のりこはプロがコーヒーを淹れるという動作を初めてじっくりと見た気がしていた。へぇ、こんなふうにやるんだ、と心のなかで感心した。そしていよいよお湯を注ぐ時、マスターがなにやら呪文のように口ずさんでいるのを目にした。あれはなんなのだろう?
「のりこさん、このコーヒーをお客様へ」
「はい」
普通ならばカウンター越しのお客様にはマスターが直接渡すのだが、ここはあえてのりこに任せてみた。
「お待たせしました。シェリー・ブレンドです。飲んだらどのような味がしたのか、ぜひ教えて下さいね」
「ありがとう。じゃぁ早速いただきます」
男性客はそう言うと、のりこに一礼をしてからカップを手にした。そしてゆっくりとそれを口に注ぐ。そして目をつぶってしっかりとシェリー・ブレンドの味を確かめる。
「うん、なるほど。そうなのか」
男性客がそう口にする。一瞬、マスターが乗り出そうとしたが、ここはのりこの出番だと思い少し待つ。が、のりこはなかなか男性客に声をかけない。マスターはすこしやきもきしながらのりこの様子を見ていた。だがのりこはまだ男性客をじっと見ている。
すると、男性客の表情が変化した。
「いや、やっぱりこっちの方がいいのか!」
〜おしらせ〜
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