第120話 マスター その23 | 【小説】Cafe Shelly next

【小説】Cafe Shelly next

喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

「すごい、すごい!」

 

 妻は私の決断を喜んでくれた。どうやら妻にはわかっていたようだ、私が作家の道に進みたがっていることが。それを素直に喜んでくれるところはさすがだな。

 

 さらに妻はこんな事を言いだした。

 

「ぜひ私にもシェリー・ブレンドを淹れてもらってもいいですか?」

 

 それはそうだろう。今まで私が淹れたシェリー・ブレンドと同じように、魔法が使えるかどうかをその舌で確認したがっているのだ。

 

「えっ、い、いいんですか?」

 

 靖雄さんはとまどっていたが、私はこくりとうなずいた。ぜひ淹れて欲しいという合図だ。

 

「では、お言葉に甘えて…」

 

 靖雄さんは先程と同じような仕草でコーヒーを淹れていく。その姿はすでにこのお店のマスターと言ってもいいほどの落ち着き方だ。

 

「おまたせしました。シェリー・ブレンドです」

 

 そのセリフ、その仕草、完全にマスターになりきっている。いや、すでにこのお店のマスターは靖雄さんなのだ。

 

「いただきまーす」

 

 妻は私が淹れたときと同じような感じでコーヒーを味わう。そして目をつぶる。これは間違いなく、魔法が効いているな。

 

「うん、やっぱりそうだ。この道で行くのが私の願いなんだ」

 

 どうやら何かを感じたようだ。