Lover's Concerto -23ページ目
「つくし?」
「久しぶりパパ、ママ」
約束もせず押しかけたのは
おじいちゃんち。
両手に大荷物を持って急に現れた
私に両親も祖父も目が点だ。
「どうしたの、急に」
「……結婚やめてきた」
「「「はあ?」」」
両親と弟は素っ頓狂な声を出す。
婚約指輪も類に貰った
バイオリンすらも置いてきた。
別れるのに貰う必要ないから。
「……しばらくここに置いて」
「ちょっと、何があったの?」
「だから、彼との結婚やめて
あっちの家出てきた」
私達は距離が近すぎた。
一旦離れて物理的に距離を
置いた方がいい。
今は頭に血が昇り過ぎてて
周りが見えない。
こんな些細なすれ違いで
周りが見えなくなってるなら
一旦白紙に戻した方がいい。
喧嘩が増えてお互いの気持ちが
見えなくなったら壊れるだけだから。
携帯を見る。
不在着信が数十件。
その相手は類を除くF4。
桜子、滋さん、椿お姉さん
類のご両親、雅季先生、奈央さん。
果ては優紀や和也くんまで。
その不在着信の数はもうすぐ
3桁に届きそうだった。
本人からは一通もなかった。
もう、嫌われたとすら思った。
小さな喧嘩が増えてその度に
周りに迷惑かけてゴタゴタに
巻き込んで申し訳なく思う。
意地を張ってればそれだけ
終焉が近づくのはわかってるのに。
信用されてないのが悔しかった。
好きな人との将来の為に精一杯
頑張ろうとしてただけなのに。
理解が得られないのが悲しかった。
私にだって悪かったところがある。
優先順位を間違えたとことか。
夢中になりすぎて周りが見えなかった
ところとか数えたらキリがない。
でもあの言葉は許せなかった。。
自分との時間を犠牲にしても
優先しなきゃならないの?
そう言われた時頭に血が昇った。
バイオリンを習うことは……
習いたいと思うことは
願っちゃいけないことなの?
私にだって感情はある。
好きなのに、どうして
こうなっちゃうんだろう?
椿お姉さんとおば様にだけ
メールの返信をすると
携帯自体の電源を落とした。
私は旅館の手伝いをしながら
生活を始めた。
ここでは皮肉にもあの家で習ったことが
役に立っている。、
着物を着るようになり着付けも
自分でできるようになっていた。
とある日。
海外からのお客様が宿泊される
ことになって館内は大騒ぎになった。
この旅館に外国語を話せる
スタッフなんて居ない。
話せるのは私だけだと判明した時
裏方で働いていた私が何故か
接客することになった。
ところが
訪れた外国からのお客様とは
道明寺楓を筆頭とするF4の
両親たちだったのだ。
面識のない滋さんのご両親や桜子の
お祖母様までいる。
腰を抜かしそうになるくらい驚いた。
なんでこんな所に……みんな揃って
登場するのよ!
私は慌てて椿お姉さんに連絡をとった。
こんな異常事態本当に初めてで
どうしていいか分からなかった。
すると即日 、子供達がうちの旅館に
揃って大挙してきた。
渋る類を引っ張って。
数日ぶりに見る類は少しだけ
やつれた気がする。
「……何しに来たの?」
彼を見て開口一番出た言葉は
可愛げの欠片もない言葉だった。
「……別れたくない、俺が悪かった
もう、わがまま言わないから
お願いだから戻ってきて」
結婚やめるなんて言わないで。
精彩を欠いた表情で言われ
グッと言葉に詰まる。
彼なりに悩んだのだと思う。
ちゃんと向き合った結果
迎えに来てくれたのだから
もう少しほかの言葉があったと思う。
「こんな風に周り巻き込んで
もうしないじゃないのよ」
溜め息しか出ない。
自分の素直じゃ無さに呆れる。
本当は。
来てくれて嬉しいのに。
なんでそう口にできないんだろう。
「……ごめんね、勝手なことして
もう……嫌いになった?」
「なんない!」
全力で否定する類。
「俺はつくしじゃなきゃダメだ
だから戻ってきて」
類は本当に懲りたようで
少し元気がなかった。
「これから先類も自分の思った通り
時間取れなくなるんだよ?
それでも、良いの?」
「うん、それでもアンタがいい」
またこんな風に爆発しても私じゃ
どうしようもなくなるかもしれない。
「……わかった」
戻るよ。
花嫁修行より一足先に始まった
バイオリンのレッスン。
今日は英徳に迎えに来た
先生に車に乗せられて
どこかに連れていかれた。
着いた場所は道明氏家に
負けず劣らずの大豪邸。
どこまでが敷地なのかまったく
分からないくらいの広大な土地。
たぶん道明寺家より広い。
さすがに私も目が点になった。
「先生?ここは?」
「外よりウチの方が防音室あるから」
見るとどこかホールのような設備。
「大丈夫、ちゃんと送るから
君を連れ出すことは椿さんに
きちんと許可貰ってる」
「はい」
少し不安になったけど
先生の後について行く。
それから今日はもう1人
仲間がいるんだ」
「奈央、入っといで」
そう言われて中に入ってきた
女性がおずおずと私たちの方に
歩いてきた。
「僕の妹」
先生の妹だというその人は
ゆっくりと私の前に歩いてきた。
え?妹なのに……先生のレッスンが
必要だと言うのかしら?
「私は親の再婚でこの家に来たの
だから何もひとりじゃできないのよ」
学校から帰ってきたら
勉強の毎日だそう
ご両親の再婚前から嗜んでた
バイオリンだけは絶対に
やめたくないのだという。
だからこの家でお兄さんが
バイオリンの先生をすると聞いて
頼み込んで混ぜてもらったという。
「私は……花嫁修行の一部で……」
遠慮がちに事情の説明を始める。
「君達、価値観が合うんじゃない?」
先生は優しく微笑みながら
奈央さんに言った。
私は奈央さんと仲良くなり
西園寺家に通ってのレッスンは
苦ではなくなっていた。
先生……雅季さんも丁寧に教えてくれる。
奈央さんも雅季さんもF4と同じ年齢。
それなのに。
彼らは同じお金持ちの家に暮らしていても
三男と長女であるから跡取りとしての
重圧は無いらしい。
私みたいな素人に楽器教えても
自由に過ごせる時間があるらしい。
人に教えるのは自分のおさらいにも
なるからと引き受けてくれていた。
「つくし、今日は……」
「ごめん、今日はバイオリンの
レッスンなの!」
類が息抜きしようとお茶に
誘い出そうとする。
「こないだも同じこと言ったじゃん!」
バイオリンの後ももう色んな習い事で
予定がビッシリだった。
プライベートでのとはいえ
講師までつけての習い事と
尽く予定のすれ違う生活に類の
不満はそろそろはち切れそうな
様子だった。
「ねえ!俺との時間は?
バイオリンなら俺が教えるって!」
「でも約束しちゃったから
その後じゃダメ?」
私がそう言うと不満気に唇を尖らす。
類が拗ねるのも仕方がない。
急に詰め込んだって身にはならないよ。
彼はそう言って花嫁授業には
反対なのだ。
自分の将来の為と決めたことが
類には邪魔なものになっている。
「でも、やるって決めたんだから
最後までやりたい」
「それは俺との時間を犠牲にしても
やらなくちゃいけないことなの?」
聞き分けのない子供みたいな
ことを言われ……ゲンナリする。
「そうじゃないけど最後まで
やり遂げるって決めたことなの
お願いだから応援してよ」
ここまで意見が食い違うと
進むものも進まない。
「はぁ、わかった……もうやめよっか」
ため息とともに零れた諦めの言葉。
「やめるって?」
「類との結婚も同居も全部だよ」
「なにいってんのっ?」
「もう嫌だよ、最近顔合わせる度に
こんな喧嘩ばかりで
私が花嫁授業なんかしなきゃ
揉めることだってないでしょ?」
私のすることに文句ばかりで
頑張れって一言くらいあればいいのに
何も無いし言われるのは反対の事ばかり。
「辞めるわよ、花嫁授業も結婚も全部!
それなら文句ないでしょ!」
私は首にネックレスとしてかけてた
指輪を外して類に投げつけた。
まだ始まったばかり。
それなのに途中で投げ出して
逃げるということが何を意味
するのかくらい分からない訳じゃない。
周りを巻き込んで迷惑かけて
やっぱり辞めますなんて
タダで済むわけない。
「私は誰に認めて貰えなくても
類にだけは頑張れって言って欲しかった
一緒にやろうって背中を押して欲しかった」
でも類はそんなことって言葉で
片付けちゃうんだね?
2人の未来のことなのに……
いつも登校は徒歩なのに
類のせいで遅刻ギリギリになり
やむなく類の家の車に乗り込んだ。
「まったく、懲りてないの、アンタ」
結局、文句垂れたけど怒っても
仕方ないことがわかったから
ブツブツ言うだけに留めた。
「だって、つくしが可愛いから
イケナイんじゃん」
「……バカじゃないの、煽てても
次はないからね?」
平気で口にする可愛いの言葉。
つい可愛くない言葉が出てしまう。
あの後、終わりだと思ったら
続けて求められて結局流された。
そのせいで遅刻ギリギリになって
慌てて車に飛び乗った次第である。
「……腰、痛いんだけど……」
「後でマッサージしてあげるから
怒んないで……っ」
また私の機嫌を損ねたらまずいと
思ったのか類は必死だった。
「だって足らないんだもん」
ブツブツボヤく類。
その姿がなんだか小さな子供みたいで
可愛く思えてどうでも良くなった。
「朝からは、やっぱりダメ」
「えぇっ!なんで~」
「疲れるからに決まってんでしょうが!」
膨れっ面したその頬を摘んで左右に
引っ張って伸ばす。
「ぷっ、面白い顔」
思わず吹き出すとますますムクれる。
「引っ張って遊ぶなぁ!」
「今日みたいに遅刻ギリギリに
なったらどうするの?」
メッと睨むとわかったよと返事する。
「ホント?」
「うん、朝は我慢する」
説得に成功して思わず拳を握る。
「ん、いい子」
車を降りる直前、停車直後に私は
類に抱きついて素早く唇を重ねる。
「……約束よ?」
「うん」
耳まで真っ赤な類の顔。
そんな彼を後目に私は停まった
車から降りた。
本気で遅刻しそうだったから
校舎まで走ったのだった。
「つくしちゃ~ん?」
昼休み、ひとりでランチしてたら
お祭りコンビ+類がカフェテラスに
揃って現れた。
一気にその場所が騒々しくなる。
「お前、キス泥棒なんだって?」
口の中に入れてた物を吹いた。
思いきり噎せて口の中の物を
喉の奥に流し込む。
「な、何よそのキス泥棒って!」
「だって盗んでったじゃん俺の唇」
ニヤニヤしてる類。
ますますこいつらに言うことが
似てきたわね。
「……ああ、そうですか…そんな
言い方するならもう二度と類と
キスしないから!」
私の事怒らせんの好きなの?
それともワザとそうして気を引いてんの?
「しないのは、その先もだからね?」
ニヤリとやり返すと類の顔が歪んた。
「ごめんなさい」
勝ったわ。
心のなかでガッツポーズをする。
「弱ッ!なんで負けんだよ、類」
「アンタ達、類に変なこと教えないで
バカが伝染るでしょっ!」
ジロリとお祭りコンビを睨みつける。
「「「ごめんなさい」」」
「……座ったら?ランチまだなんでしょ?」
3人を座らせ私は席を立つ。
「ドコ行くの?」
「音楽室、バイオリンのおさらい
あ、類は来なくていいから」
私かそう言うと、ああ、今日からかと
3人が頷く。
「え?なんで?一緒にやろうよ」
「お姉さんに手配してもらった講師の方と
音楽室で待ち合わせしてるの」
今日はダメと言って席を立った。
バイオリンの先生は音楽室に
先に来ていた。
楽器を構えて調弦をしていた。
「すいません遅れました!あの…
西園寺先生ですか?」
若い男の先生。
彼は2つ年上の院生で眼鏡をかけた
線の細い男性だった。
「ああ、君が椿さんの言ってた
牧野さんかな?」
なんか怖そうな人。
眼鏡をかけた顔からは
冷たい印象しかしないけど。
とても頭のいい人なんだろうなと
いうことは分かる
「あの、初心者ですけど…頑張りますので
どうぞよろしくお願いします」
これが私と西園寺先生の初対面だった。

