No.14「自分らしく、後悔のない人生を送りたい」挑戦内容:地域で罹患者が集まれる場所をつくる | 挑戦記インタビュープロジェクト

挑戦記インタビュープロジェクト

キャンサーペアレンツ会員たちの挑戦記をご紹介していきます。



名前:松本みゆきさん
年齢:51歳
仕事:看護師(教育担当)
家族構成:長女(27)、次女(13)
疾病:肺がん
罹患時年齢:48歳

概要:2017年4月末、職場の健診(胸部X線検査)を受診の結果、精密検査をするように言われる。5月勤務先の病院で再度胸部X線検査。4月時より陰影減少しており自覚症状もないため、健診時は肺炎⁉とのことで、1ヶ月後の再検査となる。6月21日、胸部X線検査後、直ぐにCT検査を実施。肺がんと判り、胸水も認められた。6月23日、大学病院で精密検査(ステージⅣの告知)。7月4日、気管支鏡検査にて、肺腺がん、ALK、胸膜播種との診断。7月26日、入院。アレセンサ(分子標的薬)服用開始。8月10日、退院。8月16日仕事復帰。2018年3月1日、病棟師長(課長職)に昇進。2019年4月1日、教育担当(課長職)に異動。



◆がん宣告前後◆
Q・がん宣告前後の状況を聞かせてください。

ステージⅣの告知を受けたときは本当にショックで、周囲には正確なことを話せなかったですね。看護師ですから、事の重大性は十分理解していましたし。当然家族には伝えましたが、通院先である病院で助産師をしている上の娘からは、「家のこと、全部分かるようにしておいてよ」と言われてしまいました。



Q・そのときの心境はいかがでしたか?
自分自身のことは覚悟しました。遺書も書きましたし、子どもたちにきちんと残すものを残さないとという気持ちでしたね。しかし、小学校4年生の娘の成長をどう支えていけばよいのかを悩みました。



Q・そこからどのように頭を切り替えていったのですか?
2017年7月から始めた分子標的薬での治療が想定以上にうまく進んだことで、自分の中で「希望」が生まれてきました。治療のために入院する必要があったのですが、実はその前日まで仕事をするほど、私は仕事が好きなんです。なので、「これでまた職場復帰できるかもしれない、家族とも一緒にいられるかもしれない」と。こうした希望が生きる力になりました。


おかげさまで3年が経った現在も、分子標的薬を使いながら、元気に過ごすことができていて、本当に感謝の毎日です。




◆挑戦について◆
Q・現在、どんな挑戦をされているのですか?

地域で、がん罹患者が集まれる場所をつくり、運営する取り組みをしています。大きくは二つ。一つは、「さくらカフェ」という、子育て世代のがん患者サロンを2020年1月に立ち上げました。


治療先でもある鳥取大学医学部附属病院のがん相談支援センターさんと協力して、病気のこと、子育てをしながらの治療のこと、仕事のこと、家族の役割など、日頃の悩み、不安、工夫などを参加者の皆さんと一緒にお話しする場をつくりました。


ここでの私は、「ピアサポーター」という役割で、自分自身、がん罹患者であり、二児の母ということから、参加者の方々と同じ立場でお話をしています。


もう一つが、2020年7月に立ち上げた「あさがお」というサロンの活動です。こちらは、私が勤務している医療法人養和会のバックアップを受けて、職員として活動しています。

「オレンジサロンかみごとう」という病院外にあるアットホームな会場で、治療のことや罹患前後の気持ちの変化、最近の生活などについて、お茶を飲みながらお話をする場です。


オンライン含めてすでに2回ほど実施していますが、「また参加したい」「同じ状況に置かれている方とつながっていたい」といった感想をいただいており、始めて良かったと思っています。


特に今はコロナ禍ですので、ただでさえつながる機会の少ない罹患者の方々が、一層つながりにくくなっているように思います。ですから、感染リスクは最大限考慮しつつも、今後もつながる機会は継続的に提供していきたいですね。


▼「あさがお」でのひとコマ



Q・なぜその挑戦を始めようと思ったのですか?
以前、キャンサーペアレンツのオフ会が大阪で行われたことがあったんです。私の住む鳥取県では、罹患者同士でつながれる機会や場所が限られていることもあり、私は意を決して、鳥取から大阪へ向かいました。そこで、代表理事の西口さんや会員の皆さんに初めてお会いしました。


同じ境遇の方々との出会いとコミュニケーション。すごく元気と勇気をもらえましたね。西口さんは常々、「つながりは生きる力になる」とおっしゃっていましたが、本当にその通りだなって。


そのときのオフ会の最後、勢いでこう言ってしまったんです。「山陰でもこうしたサロンを立ち上げます!」って。後日伺った話だと、それがどうやら、当日取材で来ていたとある新聞社の記事になっていたらしいんですよ。


勢いで言ってしまったものの、でも逆に自分の中でスイッチが入りました。「言ってしまった以上、やるしかないな」と。


何かを始めようとするとき、私たちはつい、「失敗したらどうしよう……」「自分にできるかな」といったネガティブな思いから、つい人に言うことを避けてしまいがちです。私もまさかオフ会の日に宣言するつもりはありませんでした。でも、経験上、人に伝えてしまったほうが、行動が加速することもあります。


オフ会から戻ってきて、サロンをつくることを周囲に伝えるようになると、徐々にですが、賛同してくれたり、応援してくれたりする方々が増えていきました。


自身が治療をしていた鳥取大学医学部附属病院さんとも、そんな流れから協力して「さくらカフェ」を立ち上げていくことになりましたからね。



Q・その挑戦は松本さんにとってどんな意味を持っていますか?
私は、医療機関に勤めていることもあり、身近にいる医療従事者や医師から親身なサポートを受けられましたし、実は主治医も、週に一度私の勤める病院にいらっしゃっていた方で顔なじみでした。さらには、ステージⅣを宣告されてなお、理事長から、「平日は体の許す限りきちんと働いて、土日は子どもたちとリフレッシュしなさい」と、継続勤務を望む私の意思を最大限くみ取った言葉をもらっていた。がん宣告後に、管理職に昇進させてもらったことも自分としては「こんな自分でも認めてもらえたんだ」と生きる力を得られました。


でも、お話を伺うと、一般の方々はそういう環境ばかりではないようです。身近に医療の専門家がいなくて不安になったり、職場の理解が得られず、思うように仕事ができなかったり……。


そんな方々に対して、医療従事者としてできること。それが私にとって「さくらカフェ」や「あさがお」という取り組みでした。幸い、理事長からも、「君だからこそできることだろう」と活動を後押ししてもらうことができました。


実際に、先日の「あさがお」の集まりでは、勤務先の医師にも来てもらって、サロンの参加者と交流を持つ機会をつくりました。診察室にいるときの医師は、どうしても患者にとって敷居が高いようですが、「本当はそんなことはない」ということを知ってほしかった。ゆったりと流れる時間の中、医師に普段はできないようない質問をしている参加者の方の様子を見て、「少しでも気持ちが楽になって帰ってもらえるといいな」と思いました。


キャンサーペアレンツや職場の中で、自分が得られた「つながりによる安心感と生きる力」。この輪を少しでも広げていくことが、今の私のモチベーションになっていますね。




◆皆様へメッセージ◆
Q・これから何かに挑戦しようとしている方に、挑戦することの重要性を伝えてください。

がん宣告前から、私は比較的ポジティブな人間だったと思っています。とはいえ、今のように、「これやります!」と宣言するまではできていなかった。どこかで周囲の目を気にしていたのかもしれません。でも、ステージⅣを宣告され、「本当に死ぬかもしれない」と覚悟し、遺書まで書いてみて気づいたんです。このままやりたいこともせずに、後悔したくない、自分らしく生きたいと。今、がん宣告されたあなたもきっと同じ気持ちではないかと思います。


あなたがつながりを求めたり、声を上げたりすることできっと応援してくれる人が出てくると思います。今後、「あさがお」や「さくらカフェ」では、オンラインでの参加も積極的に増やしていきたいと思っているので、興味のある方はアクセスしてみてください。私や参加者の方々が、あなたのご参加をお待ちしています!


……松本さん、本日はありがとうございました!


(了)


【取材日:2020年9月3日】



▼「あさがお」の活動拠点「オレンジサロンかみごとう」


【「あさがお」のパンフレットはこちらから】https://yowakai.s3.amazonaws.com/uploads/ckeditor/attachments/4431/%E6%9C%80%E7%B5%82%E7%89%88_%E3%81%82%E3%81%95%E3%81%8C%E3%81%8A%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%95.pdf