写真:90年代前半の「元気が出るテレビ」における名物企画「ダンス甲子園」で、変則阿波踊りの技巧を披露する山本氏(https://www.youtube.com/watch?v=scPTcWy1I28

都知事選が終わりました。
結果は下馬評通り現職小池氏の圧勝。
ヤマシンの私としては非常に悔しい限りですが、敗北からも学べることは大きいので、少し私なりに「今後はこうしたら良いんじゃないないだろうか」という方針を考えてみました。

結論から言うと、私はやっぱり、れいわ山本太郎は「経済的弱者を助けて格差を解消すると、中産階級や富裕層も儲かる。本物の好景気を見せてやる」という路線が良いと思いました。
その理由を以下でお話しします。

まずは選挙結果を確認しましょう。


 *上記写真の2~4枚目は出口調査の結果なので、実数とは違いますが、傾向としてはこの通りでしょう。
 

 

興味深い点としてまずあげられるのが、山本氏が狙っていた無党派層、無関心層の掘り起こしがあまりできなかったことでしょうか。
そればかりか、無党派層の獲得では宇都宮氏にも負けてしまっています。
この結果は私にとっても本当に意外でした。

なぜなら東京(他府県も)の知事は、有名人が最多票を獲得する可能性が非常に高いからです。
青島幸男、石原慎太郎、猪瀨直樹、舛添要一、小池百合子。
この30年の都知事は全員がコメディアンやタレント、作家出身の有名人です。

ひょっとしたら、この有名人票ともいえるものをすべて小池氏に取られてしまったのかもしれませんが、この点はちょっと謎です。
おそらく山本陣営としてもこの予想外の結果に落胆したのではないでしょうか。
私は、万が一に無関心層の掘り起こしに成功したら150万票、200万票くらいいけるかもと期待していました。

もう一点、興味深いのが、立憲や国民民主支持層の4~6割程度が小池氏に投票していたことでしょう。
旧民主党はもともとネオリベの亜種「第三の道」的性格を有していた、いわゆる「改革推し」の政党でした。
立憲も国民民主も、いまだにそのネオリベ亜種だった過去を総括できていないので、支持者もネオリベ改革派の小池氏を支持してしまうのだろうという予測が成り立ちます。

 

 

山本太郎が無党派・無関心層にリーチしきれなかった理由を、以下の三点に分けて深掘りしたいと思います。

①「報道しない自由」を行使したマスコミ
②「改革」や「経営者的感覚を持つ候補」に魅入られる層を獲得できなかった
③あまりにも巨大だった組織票

 

 

①「報道しない自由」を行使したマスコミ

 

今回の都知事選で異常な報道体制がしかれていたことは、政治クラスタなら知っていると思います。
2016年の都知事選に5回もあった候補者のテレビ討論会が一回も行われず、報道量も前例のないほど少ない状況にありました。

山本氏は、放映権料や広告ビジネスのためにどうしても五輪をやりたいテレビ局のスポンサーサイドと、小池氏サイドの目論見が合致した結果だろうと発しています。
「討論会に応じると、学歴詐称や医療崩壊の件を攻められるのでやりたくない」という小池氏側の意向を汲む形で、テレビ局が開催しなかったと見られます。

小池氏は、テレビに出演して「ソーシャルディスタンス」とさえ言っていればプロモーションになるので、わざわざ批判される討論会などに出る必要がなかったというわけです。
民主主義の理念を踏みにじる卑劣な行為ですが、為政者とマスコミが結託して都民を欺いていたことに気づいた人も少なかったと思われます。


冒頭の写真の映像を見てもわかるように、一流のエンタテイナーだった山本氏は大舞台であればあるほど本領を発揮します。
しかし報道さえされないので、新規支持者を獲得することはできませんでした。

投開票日の記者会見では以下のように(https://youtu.be/YeS_xG53GK4?t=5397)語っていますが、これが見れなかったのは残念です。

「テレビで候補者討論会が生放送で行われたらおもっきりやったろと思てましたから。

ほんまに放送禁止物体になるくらい急所突き攻撃しようと思ってた。

既得権側にいる人たちは討論会開かなくて正解でしたよ」

 

該当箇所は1時間30分くらい

 

 

②「改革」や「経営者的感覚を持つ候補」に魅入られる層を獲得できなかった


無党派層でも5割、維新・立憲・国民民主支持層でも3~6割の人たちが小池氏に投票していたのは驚きでした。
また、小池氏と同じネオリベの小野氏も山本太郎に迫る勢いで票を得ていたことにも驚きました。
この二名の票を合わせると、ネオリベ票は7割にも及ぶことになります(笑)

東京都民の7割は頭がおかしいのか?と心配になりますが、投票率は55%だったので、ネオリベ票は多くても都民の4割ということになりますし、実際は小池氏や小野氏の政治スタンスのことを深く考えてる人間はその半分にも満たないでしょうから、ガチで新自由主義や改革を支持する実数は2割もいないのではないでしょうか。

それにしても、ネオリベの小池・小野票が伸びる理由は、「似非改革に騙されるB層」が大勢いるからだと判断できると思います。
B層というのは、「改革の中身はよくわからないけど、何か良いことをしてくれそうだ」と漠然としたイメージを持っている層です。

また、小池・小野らの横文字大好き系の政治家は、ICTとかダイバーシティとか意識高いっぽいことを言ってると、雰囲気重視のビジネスマン系の有権者も騙すことができます。

この場合の「改革」とは、もちろん規制緩和や構造改革、民営化、自由化、デジタル化なんかのことですが、意識高い系は「どん臭いお役所仕事ではなく民間企業が市場原理をもって運営したほうが合理的」などと考えるフシがあるので、とてもウケます。

また、この手の人たちは経済と経営を、そして行政と企業経営を、もしくはマクロ経済とミクロ経済を混同する向きがあるので、「合成の誤謬」にハマり切った思考しかできません。


企業経営であれば、業績を伸ばすために無駄を切り捨てることが良しとされますが、行政には、絶対に削減してはならない社会保障などがありますし、一見して無駄に思えるコストもマクロ市場に対する需要を生み出すため、カットしてしまうと逆に地域住民や経済全体にとっては損失となります。

このことを理解できない日経新聞読者やガイアの夜明け視聴者のような人たちが、安易な考えのもとに「経営者的感覚を持つ候補」を支持してしまう構造があるのです。

「改革は良いことだ」と妄信している層に、「それは間違っているんだよ」と訴えかけるテレビ討論のような場もなかったのですから、山本票が増えなかったのも当然だろうと予想できます。

 

 

③あまりにも巨大だった組織票

 

山本氏が以前から指摘していた点ではありますが、政府・自民党と利益相反関係にある業界団体の力も非常に大きいです。
ここに、今回は、労働者の利益を代弁する存在であるはずの労働組合、「連合」までが小池支持を表明しました。
宗教団体である創価学会(公明党)も9割以上が小池氏を投票先として選びました。

彼らは主に「自民党が我が企業団体に有利な法を作ってくれる、利益や仕事を横流ししてくれる」という理由で自民党を支持しますが、この力学は、彼らの家族をも巻き込んでいきます。
普段から政治に興味がないので、家族から「小池に入れて」と言われただけで機械的に投票する層が少なからずいるという構造です。

この大きな層は、投票者の3割は存在すると見られています。
この層は自民党コア層と丸かぶりですので、つき崩すのは極めて困難だといえるでしょう。

 

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以上の三点を勘案して、私が思うことは、②の「改革」や「経営者的感覚を持つ候補」に魅入られる層を説得するしかないということです。

①の「報道しない自由」を行使するマスコミに関しては、彼らはスポンサーの合理的市場原理で動くので、ほぼコントロール不可能ですし、③のあまりにも巨大な組織票も、ほとんど動かすことはできないのだろうと思います。


私は、この「ネオリベ似非改革」に魅入られる層は、広義で考えると、国民の半数はいると見ています。
実際の熱心な改革派勢は1、2割しかいないと考えられますが、立憲や国民民主の支持層でも約半分が小池・小野に票を投じるくらいですから、普段から投票に行く層や無党派層のみならず、無関心層にも裾野が広がっているのだと思います。

それもそのはずで、大本営マスコミや御用学者、池上彰氏ら御用タレントが、いまだにこの1990年代には終わったネオリベ思想を信じ、前のめりで広め続けているのですから、人々が騙されるのも頷けます。

こういった洗脳を受けてきた一般の人たちに、「社会的・経済的弱者にお金を出そう」と主張しても、極端に言えば、「俺たちが必死で働いて預けた税金を怠け者たちにバラ撒くな」といった感覚の人たちか、24時間テレビに募金する程度の感覚でいる人たちかの二方向くらいにしか反応されないのではないでしょうか。
(*実際には山本氏はこんな単純な主張にはありませんが、多くの人にそう受け取られてしまっています)


日本人の99.9%は、税金が政府や行政が持つ、どこか金庫のようなところに貯められていて、そこから社会保障費などを支払っていると勘違いしていますが、実際は、政府が支出するときに無から新しいお金が生まれます。
これは政府に財政的保証をゆだねる地方公共団体とてほぼ同じです。

いわば打ち出の小槌を手にしているので、政府は、基本的には財源に制限はありません。

しかし、保守系のネオリベ派、左派系のリベラル派、または一般の国民に至るまでがこのお金のプール論(貨幣ヴェール論)を信じこみ、財源に上限があると思っているため、「社会保障費や無駄な支出を削って、改革しなければならない」とバカな考えに洗脳されているのです。

実際に、こういった緊縮財政や改革によって格差が拡大してきました。

格差が拡大すると経済が停滞するため、悪循環を生み、さらなる停滞を生む事実もあり、逆に言えば格差を解消すると経済成長します。

  参考: 拙ブログ :「格差拡大」と「自己責任論」は経済を停滞させる 
         https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12391862407.html

ですから、私は、れいわ・山本太郎は「経済的弱者を助けて格差を解消すると、中産階級や富裕層も儲かる。本物の好景気を見せてやる」という路線をもっと強調すべきだろうと思っています。

これならお金儲けと経営者目線が大好きなネオリベ改革路線にある人たちの耳目を集めることもできます。
中産階級や富裕層にももっと支持が広がるのではないでしょうか。
経費をカットするのではなく投資により事業拡大しようという向きで、「弱者救済」と「経済成長」をセットにして語るべきでした。
(私が好きな路線はこういう演説 → https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12608821049.html

もちろん、山本氏はこのことを深く理解していますが、今回もうまくアピールできていなかったように感じました。
「一律10万円給付し業績悪化した企業も支援して、皆さんを底上げする」という演説におけるフレーズからは、それが経済の好循環につながる、不況を脱出する、好景気になるというイメージにつながりません。

山本氏の主張が、世間一般に「弱者の救済のみ」「ばら撒きのみ」であると受け取られるのは、やはり「本物の好景気を見せてやる」路線の強調が足りなかったのです。

このことが本当に大事なことは、以下のような日本人の気質や社会構造からも言えるはずです。

日本人の6割以上が年収400万円以下であるのに、9割の人が「自分は中流である」と考えています。
 

自身の帰属を中間層だと認識しているので、「弱者救済ばかりで無駄遣いしても、私たち中間層の生活や経済全体はよくならない」と感じているのかもしれないということです。


私たち日本人は、実像と自己認識の乖離が極めて大きい国民性と言えます。
マジョリティーから外れることを異常なほどに嫌がり、他人から「中立的で良識的な人物」だと見られたい国民性から、「自分は中間層」だと言い張る歪んだ心理作用を生んだとも考えられます。

ですから、山本氏の主張が「弱者救済」や「お金をばら撒く」という単純なものだと認識されてしまうと、世間体を大事にする彼らには「良識的な私はお金には釣られない」、「理性的な私は極端な主張には与しない」という心理が働くのかもしれません。


これも自己責任真理教のマントラが隅々にまで行き届いた社会ならではの現象だと思いますが、「経済的弱者を助けて格差を解消すると、中産階級や富裕層も儲かる」という論理は、経済学的に完全に正しい主張なのですから、いずれ万人に受け入れられると思います。

 

政府が支出すると皆さんの給料が増えます。

特に、低所得者の給料が増えると、お金をたくさん使う(限界消費性向が高い)ので、より経済が好循環します。

 

出典: @tasan_121 氏

 

山本氏は「9割もいる中間層に向けて発している」という意識で演説等に挑まなければならないのだと思います。

そしてその9割の中間層は大半が、広義の改革派なのです。

 

②のネオリベ改革派層にリーチできると、マインド的にカブる③の組織票派にもリーチできる可能性も高まります。

そうすると②と③を内包する大企業やマスコミのなかにも好意的な人物が増え、橋下さんのように露出も増えるかもしれません。

①の「報道しない自由」を行使したマスコミにもリーチできる可能性が高まるというわけです。

顕著な数字とは言えませんが、ネオリベであるはずの維新支持者の約1割が山本氏を支持しているのは、②のネオリベ改革層にリーチできつつあることのあらわれなのかもしれません。

 

れいわ・山本太郎は「経済的弱者を助けて格差を解消すると、中産階級や富裕層も儲かる。本物の好景気を見せてやる」という路線をもっと強調すべきです。

または、「改革」のイメージを逆手にとって、「本物の改革を見せてやる」とか「カイカクを改革する真の改革派」とかっていうキャッチでも良いかもしれません(笑)

これからも「天才たろうの元気が出る選挙」に期待します。

以上、ご覧いただきありがとうございました。

また次回。

cargo