第120話 マスター その22 | 【小説】Cafe Shelly next

【小説】Cafe Shelly next

喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

「ぜひやらせてください」

 

 靖雄さんがこの答えを出すのにかかった時間は、おそらく30秒くらいではないだろうか。あのナポレオン・ヒルと同じである。このとき、私の心の中にある固まりが溶けていくような感じを受けた。と同時に、笑顔が溢れてきた。

 

 私の笑顔につられてか、靖雄さんも笑顔になっている。その笑顔がとてもいい表情をしている。お互いに未来を掴んだ、それを感じ取れた瞬間であった。

 

「靖雄さん、とてもいい笑顔をされていますよ。私がずっとそこに立って心がけていたこと、それがこの笑顔です。靖雄さんなら間違いなくできます。自信を持って下さい」

 

 そうだった。私は笑顔を絶やさずにカウンターに立っていた。しかし、ここ数日小説と向き合っているときには笑顔が出ていなかった。だからいいアイデアも出なかったのだ。

 

 よし、これで一歩前進。私の人生の転機が訪れた。こういった転機は何度目だろう。大学を出て先生になったとき、学校をやめてこの喫茶店を始めたとき、そして今。その都度、私は希望に満ち溢れていた。どれも一筋縄ではいかないことばかりではあったが、後悔はしていない。

 

 その後、妻に靖雄さんを紹介し、今起きたことを伝えてみた。