挑戦記インタビュープロジェクト

挑戦記インタビュープロジェクト

キャンサーペアレンツ会員たちの挑戦記をご紹介していきます。

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名前:伊勢上 雅世さん
仕事:病院の事務職
家族構成:夫、長女、次女、長男
疾病:悪性リンパ腫
罹患時年齢:38歳
概要:2010年に悪性リンパ腫と診断され、半年間の化学療法(抗がん剤)と放射線治療を経て現在、完全寛解中。



◆がん宣告前後◆
Q・がん宣告前後の状況を聞かせてください。

今から10年以上前の2010年のことです。当時、新型インフルエンザが流行っていて、家族も私もかかってしまったのですが、インフルエンザが治ったにもかかわらず、私だけなかなか体調が戻らなかったんです。

クリニックに行くも明確な診断は付かず、子育てが忙しかったこともあり、その後も騙し騙し生活をしていました。

いよいよ、どうにもならなくなり転居後、クリニックを受診。そこから、検査漬けの日々が1ヶ月。さまざまな検査をしていった結果、最終的に悪性リンパ腫と診断されました。

血液がんは診断が付きにくいこともあり、体調不良から告知まで半年近く経っていました。


Q・そのときの心境はいかがでしたか?

肺にあった腫瘍が検査を重ねていく中で、8cmから11cmへと大きくなっていくなど、日増しに成長を続けるがんの存在に、押しつぶされそうになる日々でした。

しかも、確定診断の次の日に抗がん剤治療のため入院したものの、気持ちがついていかず、治療直前まで「私は治療をやるつもりはない」と駄々をこね、同意書へのサインを渋っていました。


Q・そこからどのように頭を切り替えていったのですか?

そのときの担当の看護師さんが、こう言ってくれたんですよ。

「伊勢上さんは何のために入院をしているの? ここは病気を治すところなのよ。治療して治すつもりがあるのかどうか、もう一度よく考えてみて」と。

そこで冷静に考えてみて初めて、病気や治療に対して逃げ腰になっている自分に気付かされたんですよね。

そうだ、これは自分の体のことなんだ。誰も代わってはくれない。自分で決めなければいけないんだ、と思いました。

そして、気がついたらこう宣言していたんです。

「私、がんを治すために自分の意思で治療受けます!」と。

この看護師の方との出会いがなければ、私はいつまでも受け身の姿勢でしたでしょうし、治療を最後までやり切れたか分かりません。

とはいえ、実際に治療を始めると、やはり抗がん剤治療の副作用はキツイんですよね。

そんな「抗がん剤治療がつらい」「体がだるい」といった家族に心配をかけまいと抱え込んだ思いを打ち明けたのは、同室でがんの治療を受けていた高齢の女性の方でした。

その方は再発だったのですが、「一緒に朝ドラ見ようよ」とこちらの状況を見ながら自分のベッドに誘ってくれたり、時に叱咤してくれたりと、私が不安な私の気持ちに寄り添ってくれました。

このお二人の存在に大いに勇気づけられ、また周囲のサポートもあり、半年間の治療の後、無事寛解となりました。


◆挑戦について◆
Q・現在、どんな挑戦をされているのですか?

2012年から、自分の体験などを記したブログを始めました。また、15年には、読者であるがんサバイバーの方々からの希望も受け、お互い励まし合う活動をするべく、「がん・ピアサポート Camomille(カモミール)」という団体(患者会)を設立しました。

今は「がん患者向けのピア・サポート」というと、同じ境遇であるがんサバイバーの方からカウンセリング的な支援を受けることを連想される方が多いと思いますが、当時から私たちは、サポートをする人、受ける人と分けるのではなく、「相互に支え合おう」というスタンスでやってきて今に至っています。

参加者の多くは、医療者の方々とうまくコミュニケーションが取れなかったり、家族にも言えない悩みを抱えていたりしているもの。

普段は、がんに限らず、さまざまなお話をしたり、社会活動をしたりしてお互いを元気づけています。

また、時に不安などを漏らす方がいらっしゃったら、そのときはじっくりとお話を伺うようにもしています。

やはり、私たちがんサバイバーは、たとえ一度治療が終わったとしても再発・転移などの不安もあり、感情の起伏も大きくなりがちですから、ケースバイケースでかかわりを変えていくことも多々ありますね。


▼患者会でワークショップをしていたときの一枚。


Q・なぜその挑戦を始めようと思ったのですか?

前述の同室の方からのサポートは、入院後も、治療後も、私の中にずっと残っていました。

彼女は、残念ながら私が寛解してからほどなくして亡くなってしまいました。

入院中は直接対話で、退院後も電話で励ましてもらったことを思い出しては、いつか自分も、苦しんでいるがん罹患者の方がいたら支えたいと思うようになっていきました。

体の状態がなかなか上向かない中、時間はかかりましたが、こうした想いを今、形にして、さらには細々とながら継続しています。


Q・その挑戦は伊勢上さんにとってどんな意味を持っていますか?

私は、人生において、大切にしていることが3つあります。

一つは「生命」、二つ目は「生活の基盤」、そして三つ目が「精神的な拠り所」です。

私はがん罹患後、それぞれ多くの方々に支えられてやってくることができました。

ただし、三つ目の「精神的な拠り所」
については、目に見えにくい分、ついつい周囲の方からは見落とされがちです。

だからこそ、前述の2名の方をはじめ自分を精神的に支えてくれた方のように、自分も精神的な拠り所を必要な方にそういう場所を提供していくことが役目なのかなと思いながらやっています。

とはいっても、あまり気負いすぎず、それこそ「天気の話をするかのように、気軽にがんの話をしよう」ということを、Camomilleの中でも合言葉にしています。


▼がん患者支援のチャリティーイベントで。


◆皆様へメッセージ◆
Q・これから何かに挑戦しようとしている方に、挑戦することの重要性を伝えてください。

私の場合、ブログ開設まで2年、団体設立には5年かかっています。

体調のこともあり、正直挫折しかけたこともありましたが、初心を忘れることなく、なんとか一つひとつ実現してきました。

読者の皆さんも、もし何かやろうとしていたことがあったとしたら、いつから始めたとしても遅いということはないと思いますので、ぜひタイミングを見て一歩踏み出してみてほしいですね。

▼リレーフォーライフ芦屋の実行委員をしていたときの一枚。


……伊勢上さん、本日はありがとうございました!

(了)

【取材日:2021年6月18日】