今週は
イゼルディン・アブエライシュ先生 の来日関係で
わたわたしていました並木です、こんにちは。
2/19(水)は
彼や鎌田實先生、UNRWAの清田先生の講演 でしたが、
530人の皆さんの前で初めて司会なるものをやりました。
心臓飛び出そう!とは思わなかったけれど、
出たとこ勝負なところが多くて多少焦りました。笑
面白い経験、良い機会をいただきました。
ちなみに本来、イゼルディン先生の名前は
「イズッディーン・アブルエーシュ」と発音します。
アブルエーシュ(Abu elAesh)は主にエジプト方言で「パンの父」という意味です。
イスラエル建国以前に暮らしていた村では名家だったそうで、
パン(=食)を支えてくれる人、と定評のある、
寛容な家柄だったのだろうなぁ、と思わされる名字ですね。
(アラビア語の名字は、先祖の職業や役割を表すものも多いです)
さて、本の感想+講演会レビューです。(今年1冊目)
本は亜紀書房様にご献本いただき、先週読み終えました。
亜紀書房様、ありがとうございます!
それでも、私は憎まない(亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズ)/亜紀書房 ¥1,995
Amazon.co.jp
この本は、ある一人の男性が、非日常が日常と化した有り得ないような日々を
一つ一つ乗り越えていくノンフィクション記録です。
お父さんの時代の、近所での虐殺の噂に始まり、
避難した場所での長くなってしまった生活、
すし詰めで暮らし眠る家、雨漏りする中での必死の勉強、
アンフェアな学校や社会、10代前半にして一家を養う責任、
建設現場や農場での厳しい労働。
ようやく医療を大学で学ぶ明るい日々が始まったかと思えば、
ガザとイスラエルを行き来する暮らしを選び取り、
草の根の平和を創る地道な活動が軌道に乗ったと思えば、
病気で妻を失い、その半年後に自宅がイスラエル軍の攻撃を受け、
大事な3人の娘と姪1人が目の前でバラバラになる…。
VIDEO (その時の様子がイスラエルのテレビでも放映されています)
それでも、と彼は言います。
自分は憎まない。深い怒りはあっても、憎みはしない。
「向こう側」を一色に塗りつぶしたりはしないし、
憎しみという病気にとらわれ、自分を、視界を失ったりしない。
正義を求め、怒りをもって主張することと、
憎しみをもって盲目になることは全く違うのだ、と。
それが可能なのは、境界線の両側で生きた彼の生い立ちに加え、
多分に彼の職業があるからなのだろうと思います。
医者は、感情に囚われず、患者の症状を止めるために
原因を取り除くべく最善を尽くさなければならない。
患者が生きている限りは、希望を持たなければならない。
一人の患者が亡くなったからといって、立ち止まっている訳にはいかない。
それは、誰にでもできることなのだろうか。
そう思いながら臨んだ講演会でしたが、
彼は「皆さんにも、誰にでもできます」と壇上から訴えました。
憎しみがどれだけ不健康な存在か、考えてみてください、と。
アインシュタインが言うように
「人生とは自転車のようなものだ」から、
「倒れないようにするには走らなければならない」のです、と。
でも、そんなあなたに盲目の憎しみをぶつけてくる人がいたら?
そういう問いに、彼は笑って答えていました。
「僕の思いが、届く人に、届けばいいんだよ」。
* * *
ここからは純粋に自分の感想ですが、
読み終わったとき、「あぁ、”世界を知る”っていうのはこういうことだ」
と思いました。
世界の政治の流れだけをどれだけ熟知しているかとか、
歴史の年号を言えるとか、そういうのはゲームか暗記でしかない。
政治を知るというのは、ツールを知る、ということに過ぎない。
極言すれば、ハサミの使い方を知るのとおなじ。
世界の政治の流れを知る必要があるのは、そもそも「守りたい人がいるから」だ、
と私は思う。自分と、家族と、友人と、そしてまだ見ぬ誰か。
和平交渉だ、紛争だ、条約だなんだかんだと騒ぐ世界政治のうしろに、
この著者の一家のように、人生を翻弄される数えきれない人々がいる。
彼らの豊かでいて遣る瀬のない物語を一つ一つ集め、少しでも深く噛み締め、
巨大なパズルの見えないピースの形を想像することなしに、
「世界を知っている」とはいえない。
政治というツールの使い方を知っている、とはいえない。
だから、大学の机で国際政治を学んでいる学生さんや、
中東世界を学ぼうとしている学生さんには特に、読んでほしいと思う。
幾ら堅い本を読み漁って、政治に精通していても、
人の姿を知らない限り、それを適切に使うことはできない。
あなたの乗り物は不安定で片方の車輪がなく、
あなたしか乗れない一輪車に過ぎない。
もう一つの車輪は、政治に翻弄される誰かの人生の物語の中にある。
それを探して、車に取り付けてくれる人が増えればいいと思う。
あなたの学びが、誰かの思いも乗せて世界を変えて行けるように。