きっと誰かがここに掛けたのだろう
川沿いの遊歩道の入り口
車止めのポールが帽子をかぶっていた
茶色の中折れハット
川沿いをお散歩していたおじさまのものかな
こういう落とし物って、なかなか持ち主に戻らないのよね
そんなことを考えながら帽子の横を通り過ぎる
10メートルほど過ぎたところで
わずかな違和感が私の足を止めた
ん?中折れ帽にしては形が崩れていたな
その感覚を無視してウォーキングを続けることもできたけど、私は帽子の元へ戻った
違う、子供の帽子だ
きっと幼稚園の制服の
帽子の裏を返すとひらがなの名前が貼ってあった
ポールに帽子を掛けた人が
風で飛ばないようにと帽子の頭をへこませたのだろう
この辺りの幼稚園で茶色の帽子はあそこだ
念の為ネットで画像を検索してみる
やっぱり茶色だ
私は思い切って幼稚園に電話をした
電話に出たのは優しくかわいい声の若そうな先生
拾った経緯を話しつつ、帽子の色とお名前の子が在籍しているかを聞いてみた
ドンピシャだった
私のウォーキングコースは特に決まっていないので、どこを歩いても同じこと
私は目的地を幼稚園に変え
片手に茶色い帽子を持ってウォーキングした
その間にすっかり日が落ちて辺りは暗くなっていた
職員室の明かりだけがついた幼稚園のインターホンを押す
名乗るより先に私が誰だか気付いた先生が応答してくれた
電話口に出てくれたであろうかわいらしい先生を先頭に、他の先生方も私を出迎えてくれた
「ありがとうございます!!」
「お帽子がなくなったら悲しいですもんね」
「ぜひ連絡してあげてください」
と伝えた
帽子の持ち主のお母さんには既に連絡して下さったようで
「お母様から、ありがとうございますと伝えてくださいとのことでした」
と言われた
マスク越しでも満面の笑みだと分かる3人の先生方に見送られて、私はウォーキングの続きへ足を向けた
私にも子供が2人いて、かつては幼稚園児だった
もし子供が幼稚園の帽子をなくしたら、お母さんは困るだろう
夜道に小さい子を連れて、どこで落としたか分からない帽子を探すわけにもいかないだろう
もし強い北風にあおられて帽子が川に落ちてしまったら
帽子が持ち主の元に帰ることはないだろう
もしかしたら、困っているママを見てこの子は泣いているかもしれない
運動不足解消と体力をつけるため
子供の習い事の待ち時間にウォーキングを始めたのはこの夏から
飽きないようにあちこちコースを変えて、通ったことのない道なんかを探索している
品のいい素敵な家にときめいたり
草花の美しさに気付いたり
刻々と変化していく空に心奪われたり
とにかく雑念だらけの私の頭が
その瞬間は黙ってくれるのだ
私は小さな茶色い帽子と出会った
わずかな違和感をキャッチできたのは
夏から体を動かすことをしてきて
わたしの感覚を私が受け取る通路が少し開けたからかもしれない
これ以上ないくらいのありがとうのシャワーを浴びた私は
誰よりもしあわせをいただいた
帽子を拾わなかったら会うことのなかった幼稚園の先生方
”帽子の中”で出会えた子供さん
電話の向こうで私にありがとうを贈ってくれたお母さん
昨日はめったに届かない1万歩を超えていた
私の体脂肪減っているかしらん













