うん、大丈夫だ。靖雄さんに任せてみよう。私はそう決心した。
この後もできるだけ靖雄さんにシェリー・ブレンドを淹れてもらい、私はお客さんの様子をうかがうことに専念した。常連客の中には
「あれっ、マスター交代したの?」
なんて言う人もいる。このときには冗談交じりに
「そうなんですよ。私もそろそろ引退しようかと思って」
と答えていたが、まさかそれが本当のことだとは誰も信じていないようだった。
こうやって靖雄さんの初日が終わり、お店を閉める手順を説明しながら今日の感想を聞いてみた。
「いやぁ、とても楽しかったです。こうやってお客さんとふれあいながらも、悩みや目標を聞いたりして、それをシェリー・ブレンドが手助けをしてくれる。このやりとりが私にはとても新鮮だったし、最後にお客さんが笑顔になってくれることが一番の私の喜びだってことにも気づきました」
「私と同じですね。最後は笑顔でこのお店を出ていって、そこから一歩を踏み出してもらうことが私の生きがいでしたから。ぜひ靖雄さんにこれを受け継いでもらいたいんです」
「はい、喜んでやらせていただきます」
うん、この様子ならこのお店を任せても大丈夫のようだ。安心して引退できる。