「すごい、すごい!」
妻は私の決断を喜んでくれた。どうやら妻にはわかっていたようだ、私が作家の道に進みたがっていることが。それを素直に喜んでくれるところはさすがだな。
さらに妻はこんな事を言いだした。
「ぜひ私にもシェリー・ブレンドを淹れてもらってもいいですか?」
それはそうだろう。今まで私が淹れたシェリー・ブレンドと同じように、魔法が使えるかどうかをその舌で確認したがっているのだ。
「えっ、い、いいんですか?」
靖雄さんはとまどっていたが、私はこくりとうなずいた。ぜひ淹れて欲しいという合図だ。
「では、お言葉に甘えて…」
靖雄さんは先程と同じような仕草でコーヒーを淹れていく。その姿はすでにこのお店のマスターと言ってもいいほどの落ち着き方だ。
「おまたせしました。シェリー・ブレンドです」
そのセリフ、その仕草、完全にマスターになりきっている。いや、すでにこのお店のマスターは靖雄さんなのだ。
「いただきまーす」
妻は私が淹れたときと同じような感じでコーヒーを味わう。そして目をつぶる。これは間違いなく、魔法が効いているな。
「うん、やっぱりそうだ。この道で行くのが私の願いなんだ」
どうやら何かを感じたようだ。