俺には音楽があるから!
俺にはロックがあるから!
理由が無くなった時、
人は活力を失っていく。
借金は減らない。
ついには住む場所すら失う。
嫁と二人で途方にくれる。
でも一応生きているから、車で過ごす事を決める。
バイトに行く。借金を払う。
安売りの弁当を買う。二人で分け合う。
バイトに行く。借金を払う。
減らない。途方にくれる。
ふと。思う。
もうそろそろ終わりかな。
二人で死のうと。
終わりにしてしまおうと。
でもできない。
後もう少しアクセルを強く踏むだけ。
できない。死ぬ事がとにかく怖かった。
ギターは一切弾かなくなった。
とりあえず借金の利子を払う生活。
バイトを辞めて就職した。
営業職。訪問販売。
喧嘩する。客とも上司とも。
その日に辞める。
そんな事が2、3回あった。
嫁は呆れてる。
でもなんとか働いてる。
利子を払わなきゃならないから。
そんなクソ野郎に、転機が訪れる。
生きてる意味なんて何にも無かった。
別に深い意味があったわけでもないけど、
せめて美味いもんでも食ってみたい。
前を通っては、その芳しいさに心奪われていた地元のイタリアンレストラン。
くしゃくしゃになった5000円札を握りしめて入る。
2500円のコースを2つ。
そんな安いコースなのに、前菜とパスタとメインが出てくる。
無言で食べる2人。
初めて食べるイタリア料理。
ため息と涙が出る。
メインは鴨肉とフォアグラのオレンジソース。
目をまん丸くする2人。
思わず笑ってしまう。
今までもこれから先も、こんなに美味いと感じる料理には絶対出会わないとおもった。
幸せな時間。生きる意味を感じる時間。
俺はこれを仕事にしたい!!
最後の借金。
これで最後。
10万円をかりてボロボロのアパートを借りる。
そしてあのレストランにお願いに行く。
「僕をここで働かしてください!!」
松本。23歳の夏の出来事。
修行は大変だった。
毎日毎日、怒られ殴られ。
それでもなんとか逃げずにいた。
給料は安かった。
とてもじゃないけど、借金を返せない。
でも辞めるわけにはいかない!!
これを辞めたらもう終わり。最後の最後!!
掛け持ちでバイトもする。
レストランの後、深夜から朝までラーメン屋。
少し眠ってレストラン。
体がボロボロになって、胃酸が逆流して嘔吐する事もあった。
でも続けた。続けなきゃいけない理由がもう一つできた。
24歳の誕生日を迎える前日に俺は
父親になった。
まだまだ寒い3月17日の事。
初めて見た我が子。
俺の人差し指をギュッと握ってきた。
生きる意味を得た23歳の最後の日。
それからの松本は、狂気的に働いた。
死ぬわけにはいかないから!!
とりあえず、やれる事はなんでもやった。
それはそれは、刺激的で大変な毎日だった。
でもそれは、また次のお話。