしている可能性が高いとお伝えしました。

その②では、データを見ると、規制改革で雇用の流動化を進めてきたこの25年で「中小企業数は激減、大企業は激増したが、労働生産性は変わらないばかりかGDPも特に伸びず、総雇用者の平均給料はむしろ減少した」ということがわかりました。
つまり、スガ政権の「中小企業を潰し、大企業を増やせば生産性が上がり、給料やGDPも上がる」は既に失敗した案だったことがわかります。

その②の結論を一枚の画像で表現するとこうなります。



  *この場合の労働生産性は「一人当たり名目労働生産性;就業者一人当たりの付加価値額」です。「付加価値とは、生産額(売上高)から原材料費や外注加工費、機械の修繕費、動力費など外部から購入した費用を除いたもの」(だいたい粗利のこと)となります。
算出法は「総雇用者付加価値÷総雇用者数」なので、三面等価の法則からGDPと似たようなトレンドになります。

ですので、(雇用者数が変わらなければ)「企業の粗利が増えると、労働生産性が上がる」と言えます。
逆に、粗利が変わらない場合で、雇用者数が減っても、労働生産性は上がります。
ちなみにですが、よく見る賃金統計はだいたい2人以上世帯やサラリーマンが対象で、非正規なんかは除外されているので、ちょっと上がっていることになります。


その①の論拠となる、ショックドクトリン政策の証拠も残しておきましょう。
 

 【スガーリンの文化大革命(中小企業潰しのショックドクトリン)の一覧】

〇 令和二年・第三次補正予算:財務省「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」
各業界での雇用の移動・流動化、中小企業の業態移行を推し進める。(一端失業ないし倒産させ、再雇用する)
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/20hosei/dl/20201221_02.pdf

〇 銀行法の改訂
銀行が100%の出資者となり中小企業の企業経営に参加できるようにする。また、非上場企業の議決権取得制限を拡大する。
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12651906948.html

〇 中小企業基本法の改訂
中小企業の定義を変えて、税制優遇や補助金を削減する。
http://www.alps.or.jp/chuokai/organ/199912/1-1.html
https://news.yahoo.co.jp/byline/nakamuratomohiko/20200914-00198171/

〇 大企業によるM&Aを促進する税制
中小企業を買収した企業には税制面で優遇する。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020120201046&g=pol

〇 給与デジタル払い
銀行口座への振り込みではなく電子マネーで行い、地方の中小企業をサポートする地方銀行を剥がしとる。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012801379&g=eco

〇 大手銀行の人材を地方の中小企業へ派遣しM&Aを進める。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020120200838&g=eco

〇デイヴィッド・アトキンソン氏は「中小企業を半分に減らす」ことを公言している。


〇また、アトキンソン氏自身は、M&Aや敵対的買収(TOB)を得意とする三田証券で社外取締役に就いており、レントシーカーとして我田引水のぼろ儲けを狙っていることを隠そうともしていない。
 

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スガーリンやアトキンソンさん、財務省さんや経産省さんの労働生産性に関わる論理がいかにマクロ経済学的に間違っているのか、を本稿では説明したいと思います。

結論から先にお伝えしましょう。

「生産性の低い中小・零細企業を淘汰して経済を成長させるという考え方は、大きな間違い」です。

今回は、また関西学院大学の教授、朴勝俊先生の教材を利用させてもらい、私なりに短く説明したいと思います。
もちろん、cargoの説明は必要ないという方は以下の朴先生の動画で、理論を確認してみてください。

▼【みんなのおカネの紙芝居シリーズ 第2弾】「生産性」の低い企業や労働者を淘汰して、経済を成長させるという考え方は、間違いです! ーデーヴィッド・アトキンソン氏への反論 (朴勝俊)
https://parkseungjoon.hatenadiary.com/entry/2020/09/10/171736

ビデオ  https://www.youtube.com/watch?v=dHxLAIp4fPE

この朴先生のスライドを捕捉していきます。


要点です。式を見ればわかる通り、労働生産性を見かけ上あげるには、人件費を削減したり、従業員をクビにしても可能です。
でもこんなことをして労働生産性を上げても意味がありません。

ミクロ、つまり企業単位では就業者数や労働時間を減らすと生産性が上がるのは当たり前ですが、マクロでそんなことはできません。クビになった人を社会から追い出すなんてことはできないからです。

ちなみに上図の式の場合は右辺の分子がGDPになっていますが、GDPとは「産出された付加価値額の合計」という意味なので、朴先生の示した式で表される労働生産性も、結局は最初のグラフで採用した「一人当たり名目労働生産性;就業者一人当たりの付加価値額」と殆ど同じものになりす。


前提です。労働生産性は、簡単に言うと、「生産額(GDP)÷労働者の数」ですので、モデルはこうなります。
一番稼ぐ人を年収1200万円、まったく稼がない人を0円と仮定(縦軸)します。
横軸は人数です。

ちなみに「y=1200-100x」の係数「1000」がどっから出てきたのかというとこうなります。
1000は「傾き(変化の割合)」のこと =(yの増加量)÷(xの増加量)
=  1200(万円) ÷ 1.2(億人)
=    1000

右下がりの一次関数の公式は「y=-ax+b」なので、逆算しても正しいことがわかります。
600万円=-(a×0.6億人)+1200万円
(a×0.6億人)=-600万円+1200万円
a=600万円÷0.6億人
a=1000(傾き)


もう少しこのモデルを、実際の日本の労働環境(実際の就業率は53%)に近づけるとこうなります。
左のほうの大きな台形の面積がGDPで、実際のGDPとほぼ同じ540兆円になるようにしています。
(この台形の面積の求め方はわかりますよね)
1.2億人のうち、約半分の0.6億人が働いているので、労働生産性はGDP540兆円÷0.6億人で900万円です。
一番最初のグラフの「一人当たり労働生産性(付加価値のみ)」は約800~850万円くらいでしたので、簡素化したにしては妥当な値でしょう。

そのうえで賃金をGDPの6割の「w」とすると、就業者みんなで324兆円を稼いでいることになります。
(非就業者はまったく働いていない人や非正規ワープアなどが含まれます)
これを一人当たりの所得額になおすと、540万円となります。


能率が1.1倍になると、増えた能率と同じ分だけ稼ぐことができると仮定します。
ymax=1320-1100x
ymaxは最大生産額のことですね。


能率が1.1倍、有効需要も1.1倍なら、GDPも1.1倍になり594兆円になりますが、でもこんなことってまず起こりませんよ。
たとえ能率が1.1倍に増えたとしても「売れないものを生産することはできないので、需要は変わらない」というのが事実に近いでしょう。従って本当は能率を上げても、それだけではGDPは増えないのです。


能率が1.1倍になったけど、雇用調整(クビ切り)するので有効需要が一定(GDP=540兆円分のまま)となる場合がこれです。
就業者の労働生産性も平均賃金も上がるけど、切り捨てられた人たち(非就業者)の所得はダダ下がりです。
この場合の非就業者は失業者だけではなく低賃金ブラック非正規なども含まれます。

実際に、スガ総理やアトキンソンさんたちは、ゾンビ企業や能率の低い中小企業の人を削って労働生産性を高めようとしているんですからこうなる可能性が高いですよね。


能率はそのままで、有効需要が10%増えた場合です。
これは政府が支出を増やしたり消費減税などによって有効需要が10%増になるケースとなります。

この場合、y=1200円-1000x(一人当たり生産額)は変わりませんが、GDPが×1.1倍で594兆になり、需要が増えるので、x(就業者)が0.6980億人に増えます。
でもこの場合、なんと就業者の労働生産性も平均賃金も5.4%低下します。
しかしこれは悪いことではありません。
非就業者の所得のほうがなんと31.5%も増えるのです。


これは下手なエコノミストが言っている最悪の案となりますが、絶対にやってはいけないことです。
スガ総理やアトキンソンさんの「能率を上げるために、中小企業を淘汰する」という案がこのケースにあたります。

ケース4の時と似ていますが、このケースでは、就業者数を10%減らすと需要も減ると想定したので、GDPが502兆円へと7%も減るという結果が出ます。
この場合も就業者の労働生産性や平均賃金は上がりますが、非就業者(非正規含む)の数は増え、その所得も下がります。


 

労働生産性なんか政府支出して需要を増やせばおのずと上がるものなんです。
ですので、労働生産性を上げることを目標としてはいけません。


ミクロの労働生産性、つまり「付加価値額(粗利のこと)/就業者数」のことを考えてみましょう。

ミクロの場合、「より多くの利益を上げるためには労働生産性を高めなければいけない。そのためには無駄を削って、人件費を抑えて(人材を外注して)、原材料費をなるべく安く買い叩いて、頑張るんだ」と考えます。

この場合、貴方の会社の利益は上がるでしょうし、労働生産性も上がるかもしれません。

でも、他の会社も同じようなことをしていたとしたらどうでしょうか?


典型的な「合成の誤謬」は「みんなが貯蓄や節約に励むと、マクロでは需要が減ってGDPも減る」という感じですが、本件の場合は、「みんなが無駄を削って、人件費を抑えて、下請けを買い叩くと、マクロでは需要が減り、GDPも下がる」と言い換えることができるでしょう。

人件費を抑えるために人材を外注化(派遣など)すると、その人の所得が減りますし、下請けを買い叩くと、その下請けの所得も減ります。
彼らの所得が減るということは、ゆくゆくは貴方の会社の商品を買う人が減るかもしれないということです。
マクロではこういう積み重ねの結果が大きくなります。

無駄の削減をすると、その分あなたの儲けも増えるでしょうが、その裏側に無駄として削減された人や企業、商品があることを忘れてはなりませんよね。

そもそもそうやって無駄の削減を繰り返してきた結果、国民が貧困化して需要がなくなったのだから、原材料費をちょっとばかり安くしてほんのちょっと付加価値を増やしても、同じような値段でしか物が売れませんし、むしろ価格の下方圧力さえあるので、うまく儲けを増やせないような状態になっているのではないでしょうか。

企業は無駄の削減等で労働生産性を高めれば利益をあげられるかもしれないけど、こういう誤謬が重なってマクロで合成されたらデフレが促進されることは火を見るより明らかです。

企業というのはその営利目的、つまり利潤を最大化させるために、無駄を削減することは当たり前です。
本来なら、みんなが無駄を削減した結果、マクロでお金不足にならないように、市場にお金を投入するのが政府の役割なのです。


難しいことを考えなくても、中小企業経営者にヒアリングした結果が事実を如実に物語っています。
中小企業が直面する問題は主に「需要の停滞」で、次に「大企業等の進出による競争の激化」なのです。


出所:経産省の「中小企業白書」2016年版 p.42
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf


これは経産省の「中小企業白書」という資料にあるもので、彼ら官僚は実態を知ってるはずなのに、完全に無視しています。

需要を伸ばすべく政府支出を増やせばいいだけなのに、彼らは、それは絶対にやりたくない。

つまり、「支出を削減する」(緊縮財政)という「結論が先に決まっている」ので、その結論に合わせて、「労働生産性を高めればもっと中小企業もマクロも儲かる!」というデマを用い、恣意的なデータの切り取りや捏造・偽造を繰り返し、現実を歪め、国を亡ぼうそうとさえしているのが、我がニッポンの上級官僚だということになります。

雇用を流動化させれば、負け組の所得は減って、需要が減退するだけなのに、間違った経済政策を続けています。


私個人は、すでに財務省や経産省、厚労省の課長職以上の官僚は全員が新自由主義者(反日主義者)になってしまっていると推測しています。
安倍政権以降、内閣人事院という内閣府管轄の組織が、新自由主義者(反日主義者)でない者は出世できない人事システムにしてしまったためです。

上司や内閣府に逆らって捏造や隠蔽行為などを拒否すれば、モリカケで公文書偽造を拒否した赤木俊夫さんのように殺されるのですから、文字通り必死で事実をゆがめる作業に従事するでしょう。



さて、次回はもう少し深く理論部分に踏み込んでいこうと思います。
ケインズの言う上部構造に対する批判、つまり合理的視点のみを追求した、ミクロでしか経済を見ないことのバカバカしさを掘り下げるつもりです。

元FRB議長で現財務長官のジャネット・イエレン氏による「労働生産性上げたいんやったらな、需要を増やさなあかんで!」という基調演説も翻訳します。

 

 

 

最後まで長文をお読みくださりありがとうございました。

また次回。

 

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