8時の気温は19度。午後甲府へ仕事で出かけるが30度越えだろうか。日向は暑いが日陰はさわやかだ。野薔薇がいくつも開花していた。
8時40分K子を長坂駅まで送って帰ると近所を少し歩く。黄色や青紫のアヤメがきれいだ。ムラサキツユクサもいたるところで咲いている。紫だけでなく数は少ないが白も混じっている。白のムラサキツユクサの花芯にある雄蕊を取り巻くように生えている薄紫色の細い糸情のものが、雌蕊だろうか、何ともいい。ウツギの純白の花が陽光にきらめく。標高の低いところではとうに終わったニセアカシアが満開で、重たげに白い花房を垂らしている。
牧野富太郎「カキツバタ一家言」を読む。草木への愛ゆえに、間違いにはどこまでも厳しい人だ。植物名をカナで表記すべきはまさに一家言だろう。われわれが漢字を当てている草木の名の多くが実際とはちがうらしい。今は知らないが、牧野がカキツバタについての文章を書いた当時は、原産国中国においてどのように呼ばれているか不明だったようだ。だからカキツバタは杜若ではなく、そもそも杜若は別の植物らしいので、カキツバタはカキツバタなのである。
12時14分の電車で甲府へ仕事に行くのだが(事前の準備等用事があったので一本早い電車にした)、15分早めに家を出て、駅前の丸政でソバを食べることにした。前回は混んでいたので食事は断念したが、今日は席があった。田舎町なので食堂が少なく、数名でいっぱいになるような小さな店なのである。昨日のインターネットニュースに、長野県は蕎麦屋の数が飛び抜けて多く、駅構内の蕎麦屋も馬鹿にならないというような記事があり、丸政の名前はあがってなかったけれど、ほとんど長野県といってもよさそうな小淵沢に本店(昔、映画監督北野武がビートたけしという漫才師であった頃、司会していたテレビ番組で駅弁を企画し、丸政は一躍有名になった。現在も駅弁はかなり美味しい)のある店なので、いつも食べている店だが、それやこれやで今日も食べることにしたのである。大きな山賊揚げがのったうどん/ソバもよいが、今日はコラーチャソバを食べた。大盛り無料というのもうれしい。コラーチャとは、トロトロに煮たコラーゲンたっぷりな豚肉だが、この言葉の由来はしらない。
車中ではヴォルテール「カンディード」を読む。面白くてやめられない。例によって主人公は純粋無垢で、世界が善であるということを信じて疑わないのだが、さまざまな苦難に次々と見舞われる。天国と地獄を目まぐるしくいったりきたりしているようだ。しかしカンディードの人間性は失われることはない。徹底的な楽天主義者なのかも知れない。作者は名にし負うヴォルテールだ、アイロニーや諷刺に事欠かない。だがしかし、皮肉な笑みを浮かべているヴォルテールはその実、カンディードのように純粋無垢な人ではなかったかと信じたくなる。
甲府が何度ぐらいまで気温が上昇したか知らないが、さほど暑さは感じなかった。日差しの中を歩いていると、地面からの反射熱も強力だったが、汗をかくほどではなかった。
学校帰りの高校生たちが乗客の半数を占める電車で帰る。「カンディード」を読む。6時15分前に帰宅。まだ明るかったので、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を流しながら、ウッドデッキで「カンディード」の続きを、暗くなるまでではなく、寒くなるまで読む。
7時半夕食はオートミールで簡単に済ませ、8時10分K子を長坂駅まで迎えにいく。K子にもオートミールの夕食を作ってやる。Kは山口淑子、池部良、八千草薫などが主演の白蛇伝を基にした『白夫人の妖恋』を観はじめたが、ぼくはほとんど見なかった。