act happy.
私は幸せなフリをする。
友達には、本当のことを知られたくはない。
私は幸せなフリをする。
そうすることで、幸せなんじゃないかと錯覚したい。
私は幸せなフリをする。
世の中にはもっと、苦しい人がいるから、
だから私は自分を不幸だなんて思ってはいけない。
でも、私は不幸だ。
幸せだと感じられないし、生きているのがやっと。
幸せだと思わなきゃいけない。
いっぱい散らばっている幸せなパーツを集めて、「ほら、幸せでしょ」って
笑っていなくちゃいけないんだけど、やっぱり作り笑顔しか出来ない。
あいつみたいに悪い部分ばかりを見て、不平不満ばかりを言う人間になりたくないから、
だから幸せな部分を無理やりにでも引っ張ってきて、心が満たされていると思い込みたい。
でも、やっぱり自分を騙すことは出来ない。
私は寂しい。悲しくて、苦しい。
ここから逃げ出してしまいたいし、明日が来るのが怖い。
そんなことを、話せる人もいない。
The butterfly effect
もしも、あの日に戻れるのなら
2人出会った日に戻れるのなら、
私はやり直したい。
もう、私はあなたに声を掛けない。
そうすれば、電話番号のメモを渡されることもなく
待ち合わせることもなく
一緒に食事したり、海を見たり、手を繋ぐこともないまま、
私の日記帳は開かれることもないままで、
薬指に指輪をはめることもなく
嘘になる誓いを交わすこともなく
幻だった愛に気付くこともなく
あなたを傷つけることもなく
あなたに傷つけられることもなく
あなたを嫌うこともなく
あなたに嫌われることもなく
なんにもなくなって、
あなたの人生を壊すこともないまま、
あなたは幸せになれたでしょう。
そして私は、あの日
たくさんの薬を飲んだ日、
あのまま、
この世界を飛び出せたのかもしれない。
私には、きっとそれが幸せだった。
バタフライエフェクトという映画、
その結末のように。
あなたが私の人生に迷い込まないよう、
私はあなたを遠ざけるから。
それが2人にとって、最善の未来になることを、今の私は知っているから。

At the kitchen .
私は毎日キッチンに立ち、料理をする。
私には、料理くらいしか人を笑顔にさせる術がないから。
でも彼は「別にお腹さえ満たされれば毎日レトルトでも構わないし」と言っていた。
そして、くる日もくる日も
私がいかに存在価値のない人間か言って聞かせた。
迷惑を掛けて、家族を苦しめるだけ。
そう言い続けるけれど、消えろという意味ではないと言う。
存在意義を否定しないでと訴えれば、
被害妄想だと言う。
私がここにいる意味はあるのかな。
そんなとき、私はキッチンに立つ。
彼は、作った料理に対して美味しいと言ってはくれる。
子供は、嬉しそうに沢山食べてくれる。
山ほどお菓子を作り、
パンを焼き、
毎晩健康のためを思ってキッチンに立つ。
彼が別にレトルトでも何でもいいと思っていたとしても、唯一私が彼に評価されることが料理だから。
唯一私が、自信を持てることだから。
唯一私が、人より優れていると思えることだから。
キッチンは、料理は、私を救ってくれた。
何度となく、壊れそうな心に平静を取り戻させてくれた。
玉ねぎを刻む。
卵を解きほぐす。
オーブンを温める。
生クリームを絞る。
1つ1つ、集中して没頭できる。
涙をこぼしながら作り始めたケーキ。
焼きあがる頃には落ち着いている。
消えてなくなろうかと考えながらアイシングを絞る。
完成したクッキーを食べれば、今日はもう寝よう、と思える。
周りは皆、
私が料理上手で本当にいいお母さんだね!
旦那さんも幸せだね!と言う。
そんなはずない。
全く違う。
でも、私は笑いながら言う。
そんなことないよ~、って。
誰も知らない。
私がどうして料理を作るか。
私がどうして料理上手になったのか。
私が料理をする理由
キッチンに立つ理由
それは、唯一の自信を持って立てる場所であり、自分を肯定してあげられる唯一の居場所だから。
悲しくて、悔しくて、苦しくて、
大声で叫びたくて、泣きわめきたくて、
逃げ出したくて、消えてしまいたくて、
そんな心を、なんとか閉じ込めるために
私はキッチンに立つ。
洗い物をして、食器を丁寧に拭き、キッチンをキレイに掃除する。
心を無にしたくて、ひたすら。
涙の数だけ、私は甘いスイーツを完成させた。
誰も知らない。
周りの皆から見たら、私はただの料理上手ないいお母さんで、いい妻。
私がキッチンに立つ本当の理由は、誰も知らない。



