午前7時の気温は15度。天気予報通りに午後は雨になるのだろうか、曇天、湿気を含んだ風はひんやりしている。
朝食後、昨日130枚コピーした文学講座のチラシを、市内8カ所の図書館、スーパーの告知板、セルクル、八ヶ岳文化村用に仕分けし、チラシ数枚と『井伏鱒二自選全集第6巻』を持ち、散歩がてら徒歩で文化村へ行く。途中山桜や開き始めたウスズミザクラを撮影する。至るところタンポポだ。う
ウォーキング中のYさんに会う。脇芽もふらず歩いてくる。大手銀行のロンドン支店に勤めていた人で、定年後いかにも快適そうな家を建てて横浜から移り住んできた。元気な人だったが、パーキンソン病になりすっかりやせ細り、顔から表情が消えてしまった。毎日よく歩いているのを見かけるので、挨拶をして、よく歩いていますねというと、何かキョトンとした感じでもごもごと、少し、という。そうですか、は、は、は、と笑うぼくの声はいかにも不自然だった。病気は残酷だ。慰めの言葉もない。明日は我が身か。
文化村に着くと、ベリーダンス教室だという教室の前に置かれたベンチに中年の女性が座っていた。文化村の教室を借りている者同士なので挨拶する。ベリーダンスは股関節によいという。文学講座のことを話すと興味を示してくれた。チラシをわたす。
玄関のパンフレット類が並べられているカウンターの文学講座のチラシを目立つようにおく。文庫に『井伏鱒二自選全集第6巻』を返し、第7巻を抜き取る。買い揃えた全集や選集をできるだけ消化したい。サンテクジュペリ選集も持ち帰ろうか、シュオッブにしようか悩んだ末、結局『石川淳選集第1巻』にした。
昼過ぎ雨が降り始めた。長坂駅まで送ってもらい。駅前の図書館で市内8カ所分の文学講座のチラシを託す。1時15分の甲府行きに乗り、車内ではヴォルテール『カンディード』所収「この世は成り行き任せ バブーク自ら記した幻覚」を読む。ヴァルテール一流の諷刺的コントだ。
世界の諸帝国をつかさどる最高位の精霊(天使)からバブークにペルシア人の首都ペルセポリスの調査をするように命がくだる。ペルシア人の馬鹿げた所業を見いた精霊たちが会議を開き、バブークの調査結果如何により、ペルセポリスを罰するか、滅亡させるか決めようというのだ。
ペルセポリスへと旅するバブークは途中、インド軍と一戦を交えんと出発するペルシア軍と遭遇。バブークは兵士の一人に戦争の原因は何かと尋ねる。すると、兵士は「おれはなんにも知らねぇよ。そんなことはおれに関りのねぇことだ。おれの仕事は、暮らしを立てるために殺し殺されることだからな」と答える。まるでどこぞの国の兵士のようじゃないか。
甲府は、時期がちと早いが、梅雨のはしりのような雨が降っていた。仕事はちょこっと甲府の滞在時間は2時間半ばかり。仕事は楽だが、今日も何だか睡たい。
睡たいが、帰りの電車でも「バブーク」の続きを読む。バブークの評価は二転三転する。ペルセポリスのくだらぬ輩に辟易とし滅亡させるように進言しようと思うが、めずらしい良心的な人々に出会えば存続を願いたくもなる。人間とはどこまでもやっかいな存在だ。一筋縄ではいかない。だから面白いともいえる。
駅まで迎えに来てくれたK子と綿半へ行く。遅くなったが、鯉のぼりを買おうと思っており、実物が見られるならば見たいと思ったのだ。しかしあったのはオモチャのような小ちゃな鯉のぼり。店のパートのおばさんが、うちもかったのだけれど、高根の衣料品店にありますよと親切に教えてくれた。K子の旧姓と同じ屋号の、地元のご婦人方御用達の店だ。意外に広い店内だ。しかし鯉のぼりは店頭になく注文になるという。女性が今ならお安くできますよという。パンフレットを持ってきてもらい見ると、安いものでも5万円以上するし、高いののなると12万以上だ。田舎の人はこういうお祝い事にはお金を惜しまないのだろうが、われわれのような新参者には無理だ。一昨年まで揚げていた鯉のぼりを工夫して使うことにしよう。孫よ、貧しく不甲斐ない祖父母を許してくれ。
最近夕食はずっとオートミールだったが、スーパーで寿司を買って食べた。
夕食後は『ウーゼドム・ミステリー 罪深き母の操作ファイル』を2本続けて観る。いよいよこんがらがってきた。同決着をつけるのか。