Blue Steel
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ミラノ

セブンは割合早く手放すことになった。
理由は簡単で、乗れなかったから。
走るために生まれたような素性の車は、どこにでも連れ出すというわけにはいかなかった。
連れ出す日には、前もって天気予報で天候を確認し、
長期の旅行など、限られたラゲッジに積める荷物が限定されるために、いけるわけはない。
爆音を発生させるため、早朝、深夜の帰宅、出発は近所迷惑なのでご法度。
夏は灼熱地獄、冬はまあ着ればよいけど、モコモコ。
彼女をエスコートしようにも、ドアすらなく、
まかりまちがえば、マイクザパイプで火傷する。
正直疲れてしまった。
なんでもこいつでこなすには、まだまだ修業が足りないみたい。
つか、そんな、近所に買い物行くためのつっかけみたいに使う車ではなく、また、ホテルのロビーに颯爽と乗りつける車でもない。
なにより、誰からも理解される車ではなかった。
ローンをしこたま残して、だれかに譲ることにした。
買った店に持って行くと、委託販売という形で預かるという。
売れるまで、なんだか中古車雑誌のトップページを飾ったりしたが、割と高く売れて、ローンはチャラになった。


さて


次の車はなににしよう?


家には車があるので、そんなに困っているわけではないが、趣味でもある車だからという理由とすきものなので、結構まよった。


で、一度は乗ってみたかった、当時秘密兵器みたいなスーパーウエポンを候補に挙げて探してみることにした。


ランチアデルタインテグラーレ。


言わずと知れた、当時のラリーマシンである。


フルタイム4WDのターボエンジン。


時期によってもいろいろあるけど、かなりパワフル。


で、なぜか安いたまがごろごろしていた。


いいなあ


知り合いに、根っからのイタ車フリークがいるので、相談した。


「どっかにないかな?」


「アルファがいいですよ」


「へ?アルファ? なんで?」


彼は、アルファ75に乗っている。


イタリアに3年暮らし、どっぷりイタリア生活になれひたしんでいたが…


「アルファ155の8バルブはいいエンジンですよ。75と一緒ですよ」


確かに、パンダに乗っていた当時からその75はよい音を奏でていた。


マフラーを替え、インダクションボックスまで替えたそのエンジンは、基本設計は相当古い。


ただし、現在アルファ、いやイタリア車全般に言えるのは、すべてフィアット製のえんじんだとのこと。


諸説いろいろあるが、155の8バルブツインカムは、現存する、最後の純血アルファツインカムということになる。


「なるほど」


調べると、8バルブを売っているお店が見つかった。


早速、その店に、件の友人と試乗をしにいった。


八潮にあるその店は、「ミラノ コーポレーション」という。



ボーントゥーラン(2)

ケイターハム スーパーセヴン は、かくして我が家のガレージにおさまった。

1700cc直列4気筒OHVという古典的なエンジンは、45φのウェーバーキャブレターを2連装し、

一応公称される135馬力という出力は、おそらく凌駕しているはずだった。(通常は40φを2基掛け)

もっとも、それはよく調教された個体のベストパワーであり、

ウェーバーキャブは、そんなに簡単に調律できるものではなかった。

大口径キャブは、ラフにアクセルを蹴るとせき込み、

調整をミスると、プラグをかぶらせて、爆発しなくなったりする。

道具も何もない状態で、その調整をするのは、実質的に不可能で、

神のみぞ知るそのおいしい領域に踏み込むことは、僕が乗っている間一度たりともなかったと思っている。

ただ、この車の真骨頂は、そんなエンジンの出力なんぞ関係ない、車両重量の軽さにあった。


セブン一族は、こと、ケイターハムという一社出身の車種を見ても、1600ccから2000ccまでOHVやDOHCヘッド、キャブ仕様に電子制御式燃料噴射装置まで、現在では、バイク用の750ccエンジンを積んだ物まであるが、その印象は、かなり一貫している。


もちろん、250馬力を超えるコスワースユニットだろうが、1600ccのケントユニットだろうがおんなじである。


それは強烈な加速である。


そして、上体をさらけ出していることからくる圧倒的なスピード感であり、


考えただけで曲がると形容されるような、クイックなハンドリングである。


総じて、500Kg前後の車重が織りなす、めくるめくドライビングプレジャーの世界に、

すべてのセブンが住んでいるのだった。




ボーントゥーラン

パンダの次の車は、実は半分決まっていた。
候補にあげる車は、何台かあり、そのうち最終先行で、結構迷った車もあるにはあった。
ランドローバーディスカバリーなどは試乗などもした。
結構よいな、とおもいながら、やはり捨て切れない思いが吹っ切れず、悶々としていたのだった。
その車を手に入れることは、なにかを得る替わりに、かなりのものを失うことはあきらかだった。

スーパーセブンとはそんな車だ。
走る機能を突き詰めるとあんな車になる。
元々は、イギリスのバックヤードビルダーたちに、安価で、作りやすいキットとして販売されたロータス6辺りが祖先と言えようか?
イギリスの若者達はこのキットに様々なエンジンを吊って、ホビーレースに挑んだ。
そんなバックボーンを持つスーパーセブンは、当然快適に移動するためのグランドツーリスモではない。
極端に言えば、エンジンとタイア以外は、それほど重要なパーツではないかのような扱いを受ける。
それは、操縦者たる僕自信も例外ではない。
エンジンルームの一部に足を突っ込むようなポジションを強いられるわたしの足元は、一度座ったらペダルの位置を目で確認することすら不可能。
そのせまい足元はま近のエンジンからの熱で、常にねっせられるオーブンみたいだ。
また、この車には、屋根はおろか、ドアもない。
マフラーなどは、車体の内部を通ることすら叶わず、助手席(このばあいは左側)の外側に露出し、パッセンジャーは降りる際に足を火傷する。
エアコンはもちろん、ラジオすらない。

親からはなじられ、仲間からは呆れられながらも羨望をうけた。

でも、それでもよかった。

一度乗ってみたかった。

自分のものにしてみたかったのである。
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