午前8時快晴気温17度。強い西風が木々を大きく揺すり、葉を激しくひるがえす。風は冷たいが清々しい。近くの立ち枯れた木を突くアカゲラの乾いたドラミングはすぐやんだ。カッコウが鳴かないのも無理はない、いつもとまって鳴いている20メートル以上ありそうな赤松が身をくねらすようにして揺れている。
富士見スキー場ゲレンデで今日明日開催されるファーマーズマーケットへ行く。9時会場だったが、われわれは10時頃ついた。広い駐車場はいっぱいで、朝一番に来た人たちはビニール袋に入れた草花をいくつも下げて帰るところだ。
会場はゲレンデの麓の広場だ。タンポポの咲く緑のゲレンデが迫り上がるように青空に続いている。南アルプス連峰のほうに視界がひらけて解放感がある。空気が住んでいるので山がくっきり近く見える。。
東屋風のテントがいくつも並んでいる。わが家の近所の花の小道やときどき買いに行く日野春ハーブガーデンなどなじみの店もある。ソーシャルディスタンスも忘れて大勢の客が花を探している。陽射しは強いがさわやかな風が吹き抜けていく。
花の選択はK子に任せる。わが家の庭はK子の趣味で作られており、試行錯誤の結果、どの花が庭に合い、どれがダメか知っているのは彼女だからだ。でも、ぼくにも好みの花があり、ぼくが欲しいといえば、たいていいいわよと承認してくれる。やはりなじみの店から多く買う。
花の小道のオヤジは、われわれが挨拶すると、まだ時刻は11時だというのに、一日が長いですという。会場からまだ2時間しか経っていないのに、とそのときは思ったが、考えてみれば、草花の搬入、会場の設定と、朝早くから仕事をしていたわけだ。
もっといろいろ欲しかったのだろうが、今日のK子は抑え気味である。とりあえず求めていたものが得られて満足のようだ。短時間で買い物もすみ、ゲレンデの草の上で休む。朝冷たい風が強く吹いていたので標高の高い富士見高原は寒いだろうと思って長袖のシャツを着てきたが必要なかった。
ゲレンデで遊んでいる人たちを見ていたら、7年前、わが家に遊びにきた兄弟2人にハングライダーを楽しんでもらったことを思い出した。ああ、こんな好天の日に、こんな場所で孫を遊ばせたい、とK子も思っていたにちがいない。
ファーマーズマーケットへ行くのにK子はおにぎりを用意していた。しかしおにぎりは帰宅してから食べた。ソバもゆでて食べる。
食後買ってきた花をK子が植えはじめたので、ぼくは庭の一画にある小さな畑にキュウリやオクタやトウガラシの苗を植える。
軽く一仕事終えた後は読書。横光利一「花園の思想」を読む。いわゆる病妻ものだ。新感覚派的、実験的作法で書かれているが、技法倒れにならず、むしろ病院内や病院の建つ地域の様子、夫と妻の愛情などが胸に迫る。