四角い箱(3)
そんなこんなで、パンダくんとの甘い蜜月もしばらくしたころ、
突然マフラーが腐って落ちてしまった。
突然ガンガラガラ!!という音とともに、マフラーを引きずりだしたようだった。
ありゃりゃ
困ったけど、とりあえず仕事途中だったし、仕方なく落ちかけたマフラーを、ブッシュから抜き去り、
後部座席の後ろのラゲッジルームに押し込むと、爆音をまき散らしながら仕事に復帰した。
しばらくは、そんな車で走ることは近所迷惑だったので、家の車を無理やり使って仕事をしていたが、
パンダをほおっておくわけにもいかず、直すためにちょっと気になるお店にアクセスしてみた。
店の名を「コレクション」という
当時、というか、以前から愛読していた、雑誌に載っているお店だ。
イタリア車を、割とセンスよくドレスアップしてくれるお店のようだ。
たぶん純正の代替え品は、べらぼうに高いに決まっているし、第一、現行ではなさそうな古い車の部品をストックしているかどうかわからない。
コレクションのパンダオリジナルマフラーは、ステンレスで、しかもかなりリーズナブルであった。
というわけで、とりも直さず直接アクセスしてみた。
「あのー、パンダ4×4のマフラーがほしいんですけど」
「あー、はいはい、最後の一本3マン○千円です。」
ありがとうございました。といって、持って帰ってきてしまった。
なにせ、パンダはいま爆音仕様。
おいそれと散歩に連れ出すわけにはいかない。
家のプリメーラ(この車がまた最高に良い車だったのですが)のトランクに押し込めると、
すぐさま家まで持ち帰り、とりあえず現物をしげしげ眺めて、どうやったら取り付けられるのか考え始めた。
以前、ロードスターの排気管はすべて自分で交換したので、パンダのように車高の高い車なら、
しかも、触媒以降のトレードインなら、割と簡単だろうとタカをくくっていた。
専用パーツとはいえ、メーカー品ではないので、完全なボルトオンではないが、
多少の穴あけと、汎用金具を使えば、割と簡単にできそうだと考えられた。
休日を利用して、約半日。
コレクションオリジナルマフラー仕様のパンダは、産声と呼ぶには勇ましい排気音をとどろかせ始めた。
これが、同じくるまか?
直管爆音仕様ほどではないが、ステンレスマフラーからはかなりのボリュームの排気音が出ている。
以前の音よりかなりやる気を起こすような音だ。
というより、以前よりも、排気音が自己主張をもって後ろのほうから聞こえるといえばよいのか。
とにかく、なんだかちょっとニヤけてしまうような音。
とても楽しい音?
僕の友人に、イタリアの車ばかり乗り継いでいるやつがいるのだが、
そいつとつるんで走った時、
「すっげーいい音!キンキンいっちゃって!どこのマフラーですか!?」
おしえたら、そいつ即買いに行っちゃって、翌週には、マフラーとインダクションポッドをコレクションオリジナルにした、アルファ75に乗ってきちゃった。
パンダは遅い
それは紛れもない事実だが、絶対的なスピードよりも、感覚的なスピードが加速してゆく乗り物だった。
イタリア車全体に言えるのかもしれない。
イタリアの車は、なんだか官能的だ。
かのフェラーリだって、レースで活躍するのはまれだ。
だが、見る者、乗る者、みんななんだか恍惚となるようなぶったいなのではないだろうか。
パンダに乗っていた時は、いっつも笑っていたようなきがするんだよなあ。
あの車は、速くはないけど、なんだかとっても楽しいくるまだったなあ。
仕事で疲れて、不注意で壊してしまったけれど、今でもほしいくるまだな。
あんなくるまが生活の一部になっているなんて、考えただけでもわくわくするのだ。
四角い箱(2)
なにしろ、のろい(爆笑)
その頃、国産軽自動車は、アルト・ワークスを初め、何故かハイパワーを競い、ターボつきは当たり前。
フルタイム4WDなんてのもついている。
そんな軽自動車にすらおいていかれる遅さである。
でも、そんなことには構わない雰囲気があったのだ。
でも、エンジンは良く回り、実際たいしたスピードが出ていなくとも、十分気持ちがよいはしりを提供してくれた。
ドライバーに与えるプレジャーは相当高いのだ。
僕の手にしたパンダは四輪駆動車でパートタイムである。
普段はFFで有事には四輪駆動にできる生活四駆である。
スバルのレオーネなんかと同じ。
よって、速く走るための、機能はない。
ただこれがよく出来ている。
開発は、オーストリアのシュタイア・プフ社。
ステアーと言えば、知っている人もいるかも知れないが、軍事機器をメインに開発している大企業である。
タフで使いやすく高性能。
都内で大雪の日に、みんな路肩に車を放棄したとき、僕のパンダはそのシケインをかい潜り、いの一番に会社に僕を運んでくれた。
手頃なサイズ、どこまでも走ってくれる高性能、そんなパンダは軍用車として、イタリア軍に徴用されたりもしていたのである。
四角い箱
仕事の合間に立ち寄った、
というか見かけた中古車やさん
大きくないけど、わりと変わった車がおいてあった。
大きな段ボール箱みたいな、小さな、水色の車がちょこんとおいてあった。
かなりくたびれた様子のその小型車は、なんだか異才を放っていた。
名をパンダという。
正確にはフィアットパンダ4×4
イタリア人が好きな小さなサイズの車だ。
少し前まで、チンクチェント(500の意)という小型車が、イタリア中を席巻していたが、それを当時のモダニズムでリフレッシュというか、フルモデルチェンジしたような車がパンダ。
大人4人が過不足なく移動できる、生活に根差した、安い自動車。
日本には軽自動車というカテゴリーがあるが、そんな感じの車である
ただ、パンダはそんな安っぽさは微塵もない
いや、安普請には違いはないが、コストダウンのアプローチのしかたが痺れてしまう
例えば、フロントガラスにワイパーは一本だ。
確かに払拭面積は少ないかもしれないが、十分前を見ることが可能だ。
それは、フロントガラスが平面ガラスを使用していることに、起因しているのかもしれない。
そう、フロントガラスがまったいらなのである。
フロントだけでなく、すべてのガラスはまったいらだ。
また、室内にはダッシュボードがない。
メーターナセルはあるが、助手席の前には、ウィンドウの下に、マガジンラックのような棚があるだけづある。
僕の見たパンダには、その棚の下に、クーラーユニットが吊り下げられていた。
凄まじい、スパルタンさ。
ただ、それら全てが調和しており、貧乏臭さがないのだ。
割り切り方が爽やかで、むしろゆたかな生活が垣間見えたのである。
こんなやつと上手に暮らせたら、愉快に違いない。
その場で試乗させてもらって、次の週末には、ロードスターの買い手を決めていた。
パンダは、その売却額でお釣りの来る安さだった。
続く